第5章「オパッセの目撃談」【6】
「俺が見たのはここまでだ。それ以上は何も知らん。話は終わった、さあ帰ってくれ」
黙って聞いていたリャガだったが、納得出来ない事がある。
「私の仲間は正規兵だ。そんな彼らが全員…」
「あん? 女にやられたのが気に食わないってのか。いいや、世界は広い。男に比べりゃ数は少ないだろうが、強い女剣士だっているだろうさ」
「違う、そこじゃない! 正規兵が何もせず、ただ殺されたなんておかしいじゃないか!」
「知らんと言っただろう。俺は見たままを喋ったまでだ」
もう一度、さっさと帰れと言おうとしたオパッセに、今度はシャラディーが木箱から立って詰め寄ってきた。
「本当に、その話全てが事実なのですか?」
舌打ちをしたオパッセは彼女を睨み付ける。
「何だよ、今の話は秘密にするって約束だよな? だったら俺についての事も漏らさず頼むぜ」
「違います、あなたの事なんてどうだっていいんです!」
「どうだっていいって…」
「事実なんですね?」
「嘘は一つも言ってないよ」
するとシャラディーは扉の方へ向き直り、リャガにこう言った。
「出ましょう、リャガ。あなたに言わなくてはならない事があります」
当のリャガは考える事が多過ぎて混乱し、気持ちが沈んでしまっていた。
そんな彼の腕を引っ張って無理矢理立たせたシャラディーは、オパッセを残してぼろ家を出て行った。
草地で待ち侘びていたケベスたちと合流し、シャラディーは住宅街の一画にある大木の元へ戻ってきた。
「一体どうしたというのだ? 奴の家から出てきたと思ったら、二人とも黙ってここまで歩いてくるとは」
「申し訳ありません。どうしても急いでここへ来なければと思ったので。内密のお話しをしなくてはならないと思ったので」
「しかし、リャガの方は腑抜けた面をしているように見えるが、気のせいか?」
名を呼ばれてリャガはスッと顔を上げた。
「いえ、私は頭の中がごちゃごちゃしてしまい、それを収めるのに必死でした」
シャラディーは少し心配そうにリャガを見つめていた。
「大丈夫だ、シャラディー。まずは私がオパッセから聞いた事を皆んなに伝えようと思う。そうすれば少しは整理がつくかもしれない」
確かに彼の表情は少し前より変わって、持ち直したと言っていいだろうと思われた。
それからリャガは、オパッセとの出会いから彼の話した事まで全てをケベスと仲間たちに語った。
途中、シャラディーに確認したり、逆にシャラディーから補足をされたり、意味合いも違わぬよう慎重に話した。
リャガの話が終わった時のケベスたちの顔は、オパッセから話を聞いた時のリャガと同じであった。
「むむ、いや、分からんではないぞ。本国ではほとんどおらんが、他国では女兵士が年々増加していると聞いた事がある。だったらその中に猛者がいたとしても…」
そこは理解している、それもリャガと同じであった。
「だが、ぼんやり見ているだけで斬られたとは、そんな兵は我がバドニア軍にはおらん!」
そこも同じで、ややホッとしたリャガである。
「オパッセは金に汚く信用に値しない男であるのは間違いないでしょう。ただし、嘘を言っているようには思えませんでした」
「では、何故?」
「それは、分かりません」
「ではここからは私の話を聞いていただけますか?」
シャラディーが手を挙げた。
「あくまで推測なのですが」
「今はどんな話でもいい、聞かせてくれ」
促したのは、ケベスであった。
ところがシャラディーは踵を返し、リャガたちから距離を取った。
「え、話すんじゃないの?」
茫然と見守る彼らの少し先でシャラディーは足を止め、くるりと振り返る。
次の瞬間、彼女はリャガの目の前に立っていた。
「!!!!!」
声も出せぬまま、最大限の驚きを見せたのはリャガだけではなく男たち全員であった。
「い、今のは…?」
「恐らく、今と同じ事を殺されたお仲間のみなさんは経験されたのだと私は思います」
「いや、だから、今のは何だ⁈」
第一声はケベスである。
「私は、呪術師の能力を待っています」
「君は呪術師だったのか」
今度は、リャガ。