第7章「運命の出会い」【4】
更にこの住民は、軍が大して動いてくれない事への不満を漏らす。
「この町の駐屯所を知ってるかい? たった一人しかいないんだよ! 正規兵が常駐しているとはいえ、手が回る訳ないじゃないか。この町は、ほとんど見捨てられたようなもんさ」
駐屯所といえば、ノネレーテが容疑者として拘束されている。
我が頭領は大丈夫だろうかと、住民の話をよそに心配が募る。
「…ちょっとあなた、聞いてる?」
「あ、ええ、もちろん。その、コソ泥は盗んだ物をどう扱っているんだろうかと考えていたんです…」
「それね!」
ビシッと人差し指を立てて、住民は鼻息荒くパレムに距離を詰めてきた。
適当に喋った事がバレたのかと肝を冷やしたが、そうではないようだった。
「噂で聞いたんだけど、どうやら盗品を専門に扱う商人ってのがいるらしいよ」
「まあ、いるでしょうね…」
真っ当な商売をするチリパギとは正反対の者がいたとして、なんら不思議ではない。
むしろ疑問に思うのは、このいかにも寂れたホミレートに、そんな輩がいるものだろうかという所だ。
もっと大きく繁盛している街の方が、品揃えも充実していそうなのだが。
「ここは正規兵が一人しかいない町だからね、そんな怪しい商売をする連中が身を隠すにはもってこいだと思うがね」
胸の内が顔に出てしまったのかもしれない、住民は反論し、しかも一理あるとパレムに思わせた。
「確かにそんな奴がいたら、盗品の出所からコソ泥の情報が得られるかもしれませんな」
民家を出て、外で待っていた仲間と落ち合った後、パレムは捜索の方針を変更すると告げた。
「我々の班は盗品を専門に扱う業者を探す事にした。そこからコソ泥に行き着く可能性もあるからだ」
新旧の民家が雑多に建ち並ぶ住宅街の真ん中辺りに、新しいが全ての窓を閉め切った一軒がある。
居間には絵画や壺などの調度品がいくつか置かれており、向かい合わせに並ぶ長椅子は珍しい革張りのものであった。
長椅子の一脚には一人が寝転がり、もう片方の長椅子には一人が座っている。
「久しぶりに来たが、相変わらず何の面白味もない町だな」
「ああ、本当に時化てやがる。最近じゃ、ようやく俺を探してる奴らが現れたと思ったら、ただの素人の寄せ集めだ」
「やっぱりよ、こんな所じゃまともな賞金稼ぎは来やしねえ。俺はもっと大きな街を目指すぜ」
お前も来るか、と水を向けられた方の男は被りを振る。
「いや、まずはその三流どもを片付ける。頑張ってあちこち彷徨き回っているみたいだから、町の人間たちもそいつらを賞金稼ぎだと認識しているだろう」
「大した宣伝にはならないと思うけどな。まあ、思った通りにやればいいさ」
居間から伸びる廊下の奥には、物置きに使われていると思しき部屋がある。
部屋は真っ暗だが、扉の隙間から漏れる光がうっすらと中の様子を照らし出す。
そこには居間にあるのと同じような調度品が、埃を被ったまま収まっている。
それから、老いた男女が一人ずつ。
二人とも後ろ手に縛られ、猿轡を噛まされて大人しく座っていた。
表情までは読み取れないが、楽しくかくれんぼをしているとも思えない。
「ここの爺さん婆さんはどうするんだ? 姿が見えないから、そろそろ近所から不審に思われる頃だろう?」
「それがなあ、困った事に顔をバッチリ見られてしまったんだ。居候させてもらった礼に見逃してやろうかと思ったんだが、そうも行かなくなってしまった」
そう言う男の鼻は大きく、高かった。
「おかしな奴だ。現場じゃ見つかっても構わないってやり方のくせに、ここでは許せないってのか」
寝転がったままの男は、小さく笑う。
「俺にはこだわりがあるんでね。あんたみたいに片っ端から斬っちまうとか、俺に言わせりゃ信じられないね」
「片っ端からとか、大袈裟だ。まだ、たったの四人じゃねえか」
「死んだのが、だろ?」
今度は、もう少し高めの声で笑った。
「バレたか! 生き残った奴がいたのは誤算だったな。だけどまあ、怪我が治ったって賞金稼ぎを続けようなんて思わないだろうけどな」