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第7章「運命の出会い」【1】

 奥へ奥へと店主は突き進み、長い本棚の列を抜けると、たくさんの木箱が並べられた空間へアミネは招待された。


 そこでようやく店主は彼女の手を離し、木箱の方へ向かっていった。


 二段に積まれた木箱の中から、店主は迷わず一つを選んでそれをぱんぱんと叩いた。


「これを床に下ろしておくれ」


 何で私が、と首を傾げたアミネだったが、あまりにも店主が箱を叩き続けるので、ため息をつきながら言われた通りに箱を持ち上げ、床に置いた。


 木箱の天板の中央には親指ほどの大きさの木製の立方体がくっついており、それを店主が摘んで持ち上げると、天板が箱から外れた。


 アミネが箱の中を除くと、そこにも本がぎっしりと詰め込まれていた。


 なるほど、コレを売り付けるつもりなのだなと彼女は冷めた目で本を見下ろしていた。


 見下ろしていたのだが、背表紙に記されている本の題名が読めなかった。


 決して汚れているとか掠れているとかいった訳ではなく、文字はくっきりと記されているように見えた。


 だが、読めない。


 知らない文字ばかりなのだ。


「読めんだろう? 無理もない、この本は古代の王国で出版されたものだから」


 よく見ると、かつてンレムから教わった文字もいくつか混じっている。


「そうだなあ、文字の起源から教えねばならんようだ。そもそも私らが今使っている文字というのは、古代王国で使われていたものの一部だ」


 古代と現代では使われている文字の“数”が全く違うと店主は言った。


「一つの音を表す為に私らは文字を一つ書くだけだが、古代では四つも五つも文字を並べてようやく一つの音を示す」


 確かに本の背表紙に記されている題名はとても長々と二列に渡っていた。


「現代になると、五つ並んだ中から一つだけ拾い上げて、それをその音の文字としたんだ」


 間違いなく合理的である。


 しかし古代人はなぜそんな面倒な真似をと、ごく自然な疑問が浮かぶ。


「さあ、それは知らんね。どこかで古代文字を研究している先生にでも尋ねる事だな」


 この疑問は解消されなかった。


 だがこの疑問にはきちんと解答してもらわねばならない。


「私にこの本を読めって事ですよね。どうしてですか?」


「あなたにピッタリだと思ったからだよ」


「そんな説明じゃ、全く分かりません」


「あなたは、呪術師でしょう?」


 アミネは、はっと息を呑んだ。


 なぜこの人は自分が呪術師だと知っているのか?


 少なくとも、この町に着いてから力を一度も使っていないのに。


「さっき上から降りてきたんだよ、あなたが呪術師だって」


 そう言って店主は先程と同様に自分の顔と両の手のひらを天井へ向けた。


「あれで⁈」


 全く納得がいかない。


 しかし事実、店主はアミネの身分を言い当てた。


「そしてこの本の題名は“大いなる呪術”」


 店主はサラッと言ってのけた。


 アミネはもう一度背表紙を見つめた。


 知っている文字はあるのだが、全然読めない。


 だからこれが“大いなる呪術”だと言われても本当か嘘か判別出来ないのだ。


「全十三巻、ここにあるのはコレだけだよ。他で手に入るだなんて考えない方が良い。一生に一度の出会いだと認識しなきゃ、後悔するよ」




 その晩のアミネはエルスから見ても様子がおかしかった。


 食事の席でも一人黙々と料理を口に運んでいる。


 賞金首を探しているのは知っているはずなので“成果はあったの?”とか“真面目にやってるのよね?”くらいは彼女なら当然聞いてくるはずなのだ。


 そんな言葉もないどころか、一度も声を聞いていないのだ。


 ゼオンも不安げに彼女の顔をちらちらと盗み見ている。


 それからエルスに目配せをするのだが、当然彼も首を横に振るばかりであった。


 彼女の目は焦点が合っておらず、無表情を貫いているので機嫌が良いのか悪いのかすら読み取れない。


 良いなんて事はないだろうが、せめて怒っているのかどうかくらいは知りたい所である。


 それでもエルスは絡まない事を決めているが、ゼオンは気になって仕方がない。


 だからといって話しかける勇気など、あるはずもない。

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