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第8章「満月と三日月」【1】

 ふと、彼らを囲む円の一部がパカッと開け、敵兵がバタバタとまとめて倒れた。


 そこに立っていたのは誰あろう、ノネレーテである。


「うむ、人だかりのようなものが出来たいたから、もしかしてと思って来てみたら正解だったようだ」


 美しく輝く青い刀身の剣を携え、彼女は事もなげに言ってのける。


 状況を瞬時には理解出来なかった敵兵もようやく飲み込んで、たった一人の女剣士に敵意を向ける。


 が、近付けば“碧仙”の餌食となる。


 正面からはもちろん、左右から来ようが背後から来ようがお構いなしにノネレーテは“碧仙”を振るい死体の山を築いていく。


 パレムたち“満月と黒雲”の逃げ遅れたちは、茫然と眺めているだけだった。


「おい!」


 突然ノネレーテから声をかけられた。


「すぐに離脱しろ、そんな所で座っていると殺されるぞ?」


 気のせいか、彼女がこの場面で微笑んでいるようにパレムには思われた。


 敵兵の返り血を浴びて徐々に真っ赤に染まっていく様に、ようやくパレムは我に返った。


「あの女を援護するぞ!」


 パレムにそう命じられた部下はしかし、目を丸くするばかりである。


「俺たちが手伝わなくても、一人で勝てるんじゃないか?」


「下手に私たちみたいな素人が手を出したら、かえって邪魔になるかも…」


 馬鹿野郎、パレムは部下を怒鳴りつけた。


「足手まといになるから何だってんだ! 助けに来てくれたあの女をほったらかして逃げるってのか! そんな惨めな事で満足なのか!」


 たった一人の女剣士に数十名が斬られている、そんな異常事態に周辺の敵兵も気付いて加勢に駆け付ける。


「おお、何としてでも私を討ち取ろうという訳か、良い心構えだな!」


 ノネレーテの目が爛々と輝きを増す。


 疲れなど感じないのか、彼女の動きはまるで衰えない。


 いや、その剣技は更に鋭さを増して、手が付けられない。


 彼女の一振りで、四、五人が命を落とす。


 むしろ恐れをなしてきたのは敵兵の方で、彼女に近づく事が出来ずに距離を置く者が増えてきた。


 そこへ、パレム率いる“満月と黒雲”の十一名が駆け付けてきた。


 ノネレーテを守るように、その周囲に立つ。


「どうした、何をしている?」


 キョトンとするノネレーテの方へパレムが振り返った。


「どうもこうも、俺たちも戦うぜ」


 ノネレーテは十一名全員をぐるりと見回した。


「どいつもこいつも素人ではないか。良いのか、無駄に死ぬぞ?」


「ここであんたを捨てて逃げたら、一生後悔すると思ってな。邪魔かも知れないが、勝手にやらせてもらうぜ」


 “烈風革命軍“の面々は更にノネレーテに近寄れなくなった。


 ただでさえ、たった一人に歯が立たないのに、数が増えた。


 こいつらも同様に桁違いの強さだとしたら勝ち目はない、そんな思い込みを始めたのだ。


 ノネレーテに斬られた数は“烈風革命軍”全体からすれば、ほんの一部である。


 だが僅かな時間で一度に数十名の兵を失えば、隊列に乱れが生じるのは必然である。


 そこへ遂に、トミアの国軍が攻め込んできた。


 ぽっかりと開いた穴から強引に突撃し、敵部隊を縦に分裂する。


 そのまま一直線に敵将・コセララを目指すのだ。


「あんた、一旦下がるとしよう」


 パレムがノネレーテの手を引く。


「正規兵のお出ましとなれば、俺たちはお役御免だろうからな。それこそ、邪魔になる。国軍にソレをやっちゃあ、駄目だものな」


「そうだ、そうしよう」


「あんた真っ赤になってるよ、向こうで拭いてあげるから」


 パレムの部下は撤退に大賛成のようで、そのはっきりした態度にノネレーテはまた口元を緩ませた。


「いいだろう、小休止といこうか」




 このトミア南端の地ワジョーミット草原での戦いは、国軍が勝利を収めた。


 “烈風革命軍”の軍隊長コセララは逃亡の途中で捕えられ、数年経った今も刑務所の中にいる。


 長を失った“烈風革命軍“は散り散りとなったが、革命を諦めきれない者は多数いると思われ、まだ地道に活動を続けているとトミア本城は踏んでいる。


 件のトミア国首都ディアザでの騒乱を起こした茶色兵の中に、その残党も混ざっていたのではないかとの見方もある。

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