表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/130

第6章「ノネレーテは頭領です」【8】

 リグ・バーグ国、首都リグ・エ・バーグ、本城デ・ファルシオ。


 東のリグ地方と西のバーグ地方との境界線に位置する首都の中心部に本城があるのだが、そこもまた境界線上である。


 敷地面積も境界線で二分され、全く同じ。


 国内最大のデ・ファルシオ城には当然ながら大小さまざまな部屋があり、その中には騎士団長メイザロームの執務室がある。


 騎士メイザロームは国内最強の剣士と謳われ、かの副将軍ネルツァカをも凌駕すると言われている。


 その彼を訪ね、同じく騎士ユドードが執務室に現れた。


「戻っていたのか。国境警備とやらはどんな具合であった?」


「ふん、どんなも何も、ただの胡麻すり行列よ。朝昼晩と酒盛りを延々と続け、実際の視察は国境に着いたら即終了ときたもんだ。一体全体、どういうつもりか⁈」


 書類に走らせていたペンを止め、メイザロームは憤懣やる方ない様子のユドードを見上げた。


「その印象通りだ。端っこの連中が中央の我々に胡麻を擦りたいが為の、恒例行事というやつだ」


 本来は役人たちが呼ばれているのだが、この時期は会議が多いやら何やらで、我々騎士にお鉢が回ってくる事があるとメイザロームは言う。


「私も行った事がある。良い休暇を貰ったと喜んで視察に行ったものだが」


 同様に役人たちも羽根を伸ばせると両手を上げて志願するようだ。


「副団長になって初めてともいえる大きな任務だと思っていたのに!」


「真面目にやっていたのは終戦から三、四年くらいまでだと聞いている。まさか、知らなかったとは驚きだ」


 本城で公式に発表するような内容ではないのだが、暗黙の了解で代々語り継がれているようだが。


 例えば、団長や副団長のような地位でなくともという意味である。




「それはさておき、元副団長の行方について、新たな情報が入ってきた」


 ユドードは妙な表情になったが、すぐに口を開いた。


「まだ帰ってきていなかったのか⁈」


「その通り、お前が接待旅行へ出かける前に姿を消し、お前は戻ったというのに奴はまだ戻っておらん」


 書類を上から下までサッと目を通して署名をする、この作業を繰り返しながらメイザロームはそう語った。


「信じられん。まさか新情報というのは、死体でも見つかったって話か⁈」


「いいや、どうやら生きておるようだ。しかし、リグ・バーグにはおらんらしい」


 リグ・バーグ正規軍の上層部で一部人事異動が実施された。


 その内の一つが、正騎士団の副団長交代である。


 そこで新たな副団長に任命されたのが、ユドードであった。


 一方“元”副団長のロッグディオスはこの人事を受け入れる事ができず、任命式を待たずして失踪した。


「どこだ、駄々っ子の恥知らずは一体どこの国へ逃げて行ったんだ⁈」


「トミアだ」


「隣じゃないか、だったら今すぐ連れ戻せばいい。なんなら俺が行ってもいいんだぞ」


「まあ待て」


 ようやく全ての事務処理を終えたメイザロームは、首を回して解放感に浸っていた。


「トミアへ行った、までしか分かっておらんのだ。ご存知の通り、トミアは広い。足取りを追うにしても時間がかかる」


「副団長を降ろされたから家出しましたなんて事が他国にバレたら、我が正騎士団が笑い者になるのだぞ! 人手を増やしてでも即刻見つけ出すべきではないか!」


 無茶を言うな、とメイザローム。


 派手に動けば、それこそ他国の目に止まる。


 ユドードは部屋をウロウロと歩き回り始めた。


 ずいぶん長く怒っていられるものだな、とメイザロームは感心するばかり。


「お前も少しは交流があったはずだ。奴の人となりはどうだ、金遣いが荒かったとか何かないか?」


 ピタッと足を止めてユドードは考えた。


「金に執着する場面などお目にかかった事はない」


「そうか…」


「だが手癖の悪さは気になった」


「手癖が悪い、それはどんな風にだ?」


「他人のものを勝手に持っていってしまうのだ。決して高価なものには手を出さず、ペンだのコップだのといった簡単に買えるものばかりだ」


 だからといって持っていってしまっていい訳ではない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ