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第4章「グイデンの小さな争い」【7】

 ティーラに抱えられながら、ヤリデルは一階へと続く階段を上がっていた。


「重いんだけど! こっちにばっかり体重かけないで、少しは自分で歩きなさいよ!」


「やってるだろ! 俺だって遊んでる訳じゃないんだ!」


 これが最初で最後の好機だと分かっている。


 今逃げ切れなければリグ・バーグの本城まで連行され、裁判にかけられ一生牢獄か、若しくは首を落とされるか。


「くそっ、冗談じゃない! 生き延びてやる!」








 黒い棒が、見えない。


 どこから飛んでくるのか、まるで検討がつかないのだ。


 目の前の若者の動きが速すぎて、ついていけない。


 気が付いた時には、既に自分の身体に黒い棒がめり込んでいた。


 めりめりと音がする。


 左頬や右の二の腕、左の鎖骨も粉砕されたような感覚がある。


 脚も何度か激しく撃たれたから、何本か持ってかれたか。


 ただ、徐々に麻痺しているようだ。


 視界が狭くなり、目線が低くなっているのは分かる。


 最早まともに立っていないのだろう。


 それにしても、さっさとトドメを刺さないのは、甚振っているのか、はたまた恨みでもあるのか。


 …ああ、そういえば仲間の仇討ちだと言っていたな。


 ヘルザダット様だと思い込んでいたようだが、誤解が解けたのかも知れない。


 ならば、よかろう。


 顔の真上に黒い棒が現れた。




 それがミグラの見た最後の景色であった。




 ミグラは前のめりに突っ伏した。


 それと同時に、トデネロもまた両膝を床に着け、両手も床に着けた。


 彼は汗だくで息も絶え絶えである。


「大丈夫か?」


 ヌラムを抱き抱えたまま座っていたニューザンが声をかけた。


「分かりません。体力を使い果たしたのは確かなようですけど」


「今のお前は、トデネロだな」


「…どういう事ですか?」


「つい先程までのお前は、トデネロであってトデネロではなかった。そんな気がする」


「意味不明です」


「だろうな、俺も分からん」


 ニューザンに抱えられたヌラムは、既に息をしていなかった。


「俺の責任だ。作戦の前に説得をしておかなければいけなかった。甘い考えで大事な仲間を失った」


 ニューザンはゆっくりとヌラムの亡き骸を床に横たえた。


「あのミグラって人を倒せるようになるのが遅すぎました。どうしてそんな事が出来るようになったのか、自分でも分からないんですけど」


 ヌラムは置いていくしかなかった。


「セギレを殺したのは、こいつかもしれないな」


 立ち上がったニューザンはミグラの遺体を見下ろし、そう呟いた。


 煙玉を投げる直前、護衛兵の後ろに隠れていたヘルザダットを一瞬見かけた。


 もしも彼にセギレに勝つ程の実力があるなら、もっと早くにヌラムは死んでいただろうとニューザンは考えた。


「納得です。…それも、確実に情報を入手しておくべきでした」


 後悔しか残らない。


 よろよろと立ち上がるトデネロはニューザンに支えられ、建物の外へ向かった。








 それからしばらくして、護衛兵を全員引き連れてヘルザダットが戻ってきた。


 しかし彼が目にしたのは、床にうつ伏せのまま息絶えているミグラの姿であった。

 リグ・バーグ軍の鎧を着た賊の遺体もあったが、そんなものは彼にとってはどうでも良かった。


 この世で最も信頼する部下を失った悲しみと脱力感と怒りはヘルザダットを激昂させた。








「僅かな成功と、大きな失敗だね」


 ニューザン、トデネロ、ティーラそしてヤリデルはリナータと合流してグイデン・バーグを後にした。


 それから皆の前で、ヌラムを失った責任はニューザンにあるとして息子を責めた。


 “僅かな成功”と呼ばれたヤリデルも面白くなさそうな表情である。




 ただニューザンと二人になった時、リナータはこう言った。


「みんなの手前だからああいうしかなかったけど、本当はニューザンが無事に帰ってきてくれただけで大成功だと思っているんだよ」


「やめてくれよ。実際、責任は俺にあるんだから。取り返しのつかない事をしてしまった、それだけだ」




 そしてヤリデルもまた思いの丈をぶちまけた。


「ヌラムの事は、そりゃあ残念だと俺だって思ってる。だがよ、そうまでしてでも俺を助けようと考えたんだろう?」

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