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第5章「オパッセの目撃談」【9】

「そうですね。入院が長引いた分、たくさんの見知らぬ人から声をかけられて大変な時がありました」


「そんな事言ってんじゃねえんだよ。ベッドに寝かしつけられて、穏やかな日々を過ごしちまっただろ? それって、剣士としてどうよ? って話だ」


 エルスは目を泳がせた。


「せっかくあんなに強いヤリデルと戦って、大きな経験を得たんだぞ。それなのに何もしないってんじゃあ、勘が鈍っちまう。そうは思わねえか?」


「それがエルスを賞金稼ぎに引き摺り込む為の口車って訳ね」


 間髪入れずにアミネが割って入ってきた。


 ゼオンはそーっと横を見てみたが、気のせいか彼女は怒っていないように感じられた。


「いいのか?」


「どうせ止めたって強引にやらせるつもりでしょう? それに、確かに勘を取り戻すのは必要だと思うし。これからだって何があるか分からないものね」


「おおー」


 思いもよらぬ援護射撃を賜り、背中にびりびりと熱い痺れを感じるゼオンであった。


「ただし、無茶はしないで」


「分かってるさ」


「キオ・マシュルがどうとか言ってたけど、そういう変な所に首を突っ込まないように」


 あくまでエルスが、この先に待ち受けるであろう難局を乗り越えられるだけの知識や技術を身につける為だとアミネは割り切った。


 本人のやる気はともかく。








 トミア国を北上する隊商の一団。


 馬車が五台とそれらを取り囲む護衛の騎馬十二騎。


 隊商を率いるのは商人のチリパギである。


 家族と共に各国を旅して周り、この度生まれ故郷であるトミアへ帰ってきた。


 トミア国内での護衛の為に雇ったのは、傭兵団“三日月と入道雲”である。


 総勢十二人の傭兵団の内訳は、女三人、男九人。


 頭領は女剣士ノネレーテ。




「頭領、南西からガラの悪そうな連中がこちらを追いかけて来ます! どうしますか⁈」


「決まってる、盗賊ならぶっ潰すまでだ!」


 東の隣国リグ・バーグと違って、トミアは治安が良く盗賊の数はその三分の一とも言われている。


 それでも盗賊に出くわすとは、チリパギの運が悪いのか。


「数は十七、八といった所です!」


「いいだろう、私が一人でやる! お前たちはチリパギ殿を安全な場所へ避難させろ!」


 先頭にいたノネレーテは隊商から外れ、一行に近付く集団を待ち受けた。


 彼女の部下十一名は隊商を守りつつ、さらに北上していく。


「ご武運を!」


「おう、取りこぼしの処理は任せる!」


 そう言うとノネレーテは高らかに笑った。


「なあ、ノネレーテ嬢だけで大丈夫なのか⁈」


 馬車の窓から顔を出して、チリパギは心配そうに傭兵の一人に問いかけた。


「一人や二人くらい加勢に行ってやってもこちらに影響はないだろう」


「頭領を心配いただき、誠に恐縮です。ただし、一度頭領が一人でやると言ったら、誰も割り込むなんて出来ません。邪魔をするなと怒鳴られてしまいます」


 彼女の部下パレムはチリパギの申し出を丁重に断った。




 十七、八人の集団は各自馬に乗り、ノネレーテの目の前までやって来た。


「何だ、あいつは?」


 その内の一人が単騎の女剣士を珍しげに眺めている。


「お頭、ひょっとして俺たちと遊びたいって所じゃねえですかい?」


「なるほど、そりゃあいい。その間に雇い主を逃がそうって魂胆か。だったら存分に遊んでやろうじゃねえか!」


 男たちの目の色が変わった。


 溜まったモノを吐き出したい欲求に駆られた血走る目だ。


「盗賊、確定だな」


 ノネレーテは自身の剣を抜いた。


 その刀身は誰も見たことがないような、青く美しい輝きを放っていた。


「行くぞ、“碧仙”!」


 あっという間にノネレーテは男たちに囲まれてしまった。


「姉ちゃん、自分の身を挺して仕事を全うするなんて見上げた度胸だ! その意気に免じて、しっかりお前さんを味わってやろう!」


 下卑た笑いがあちこちから聞こえてくる。


 ところが、その笑いはすぐに止まってしまったのだ。


 通る隙間のないような馬と馬の間を一瞬にしてノネレーテの馬が駆け抜けると、左右にいた男たちの頭が、ぽろりと首から落ちた。


 即座にノネレーテは馬を回頭させ、別の馬同士の間を抜けて再び輪の中へ突っ込んだ。

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