第4章「グイデンの小さな争い」【9】
消えた呪術師や殺された兵はこの町へ買い出しに来て、その帰りに事件に巻き込まれたのだ。
タラテラへはリャガを先頭に兵士二十名で向かった。
「リャガたちが襲われる可能性はないのか?」
「分かりません。数は増やしましたが、敵がそれ以上の数で攻めてくる事も考えられます」
その場合はとにかく逃げろとリャガに命じておいた。
「ふうむ。隣町へ行くだけで、そこまで緊張感が必要とは恐ろしいものだな」
ウマーチの班にも増員をかけ、引き続き手がかりを探させている。
「テネリミはどうしておる? さぞや落ち込んでいるのではないか?」
「いやはや、まったくもってその通りかと思われます。あの現場から戻って以来、自分の部屋に閉じこもってしまい、食事にも出てこんのです」
「それはいかんな。彼女に倒れられでもしたら、ますます大変な事になるのだがのう」
ビルトモスも困り果て、ヌウラに頼んで部屋から出てくるよう声をかけさせた。
初めのうちは返事が無かったが、ヌウラが粘り強く何度も呼ぶと、一度だけ“大丈夫よ”と弱々しい声が返ってきたらしい。
「やれやれ、だな。それで、他の兵たちはどうしておるのだ?」
「ここでの作業を続けさせております」
仲間からの吉報を待つ間、何もしないでは兵の精神上にもよろしくないと、ビルトモスは農作業に戻らせたのだ。
「まあ、そうだな。忙しくしておれば気も紛れるであろう」
しかし士気は下がったままなのだ。
リャガたちが無事に帰り、良い報告をしてくれる事を祈るばかりである。
タラテラの町に到着したリャガと二十名の兵士は、五人ずつに別れて住民への聞き込みを開始した。
もしかしたら敵に見られているかもしれないと、リャガはその間も周囲に気を配るようにと注意を促した。
幸いな事に、仲間たちの目撃談はいくつも入手できた。
「あんたらと同じ橙色の鎧を着てたから、よく覚えてるよ。市場でも大量に食い物を買い付けていたみたいだぜ」
目立っていた為、記憶している人が多い。
「若い娘らもいたわねえ。正規兵に連れられているから捕虜か慰み物かと思ってたけど、娘らは楽しそうだったからねえ」
老婆から見れば三人とも若い娘に見えたのだろうと、若いリャガは思った。
「あの現場に食料は無かったよな?」
同行しているレジバルが口にした。
「確かに、何も落ちていなかった」
それも盗まれたのだと考えるしかなさそうである。
「食い物と女を奪っていったとなれば、盗賊って線も濃厚だな」
レジバルのいう事ももっともだが、それにしてはとリャガは首を捻る。
「殺し方が剣の上級者のやり口だった。盗賊だったら大勢で取り囲んで、というものじゃないか?」
殺された兵は、鎧で覆われていない箇所を一突きにされていた。
「正規兵崩れで腕の立つ者がいたかもしれん。まあ、盗賊というのも可能性の一つってだけだ」
「そうだな…」
盗賊であれどうであれ、仲間が殺され呪術師三人と食料が奪われた。
到底許す事など出来ない。
他の場所で聞き込みをしていた仲間からも報告があった。
殺された兵と呪術師たちは、到着した日に買い付けを済ませて一泊し、翌朝には町から出て行ったようだ。
そこまでは至極順調だったのだろう。
帰り道であんな目に遭うとも知らずに。
更に気になる報告がもたらされた。
「彼らの後を追うように町を出て行った者がいたらしい」
「まさか、そいつが?」
敵の一人かとリャガたちは色めき立ったが、その男は古くからこの町に住むオパッセという者のようだ。
「だから、何だ! 魔がさして盗賊に手引きしたって事だってあるだろう?」
仲間の一人が声を荒げる。
「待て、町を出たのはたまたまかもしれん。いきなり容疑者扱いは気の毒だ」
同時に、たまたまではないかもしれないとも考える。
「とにかく、そのオパッセという男に話を聞きに行こう。何か知っているかも知れない」
既に自宅の場所は突き止めているようだ。
そして、オパッセの情報を持ってきた仲間の一人が、その自宅を見張っているとも。
「俺たちも、行こう」