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第6章「ノネレーテは頭領です」【6】

 パレムは観念したかのように、自分たちが賞金首を捕まえて報酬を手に入れようと考えていると告げた。


「そんなこったろうと思った」


「ゼオンさん、それよりも…」


 エルスはゼオンの腕を掴む。


「“三日月と入道雲”年って覚えてないんですか? 昨日、駐屯所に来た女の人!」


 しばらくじっと思い出していたゼオンだが、不意にカッと目を見開いた。


「そう言えば、あのノネなんとかっていう、立派な得物を持った女剣士も同じ事を言ってたな」


「ノネレーテか? だったら俺たちの頭領だ」


「なるほど、確かに堂々としていやがった。頭領だったのか」


 その頭領がしばらく戻れないと、宿の主人を通じて正規軍からの伝令が届けられたのは昨日の事である。


「ふむ、じゃあこれは頭領が戻ってくる迄の小遣い稼ぎってところか」


「大雑把に言えば、その通りだ。頭領の留守を預かる間、何もせずに待っているだけなんて訳にはいかんだろう」


 とはいえ、指名手配されている賞金首が酒場みたいな人目の多い場所に来るとは思えないとゼオンは言う。


「そりゃ、そうだろ。自分の似顔絵が貼り出されているかもしれねえってのに、のこのこ顔を晒しに来るなんて、よっぽどの大馬鹿野郎しかいねえよ」


 それはさておきとゼオンは自分たちの方の事も語る。


「俺たちは賞金稼ぎだ。本職のな」


 エルスは、まあいいや、と口を挟まなかった。


 ところがゼオンは首都ディアザでの騒動についても話し始めたのだ。


 ディアザ市がフェリノア王国の元“六角”エスリルケ率いる茶色兵に占拠されたのだが、自分たちの活躍で奪還に成功したのだと。


 そんな大活躍なんてしていない、せいぜい茶色兵を数人倒した程度じゃないかと、エルスは呆れる。


 “三日月と入道雲”の面々は、そんな話を聞いてもキョトンとしている。


 そもそも首都が乗っ取られた話自体、寝耳に水だったのだ。


「おいおい、国の一大事だってのに知らないってのか?」


 この町はディアザとそれほど離れていないのだから、重大な一報なら届くはずだとエルスも少々意外であった。


「この町はそこまで見捨てられてんのか?」


 空気を読めないゼオンだが、これは酷いと声を潜めた。


「きっと一大事だからこそ、ですよ」


 ここホミレートの町だけではなく、他の町や村でも知っている人は多くないという事だろうとエルスは推測した。


 首都が乗っ取られたなどと知られたら、国の威厳は地に落ちる。


 それを防ぐ為、箝口令を敷いたとしたなら、彼らが何も知らなくても不思議ではない。


「本当に、そんな事が?」


「いや、そんなはずないだろう」


 ゼオンが余計な事を口走ったせいで、彼らの中でいらぬ混乱が生じてしまった。


「うむ、まあ…」


 それはゼオンも自覚して困っているようだが、エルスが助ける事はない。


「いや、すまん、冗談だ。全部、冗談だ」


 しーん、と静まり返る。


 冗談だとして無かった事にしようなどとは、アミネがいたら大目玉を喰らう場面である。


「あんたらはトミア人じゃないな?」


 “三日月と入道雲”の一人が立ち上がるが、その顔は決して穏やかではない。


「他国の者に、首都が乗っ取られたなんて冗談を言われて笑う奴がどれくらいいると思ってやがるんだ⁈」


 もちろんである、むしろ馬鹿にされたと思う方が多いのではないだろうか。


 仮に本当だと押し切ろうとしても、信じてもらえるかどうかは不明だが。


「すまなかった。あ、あの、調子に乗ってしまった…」


 とはいえ、ゼオンは現在嘘をついている真っ最中なのだが、さてどうしたものかとエルスも思案する。


「すいません、連れが失礼しました」


 仕方なくエルスも立ち上がり、ゼオンと共に謝罪する。


 二人揃って深々と頭を下げてしばらくすると、もういい、とパレムの声が聞こえてきた。


 許してもらえたかどうかは別として、幕引きはしてもらえたようである。




 ひとまずはゼオンの奢りで全員に酒を振る舞い、機嫌を直してもらおうと試みる。


「こんな場面は、どうしたらいいんだ?」


「ちょっと意外でした」


「何がだよ?」


「押し切るとか開き直るとか、とにかく喧嘩になるんじゃないかと思っていたので」

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