第7章「運命の出会い」【8】
言われてみれば、町中をかなり歩き回ったが新築の家など見た事がないとエルスは思った。
必要がないというか、家を建てる金がないのだろうというのは町の雰囲気から伝わってくる。
「それはさておき、あなたが見たっていう指名手配の男の話を聞きたいんですけど」
愚痴を繰り返すアージュに、とうとうアミネが痺れを切らす。
あのゼオンでさえ、相手が機嫌良く喋ってくれるように黙っていたというのに。
「あ、ああ、そうだったな。アイツの事はよく覚えてるよ。酒場で手配書を偶然見た後だったから、すぐに気が付いたんだ」
特徴の一つであるのが肌の色だ。
「服でほとんど隠れてたんだが、頭もフードを被ってたな、だけど一瞬左腕が見えたんだ。その白さといったら!」
絵の具でも塗っているのかとアージュは目を疑ったらしい。
「だがそうじゃない、肌の色かどうかくらいは見分けがつく。あれは間違いなく皮膚だった。きっと全身が真っ白なんだ」
もしもそんな肌を露出していたら、目立って仕方がない。
アミネも色白な方だと、ゼオンはちらりと彼女に目を向けた。
「変な目で見ないでくれる?」
素早く釘を刺されたので、ゼオンも急いで顔を背けた。
エルス自身は、そんなに真っ白な人物と出会った経験はない。
だから、世の中に数多く存在しているとも思えない。
アージュが指名手配犯だと認識したのも無理はないと思われた。
しかし、そうでない可能性だってある。
たとえ指名手配犯でなかったとしても、そんな肌を見せながら生活していたら、周りから好奇の目で見られるだろう。
どちらにしても服で隠すのではないだろうか。
アージュと別れ、三人はもう一人の目撃者の元へ向かっていた。
「例えば別人だっていうなら、この町で暮らしているって事も考えられるわよね」
アミネの言う事には頷ける。
元より商人や旅人が立ち寄るような活気のある町ではない。
チリパギは商人だが、実家があるからこの町に来ただけなのだ。
「ゼオンさん?」
先程からゼオンは押し黙ったままである。
すると並んで歩いているエルスとの間を少し開け、後ろのアミネに前へ出ろと手招きした。
「え?」
「いいから」
ゼオンは囁く声でアミネを急かした。
そこで後ろが気になったエルスが振り向こうとしたのもゼオンは止めた。
「尾けられてる」
辺りは人通りが無くなっていた。
町の外れは民家もまばらである。
その時、背後から駆け寄ってくる複数の足音が聞こえた。
「エルス、アミネを守れ」
振り向きざまにゼオンは腰の両刀を抜いて進み出た。
逆にエルスはアミネを庇う為に半歩ゼオンから退がった。
五人、いや六人の男が手に手に得物を持ち、一気に距離を詰めてきた。
エルスも剣を抜く。
一人は早くもゼオンの目の前にいた。
ゼオンは左の剣で相手の剣を弾き、その腹を掻っ捌く!
しかし他の連中は怯まず飛び込んでくる。
倒れる男の脇から腕を伸ばし、ゼオンを突き刺そうとする。
ゼオンは倒れる男の身体ごと、突いてくる男に体当たりをかました。
男の突きが横にブレる。
ゼオンはその腕を垂直に斬り落とした。
剣を握ったままの腕が地面に転がる。
今度は二人が左右に広がり、ゼオンを挟み撃ちにしようと迫る。
右から左から剣が振り下ろされる。
それを両の剣で受け止めたゼオンは素早く身を低く沈め、右にいた男の両足を水平に斬る。
その男の方へ逃げ、踵を返して立ち上がり、左にいた男を斬って捨てた。
だが残る二人がそこをすり抜け、エルスのいる方へ向かってきた。
エルスも準備は出来ている。
アミネに下がってと命じ、一人の剣に目にも止まらぬ速さで四度撃ち込み、手から落とさせる。
そしてもう一人の二の腕に突きを撃つと、エルスの剣が貫通した。
剣を落とした男は慌てて地面に手を伸ばそうとしたが、エルスに肩を斬り裂かれた。
顔面蒼白のアミネは茫然と立ち尽くしていた。
六人のうち二人はピクリとも動かない。
生きているうちの三人は傷口を押さえながらも必死に逃げていく。
両足を斬られた一人は立ち上がる事も出来ずに地面に腰を落としていた。