第6章「ノネレーテは頭領です」【4】
「なるほど、一人駐屯所の兵士にしておくのは勿体ないと褒められたのだと思う事にしようか」
「おお、大人の対応というやつだな。私としては良い出会いだと間違いなく思える」
しかし、これでは話がちっとも進まないとトミア兵は言う。
「確かにこのままでは時間だけが悪戯に過ぎていくだけだな。まあ、いいだろう。私が、やった」
「殺したと認めるのだな?」
「ああ、私が奴らの頭と胴体を斬り離したのだ」
「“三日月と入道雲”全員で、という意味だな?」
「それは違うぞ。私一人でやったのだ」
むむ、とトミア兵は眉間に皺を寄せる。
「ノネレーテ、あんたは頭領だ。部下の者たちを守りたいという気持ちは分かる。いや、若しくは、見栄を張りたいだけかもしれんが」
「私は部下思いでもないし、見栄っ張りでもない。一人でやったのだ、実際」
それからノネレーテは、当時何があったのかを事細かにトミア兵に語った。
調子が良ければ同じ時間で全員やれたというのは、さすがに言わなかった。
「こ奴らが盗賊だというなら、何も問題はない」
「そうか、それは良かった。では私はそろそろ帰らせてもらおう」
そう言って椅子から立ち上がろうとしたノネレーテを、“まだだ”とトミア兵は割と強めに止めた。
「あんたの話が正しいかどうかを調べねばならん」
それまでは身柄を拘束すると、トミア兵は言う。
「それは困った。部下たちには出かける事さえ話してないのだ。心配して町中を探し回っているかもしれん」
「宿の主人には、あんたの仲間に“頭領は軍の駐屯所へ行った”と伝えるよう頼んでおいた」
「お世辞抜きで優秀だな」
小屋の奥には鍵がかけられる扉のついた部屋があった。
外から見た時は、こんな部屋があるような大きさの小屋には見えなかったとノネレーテは感心していた。
が、狭かった。
椅子が一脚置いてあり、それを囲むように壁が立っている。
つまりは座っているだけしか出来ない、寝転がるのは到底無理だという事。
「もちろん時々は出してやるつもりだ。座ったままでは身体が硬直してしまうからな」
当然、自身の剣も没収される。
身の潔白が証明されれば、直ちに釈放して剣も返却するとトミア兵は彼女に約束した。
「仕方がない、しばらく厄介になるとしようか」
トミア兵は彼女の剣を棚の上の方へ丁寧に置いた。
それからノネレーテは独房の椅子に座らされ、扉に鍵がかけられた。
中は思った以上に窮屈で、直ぐに出たくなったが、そういう訳にもいかない。
その知らせは“三日月と入道雲”の面々にも、宿の主人を通して伝えられた。
彼らにとっては驚くしかない状況である。
「あんなの一人駐屯所だろ、俺たち全員で襲えば簡単に救出出来るじゃないか」
乱暴な事を言う者もいたが、当然パレムは反対した。
「その後、俺たちはトミア軍に追われる事になる。そうなったら勝ち目はないぞ」
「うちには無敵の頭領がいるじゃないか」
「その頭領は大人しく拘束された。どういう意味か分からん訳じゃないだろう?」
疑いはすぐに晴れるとパレムは全員に言って落ち着かせた。
その間に指名手配のコソ泥を捕まえよう、そして釈放された頭領を驚かせてやろうと。
「俺たちだけでも出来るって所を見せてやろうじゃないか」
全員のやる気が一段上がったようにパレムは感じた。
たまには捕まるのも悪くないと、ノネレーテが釈放されたら言ってみようかと思うパレムであった。
呪術師は訓練をしないのか、夕食の席でゼオンがアミネに問い掛けた。
「まあそりゃ、訓練をする事で多少は力が上がったり、使うのに慣れるなんてのはあるだろうけど、それで飛躍的に成長するって事はないわ」
呪術師の能力の上昇は、あくまで年数なのだとアミネは言った。
「ある時、自分に力があると自覚してからの年数よね。自覚する年齢は人それぞれだし、上昇具合も人によって違うから」
死ぬまで上昇し続ける者もいれば、すぐに止まってしまう者もいるようだ。
「アミネはどっちなんだ?」
空気の読めないゼオンである。
エルスはひやひやしている。