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第4章「グイデンの小さな争い」【4】

「それにしても、もしも実際にヤリデルを奪えば、この街での両者の関係は間違いなく険悪になるというのに」


 そんな愚行を、下級の指揮官が独断でというならいざ知らず、副将軍たる地位にあろう者が命を下すとは、やはり信じがたい。





「可能性が全くないとは言えんが、私は自分の判断に従おう」


 何をぶつぶつと、と思った瞬間、ミグラの顔がトデネロの目の前に迫っていた。


 慌てて身を引いたが、ミグラの短刀がトデネロの顎先を掠めていた。


 兜で守られていない場所だ。


 しかしトデネロの重心が後ろへ傾いた事をミグラは見逃さなかった。


 その右足がトデネロの左足を払う。


 支えを失ったトデネロは後ろへ倒れ、身体は通路まで転がった。


 間髪を入れずミグラも独房から通路へ半身を出した。


 そこへ剣の切っ先が襲いかかってきた。


 ティーラの奇襲である。


 それをミグラはほんの僅かな動きだけでかわしたのだ。


 ティーラからは、まるで相手が動いていないように思われた。


 目が合ったようにも。


 突如ティーラは左の二の腕に熱い痛みを覚えた。


 ミグラの短刀に斬り裂かれていたのだ。


「ちっ」


 舌打ちをしたミグラは足元を睨みつけていた。


 トデネロが彼の脚を掴んでいる。


 そのせいで狙いが狂った。


 真っ直ぐ命中させていたら、今頃彼の短刀は敵の喉を貫いていたはずだ。


 腕の痛みに耐えるのが精一杯で、ティーラは動くことが出来なかった。


 ミグラは短刀を逆手に持ち替え、邪魔をしたトデネロに一突き浴びせようとした。


 倒れたままのトデネロだったが、愛用の黒い棒を取り出し、短刀を握るミグラの手に一撃を喰らわした。


 声は出さなかったものの、ミグラは顔を歪める。


 その隙にトデネロは翻って立ち上がる。


 前屈みになっていたミグラの頭上から、復帰したティーラが剣を振り下ろした。


 上半身を彼女と反対側へ振り、ミグラはその剣を避けた。


「またっ⁈」


 空振りばかりで嫌になる。


 上体を戻したミグラは後ろへ跳んで独房の中へ戻った。


 追いかけようとするティーラを、トデネロが制止する。


「よせっ! そんな狭い所じゃ一対一になる! そいつの思う壺だ!」


 ぎりぎり足を止めたティーラは独房へ飛び込まずにすんだ。


「ふん…」


 敵を誘い損ねたミグラは残念そう。


「俺たちを殺そうとしたって事は、俺たちが正規兵じゃないって見抜いたのか?」


 トデネロが尋ねる。


「半々だ。確証はない。ただどちらにしてもヤリデルが目的なのは同じ。だったらより危険な方だと考えて排除しようと思ったまでだ」


「やだコイツ、頭おかしいんじゃないの?」


 当てが外れてリグ・バーグ兵を殺してしまったとしても、事故だと片付けるつもりだとミグラは言った。


「おい! ティーラとトデネロか⁈」


 ヤリデルの声がする。


「ああ」


「そうよ」


「だったら、さっさと助けろ!」


 トデネロとティーラは顔を見合わせた。


 お互い兜を被っているので表情は見えないが、思う事は同じだった。


「元気そうだな」


「ねー、こっちが劣勢だって分かってないみたい」


 ティーラの言う通り、実力は段違いだとトデネロは思った。


 たとえ自分が戦ったとしても、勝ち目は薄いのは明白だとも。


「再会は叶ったんだ。そろそろ諦めたらどうだ?」


 黒い棒に撃たれた手の痺れは、徐々に和らいできた。


「時間がかかればかかる程、逃げ道が塞がるぞ?」


 この二人が茶色兵の残党なのは想像がつく。


「やり合うなら付き合うが、引き返すなら追跡はしないと約束してやろう」


 通路からの返事はない。


「おいトデネロ! 説得されて迷ってんじゃねえって! いいから助けろって!」


 焦っているのはヤリデルである。


「…時間…」


 迷っているのではなく、トデネロはこの状況を打開出来ないかと考えを巡らせていた。


「本当に追っかけて来ないって約束してくれるのか?」


 突然の方針転換に、ティーラも驚いた。


 しかしトデネロは、また口の前に人差し指を立てて“喋るな”と制した。


「あ、おおい、待て、待てよ。トデネロ? ティーラ? まさか俺を置いて逃げるのか?」


 ますます焦る。


 これにはミグラも口元を緩めてしまった。

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