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第7章「運命の出会い」【2】

 ホミレートの町の小さな駐屯所にトミア兵が戻ってきた。


 彼はそのまま奥へ向かい、独房の鍵を外した。


 扉がトミア兵によって開けられると、中にいたノネレーテがきょとんとした顔で座っていた。


「何事だ?」


「釈放だ」


 そう言われてノネレーテは独房からピョンと飛び出した。


「チリパギと話が出来たのだな?」


「ああ、そうだ。自分たちを道中ずっと付け狙ってきて、それをノネレーテが退治してくれたんだと」


 実際のところは少々違う。


 見ず知らずの集団がついてきたのは正しいが、ノネレーテは自己の判断で集団のうちの数人を殺した。


 それはチリパギからやや離れた場所での事である。


 つまりチリパギには彼らが盗賊だという確証などないのだ。


 しかしノネレーテを釈放する為に、どうやら彼は口裏を合わせてくれたようだ。


「だが危なかったぞ」


「何がだ?」


「チリパギが外出していると言っただろう? 実はあの時チリパギは町を出る為の支度をしていて、今にも出発しようとしていたんだ」


 ノネレーテが殺したのが盗賊だったというチリパギの証言のみが、彼女を釈放出来る唯一の手段であった。


 そのチリパギがいなくなってしまったら、証言は取れず万事休すとなっていた。


「あんたが引き留めてくれたのか?」


「いいや、私じゃない。死に物狂いで追いかけてきたのは、二人組の男だったそうだ」


「ふむ…二人組?」


「心当たりあるよな? 剣を二本持った大柄な奴と、少年の組み合わせだ」


 ノネレーテはぽりぽりと頭を掻いた。


「なんとも、まあ…驚きだ。そこの所、もっと詳しく教えてくれないか?」






 時は前日まで遡る。


 駐屯所の前でノネレーテがかなり不味い状況にある事を立ち聞きしていたのは、エルスたちであった。


 “三日月と入道雲”の一行とは既に顔見知りだ。


 その頭領が危機だと知っては黙っておれんとゼオンが走り出す。


 エルスにも反論は無い。


 チリパギの外出先は、彼の実家に飛び込み半ば強引に彼の家族から聞き出した。


 そこから雑貨屋に向かうと、彼は旅の支度を整えて店を後にした所であった。


 雑貨屋の主人が言うには、チリパギはこのまま町を出て行くと聞いたようだ。


 慌てて彼が向かった方向へと二人は全速力で駆けていく。


 途中でエルスは体力切れで脱落したが、チリパギが町を出る直前でゼオンが追いついた。


 チリパギは驚いたが、ノネレーテの状況を知って協力を快諾してくれた。




 もちろん、チリパギがトミア兵に話した内容はにゼオンの脚色が混ざっている。




「とまあ、そんな所だな。あんたらに声をかけるって選択肢も考えたようだが、今回は近くの町や村を点々と回る予定だから護衛は必要ないだろうと思ったらしい。」


 話し終えたトミア兵がノネレーテの顔を見ると、彼女は大いに上気していた。


「ありがたい話だ。ここで一度言葉を交わしただけの私の為に、そこまで必死になってくれるとは!」


 そして一人喜びを噛み締めた後、ノネレーテは独房へ戻って椅子に座った。


「おい、釈放なんだぞ⁈」


「悪いが、もう少し厄介になりたい」


「ここは宿屋じゃないんだけどな」


「うちの部下たちが、今頑張っている。私がいなくても何かを成し遂げられると証明する為に」


 そのはずだと信じている。


「下手に町を彷徨いてあいつらに見つかってしまっては元も子もない。どうか今取り組んでいる事に目処が立つまで、ここに匿ってもらいたい」


 もちろん一個人の勝手が通るほど、軍は甘くない。


「その独房が空いている間だけだぞ」


 ただし、このトミア兵は甘かった。





 朝になり、エルスとゼオンは日課である剣の訓練を終わらせた後、賞金稼ぎとしての活動を開始する。


 コソ泥の権利は、と言っても元々ゼオンにも無いのだが、“三日月と入道雲”の一行に譲ったので、彼らは別の賞金首に手を付ける事にした。


 今度の標的は、四人を殺害して逃亡中の男である。


 この町での目撃証言が二件ほど軍に寄せられた。


 だだし事件現場は別の町であり、必ずしも潜伏しているとは限らない。


 手配書に記されているのは、その人物の風貌や犯行に使用した剣の特徴、目撃された二箇所についてである。

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