第7章「運命の出会い」【10】
その悪意や殺気が強かった場合、果たしてアミネの術が通用するのか否か、これはその時になってみないと分からない。
それが、アミネがいるにも関わらずゼオンが即斬り合いに持ち込んだ理由であり、ゼオンの懸念を読み取って自分を信用していないとアミネが怒った理由である。
どちらも冷静に話し合えば理解し合えるはずなのだが、どのみち今すぐは無理だろう。
とにかくエルスは自分に火の粉がかからぬように祈るばかりであった。
「ねえ、エルスはどっちが正しいと思うの⁈」
ほーら、きたー。
ノネレーテは一人で駐屯所の留守番を任されていた。
故に仕方なく独房から出ている。
トミア兵は住民からの通報を受けて出て行ったきり、ずっと帰って来ないのだ。
大層な事件でも起きたのだろうかと、彼女もソワソワしている。
仲間たちの自立の為に待つだけの時を過ごしている訳だが、そろそろ飽きてきた。
さっさと結果を出してほしいものだと。
”三日月と入道雲“の結成にあたっては、パレムとの出会いがきっかけとなっている。
トミア国の南端は隣国と接してもおらず、険しい山脈に囲まれているだけであった。
故にこの一帯にはまだ人が暮らす町も村も存在していなかった。
国はこの誰も立ち寄らない地に巨大な倉庫を建設した。
そして、その倉庫にありとあらゆる資源を運び入れた。
保存のきく食料は元より、価値の高い財宝、希少な鉱物、武器や防具など多岐に渡る。
将来、人口が増えてこの辺りにまで土地を求めて人々が押し寄せるまで、国民の誰も知らない宝物庫にしようという考えであった。
ところがどこから漏れたのか、宝物庫の位置がある組織に特定されてしまったという情報がトミア本城に入ってきた。
この宝物庫が荒らされては国の威信が崩壊する一大事と、国軍は即刻防衛の為の部隊を送る事を決定した。
決定したのだが、兵の数が思った通りには集められなかったのだ。
当時はまだ西の隣国リグ・バーグに盗賊が溢れている状態で、国境を越えてトミアに襲いかかる可能性が極めて高かった。
西の国境の守りを手薄にする訳には行かなかった。
そこで緊急の対策として、民間兵を募り、頭数を揃えようとしたのだ。
その計画は上手くいき、必要なだけの数が集まった。
その中にノネレーテがいてパレムもいた。
ノネレーテは相変わらず単独で参加しており、仲間は愛刀“碧仙”のみ。
パレムは三十名ほどの部下を率いていて、その名も“満月と黒雲”という。
作戦開始の頃はお互い見知らぬ関係であった。
一方、宝物庫を狙うのは“烈風革命軍”という名の自称軍隊である。
これを率いるのはコセララという男で、口癖は“我々は盗賊にあらず、世界を変える正しき軍隊である”なのだそうだ。
“烈風革命軍”はどこの国の所属という訳ではなく、世界各国の人間が集まった多国籍軍であった。
コセララがトミアの宝物庫を狙ったのは、成功すれば“烈風革命軍”の名を売る大きな宣伝となり、食料や資金も手に入る。
一石二鳥が目的らしい。
南端の宝物庫に先に正規兵と民間兵の合同軍が到着して、敵を待ち受ける。
そこへ“烈風革命軍”がやってきて、戦いの火蓋が切って落とされた。
一体どこから集めてきたのか、“烈風革命軍”の数は、トミア正民合同軍のそれを大きく上回っていた。
この戦力差に恐れをなしたのか、国軍の指揮官は正規兵を後ろに下げ、民間兵を盾がわりに前面に押し出すという情け無さ。
コセララの元、正規軍ほどではないにせよある程度の統率がとれている“烈風革命軍”は、すぐさま民間兵を飲み込んでいく。
パレム率いる“満月と黒雲”も例外ではない。
彼らはこの作戦に参加する為に急遽作られた集団であった。
金になるかな、くらいの軽い気持ちで参加を決めたのだ。
当然ながら何の目的も向上心もなく、仲間意識すら持ち合わせていなかった。
押し寄せる大軍に立ち向かう気概もなく、散り散りに逃げていく。
残ったのは逃げ遅れたパレムを含む十一名。
敵兵にぐるりと囲まれて万事休すといったところだ。