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第4章「グイデンの小さな争い」【3】

 地下へと続く階段は、わりとあっさり見つけることが出来た。


 建物の通路は狭いが、この階段はもっと幅が狭く、人が一人通るのがやっとであった。


 例えば、前後から挟み撃ちにされたら万事休すである。


 トデネロは唇の前で人差し指を立て、ティーラに余計な事を喋らないように釘を刺した。


 彼らはリグ・バーグ兵になりすましているが、この駐屯所に女性の兵士がいるかどうかの確認が取れていないのだ。


 兜を被っていれば顔は見られないが、この先、誰に会うかも分からない。


 ティーラの声を聞かれるのは、危険でしかない。


 それくらい分かってるとばかりに、ティーラは眉間に皺を寄せる。


 階段を降りた先に、扉が一つある。


 ヤリデルが地下にいるとすれば、ここしかないという訳だ。


 扉の取手に手をかけたトデネロだが、ふと顔をティーラの方へ向けた。


 そして手をひらひらと振って、後ろへ下がらせた。


 こうすれば扉を開けた時にヤリデル以外の者がいたとしてもティーラは見つからず、切り札として使える。


 ティーラが下がったのを確認してから、トデネロは扉を開けた。


 彼の視界に、二人の姿が映った。


 仁王立ちする男はトデネロやティーラより年上に思われた。


 彼は鎧を身に纏っていなかった。


 その足元に転がっているのは、ヤリデルであった。


 ヤリデルは目だけをこちらへ向けているが、鎧で全身を覆っているためトデネロだとは気付かれないだろう。




「上の騒ぎは収まりそうか?」


 先に口を開いたのはミグラである。


 不審な者がやってこないかとヤリデルを監視していた所、独房に兵士が一人で入ってきた。


 もう一人いるような気配を感じる気がしないでもないのだが。


「はい、応援が駆け付けましたので、即座に攻め込まれる事態とはならないと思われます」


 北側駐屯所、つまりこの駐屯所の兵だ、と目の前の兵士は訴えかけてくる。


 本物かどうかを見分ける方法がない。


 いや、リグなのかバーグなのかというだけで、偽物扱いは失礼なのだが。


「ヘルザダット様もご無事であるな?」


 こんな事なら、ここの兵には印でも付けておけば良かったと後悔するミグラであった。


「はい、護衛の兵と共に当建物内へ避難されております」


 まさかリグ側が乗り込んでこようとは、さすがに考えていなかった。


「いつもうちとリグ側が揉めているという事ではないだろうな?」


 ネルツァカ・オエがこのような強硬手段に出るとは、聞いていた人物像と違っている。


「もちろん、いつもではありません。あくまでオエ副将軍の命令があったからでしょうが…」


「私の名を知っているか?」




 不意打ちを喰らった格好ではあるが、トデネロは慌てた様子を見せぬように、兜の中で静かに息を吐いた。


「申し訳ありません。その囚人の監視をされているのは存じておりますが、お名前までは伺っていませんでした」


「…そうか」


 当然、この男の名など知る由もない。


 誤魔化せたのかどうか、不安が残る。


 そもそも、先程の問いはリグ側だと疑ってのものか、それとも第三者が紛れているとバレているのか?


「私は、諜報員だ」


 諜報員なら、ニューザンと同じか。


「私がここに来たのは深夜だ」


「…はあ」


「君らの前には姿を見せておらんし、ましてやこいつを監視している所など、君らは見ているはずがない。私はヘルザダット様の護衛についていたのだからな」


 そういう事かとトデネロは下唇を噛んだ。


「リグ側の兵だな?」


「はい、任務の為に嘘をつきました」


 やられた。


 仕方がない、ここは彼の言う通りにリグ側の兵を演じるしかない。


 第三者だと思われるよりマシだ。


 何はともあれ同国の兵なら斬ろうとまでは思うまい。


 多少の油断は生まれるはずだ。




「なるほど。しかし、どうやってここまで来れたのだ?」


「当初はこちらの方が人数が多かったので、こっそり抜け出して裏口から入りました」


 これは本当である。


「建物の構造はうちもこちらも同じようなものですので、すぐに階段を見つけて辿り着いたという訳です」


 我ながら無理のない言い訳だとトデネロは自画自賛した。

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