第6章「ノネレーテは頭領です」【5】
「そうね、どっちとも言えないわ。ここ数年、使う能力に自分で上限を決めて、それ以上使わないようにしてきたから」
だから成長が続いているのか止まってしまったのか自分でも分からないのだとアミネは言う。
「それはつまり、成長が止まってるのを知るのが嫌だから確かめようとしないって事か?」
「ゼオンさん、そろそろ帰りましょう」
エルスは立ち上がり、ゼオンの前に身体を割り込ませた。
どうしてわざわざそんな事を聞くのか。
どう考えているかなんて、当然本人は知っているのだ。
それを答えさせる事にどんな、誰に得があるというのか。
酔っているなど何の理由にもならない。
「そうよ、その通りよ」
アミネは答えたが、様子がおかしい。
「私、全然若いのに、この程度で成長が止まってたらどうすればいいの?」
目は潤み、何度も鼻を啜っている。
「呪術師とか偉そうに言っておいて、術をかけられるのは数人だけって、非力過ぎない⁈」
こっちも十分に酔っていた。
「そんな理由でうじうじしてたのか。自分の限界を知ろうともしないで止まってたら、人としての成長だって止まったままじゃねえか」
エルスが壁になっているのでお互いの姿は見えていないはずだが、お構いなし。
言い合いを止めるのを諦めたエルスは、二人を残して宿へ帰っていった。
翌朝、ゼオンもアミネも二日酔いに苦しんでいるだけで、エルスが見る限り昨晩の事は何も覚えていないようであった。
ベッドでうんうんと唸るアミネはそのままにしておいて、エルスとゼオンは外で剣を振って汗を流す。
汗と一緒に酒も流れ出たのかどうかは不明だが、ひとまずゼオンはすっきりとした表情になっていた。
その後、エルスとゼオンは町へ繰り出した。
「闇雲に探したって見つかる可能性はほぼ無いと言っていい。だが、昨日見せてもらった資料の中に、奴が犯行を行った場所に印が打ってある地図があった」
短い時間だったが、そんな所までよく見ていたなとエルスは感心した。
「ざっくりだが町の南東に多く出没しているようだったな。だからそっちで住民に聞き込みをするつもりだ」
その前に、とゼオンは昨日の酒場へ足を踏み入れた。
まさか、また酒を飲むのかと思ったエルスだったが、今は飯を食うだけだとゼオンは言った。
まだまだ朝の時間帯だというのに、店内の席はいくつか埋まっていた。
するとゼオンは足を止め、その内の四人で座っているテーブルの一つに近付いていった。
「お前ら、昨日の夜もいたな」
「な、なんだよ。別にいいだろ」
急にゼオンから声をかけられた男は戸惑っているようだ。
「あっちとあっちもいた。仲間だろ、お前ら」
ゼオンは二つのテーブルを指差した。
四人と、三人だ。
少し離れていた為、別々の客だとエルスは思っていたが、どうやら違うらしい。
「お前、何者だ⁈」
ふん、とゼオンは鼻で笑う。
「最初、俺が入ってきた時はお前ら全員が俺を睨み付けてた。ところが、後からこいつが入ってきたのを見て視線を逸らしたな。全員同じ動きだったからすぐ分かったよ」
先にテーブルの席に座っていたエルスの元に、ゼオンもやってきた。
「だから、お前は何者なんだよ⁈」
もしも殴り合いの喧嘩にでも発展してしまったら、真っ先に逃げようとエルスは決めていた。
「誰を待ってるのか知らねえが、そんなんじゃ相手にばればれだぞ。せめて人数を減らして目立たないようにした方がいい、と俺は思うけどな」
苛立って立ち上がっている者とは別に、顔を見合わせている者もいる。
「確かに、あんたの言う通りだ」
いきり立つ仲間を落ち着かせ、この中で一番の年長者らしき男が口を開いた。
「俺たちは人を待っている。だが、そいつの顔を誰も知らんのだ」
だから店に人が入ってくる度に、全員で凝視しているのだという。
「私はパレム。ここにいる“三日月と入道雲”という傭兵団の副頭領をしている」
あれ、とエルスは反応した。
「どうにも傭兵団っぽくない名前だが、まあいい」
あれ、ゼオンは気付いてないのか。
「ぴりぴりした空気がじゃんじゃん伝わってきやがる。本当に逃げられちまうぞ」