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第5章「オパッセの目撃談」【3】

 リャガが睨みを効かせると、ケベスは渋々そっぽを向いてまた離れていく。


「すいません、出しゃばってきて。しかし、確かにそこは重要な所です。ぜひ、お聞かせ願えませんか?」


「ええ、構いません。そうですね、難しい話ではありません。彼は仕事以外で町の外へ出るのを禁じられているのです」


 禁じているのは、軍である。


 仕事中であれば、彼の雇い主が逃げ出さないように監視をするのだ。


 軍からの命令ゆえ、雇い主は目を離す訳にもいかない。


 もしも逃したら、雇い主も罰を受ける事になる。


 それでも雇い続けているのは、賃金が通常の三分の一でいいからだ。


「仕事中なのかそうでないのかは分かりませんが、どちらにしても監視の目を盗んで外に出て、あなたのお仲間が連れ去られたのを目撃した」


「つまり、勝手に町の外へ出たのがバレてしまうのを恐れ、彼は証言を拒否するという事ですね」


 ちなみに監視はシャラディーだけで行うのではなく、もう一人の同僚と交代で一日おきに行うらしい。


「もしも私が監視をしている時に外へ抜け出したとなれば、もちろん私も罰を受けます」


「シャラディー、私はあなたに迷惑をかけるつまりは毛頭ありません。何があったのか知りたいだけなんです。どうか協力してもらえませんか」


 自分たちの動きがコルス軍に知られれば、こちらも厄介な目に遭うのだから、全てを内密にするとリャガは誓った。


「リャガや皆さんの切羽詰まった内情は理解できたつもりです。攫われた呪術師のみんなが無事かどうかも、とても気がかりです」


 だからこんなに話してくれたのかとリャガも理解した。






 彼らの話し合いに参加しなかった四人は、こっそり草地に戻ってオパッセの監視を続けていた。


 それに関してシャラディーは今度はとやかく言わなかった。


 すっかり協力してくれる方針に傾いてもらえたようだ。




 ぼろ家にオパッセはいるらしい。


 此処でもリャガとシャラディーのみで彼に会う事になった。


 ケベスも草地で待たされる事となった。


 ムスッとしているが仕方がない。




 リャガとシャラディーの二人は、草地の中央を通る一本道を歩いてオパッセの家へ向かった。


 扉もまたぼろぼろで、上下に付けられている蝶番は両方とも今にも外れてしまいそうだ。


「オパッセさん、私です、シャラディーです。少し遅くなりましたが、定期報告を頂きに上がりました」


 扉を軽く叩いた彼女は中のオパッセに声をかけた。


 一日一回、オパッセは今日あった出来事を“寝ずの番人”に日誌を書いて提出する事になっている。


 リャガたちと出会わなければ、シャラディーはこれを済ませていた頃だろう。


「後ろにいるのは誰だ?」


 中から抑揚のない声が返ってきた。


 扉は穴だらけなので、このうちの一つから外の様子を覗き見ているのだろう。


「この方はバドニア軍のリャガです。先日あなたが見たというバドニア兵のお仲間だそうです。その時の話をあなたから聞きたいと、やって来られたのです」


 しばらく返事がなかった。


「そんなの、知らん。酔っ払って適当に喋ったのかもな」


 確かに彼女の言う通り、オパッセは話さないつもりのようだ。


「町の外へ出た事を報告したりしませんから、話してあげてもらえませんか?」


 やはり返事は遅い。


「それがご褒美だって言うのか?」


 シャラディーは振り返ってリャガと目を合わせた。


 リャガは懐から皮袋を取り出し、中を彼女に見せた。


 そこには銅貨が詰まっていた。


「もちろん、お礼は別にお渡しします」


 リャガは皮袋を上下に振って、中の銅貨の音を聞かせた。


 しばらく、聞かせた。


 すると不意に扉が開いた。


 そこには髪や髭が伸び放題になった男が立っていた。


 少し、臭う。


「オパッセさん、ですね? ご協力、感謝します」


 そう言ったリャガに、オパッセは右手を差し出した。


 手のひらが上を向いている。


 リャガは彼の手に銅貨の詰まった皮袋をそっと置いた。


 その途端オパッセは右手を引き、すぐさま皮袋の中身を確認する。


「中へ入ってもよろしいですか?」


 中身が全て金だと分かるまでしつこく探っていたオパッセは、顔を振って“入れ”と二人を促した。

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