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第5章「オパッセの目撃談」【1】

「何というか、胸くそ悪い話ですね」


 住民に拒絶されて当然だとリャガは思った。


「あなた方はどちら様ですか?」


 声のする方へ振り返ると、そこには見知らぬ女性がいた。


「あ…」


 固まってしまった。


 こちらはリャガやケベスを含めて六人。


 その誰もが、彼女の接近に気が付かなかったのだ。


「もう一度お尋ねいたします。あなた方はどちら様ですか?」


 声の大きさは変わらないが、先ほどより口調がゆっくりになった。


「ご覧の通り、バドニア軍だ」


 正規兵の鎧を着ているのだから、これで良い。


 わざわざガーディエフ軍だと言う必要はないし、彼女はガーディエフ軍の存在さえ知らないだろう。


「分かりました」


 見た目はソエレくらいの若さだが、彼女と違って淡々としているように感じられた。


「今すぐこの雑草地帯から退出して頂いてよろしいでしょうか?」


 ケベスはむっとした表情になった。


「我々に出て行けなど、どうしてあんたにそんな事を言われなければならんのだ⁈」


 彼女はケベスの言葉の途中から自分の鞄に手を差し込み、中から一枚の紙を取り出した。


「この一帯はコルス国軍が管理しています。道ならともかく、雑草の中へ入るのは禁止されています」


 彼女が差し出したものは、コルス国の正式文書で間違いないと思われた。


「しかも身を潜めるなど、不審極まりません」


 確かに国軍が管理する土地に隠れているなど、怪しさ満点だろう。


「更にそれが他国の国軍ともなれば、事情も伺わなくてはなりません」


 ピリッと不穏な空気が流れたのをリャガは感じ取った。


「待ってください。あなたの意向に従います。ですがその前に、あなたの素性をお聞かせ願えませんか?」


 このままでは大事になると踏んだリャガは、年下であろう彼女に精一杯の下手に出た。


「コルス国軍、監視班の依頼によりこの一帯の監視をしている“寝ずの番人”の者です」


「民間の、という事か」


 ケベスはまた苛立った声を出した。


 両者をなだめつつ、リャガはこう言った。


「私はリャガといいます。私たちはここから出て住宅街の方へ行きます。そこで私たちの事情をお話ししますから、あなたも来てもらえませんか?」


「リャガ、事情を話すなど…」


「いいでしょう」


 あくまで淡々と彼女は答えた。


「リャガ、でしたね? 私はシャラディーといいます」





 リャガ以下六人は約束通り住宅街へ向かい、シャラディーはその後からついてくる格好だ。


 その間、ずっとケベスに付きまとわれている。


「本気で事情を話すつもりか?」


 どちらかと言うと往生際が悪い。


「ここでダンマリを決め込んだ所で、好転などしませんよ。それならと、彼女は軍部へ通報してしまうでしょう。我々が頭を働かせなくてはいけない事は、どうやったら彼女までで止めてもらえるか、です」


「だったら、適当に濁してざっくりとどうとでも取れるような感じで、のらりくらりとだな…」


 はっきりした、往生際が悪い方にほぼ傾いている。


「そんな事で誤魔化せるような相手だと思ってるんですか、あのシャラディーという娘を」


「うむむ、確かに只者ではなさそうだな。我々六人に気配を全く感じさせずに近付いたのは見事だった」


 見た目の若さだけで彼女を見下したりしない辺りは頭が硬くないのだな、と安心した。


「オパッセへの接触もさることながら、彼女自身の情報も入手したい所ではあります。出来れば協力を仰ぎたいので」


「見る限り冷徹そうだが、我々の話を親身に聞いてくれるだろうか?」


 ケベスの言う通りに冷徹ならば、説得は難しいでしょうとリャガは言った。





 住宅街の一画、開けた場所があり、その隅に大木が立っている。


 彼らはそこで話し合うようだ。


 他人に聞かれる心配もない。


 ただ女性一人を他国の正規兵六人で囲むのは、あまりにも異様な光景である。


 そこで四人を対面の隅で待たせ、基本リャガとシャラディーだけで、近くにケベスはいるものの、できる限り口は挟まない方向で。


「まず私たちの目的は、例の小屋に住むオパッセに会う事なんです」


 シャラディーは表情こそ変えないが、首を少し傾げた。

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