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第3章「八つ鳥の翼の戦い」【6】

 ところが、そんな事にはならなかった。


 何故なら、アレイセリオン兵三人を殺した犯人をサビノアが仕留めた事が高く評価されたからである。


「不自由な片脚をものともせず、同僚の仇を取った働きは賞賛に値する。かつては将来を嘱望された剣士であったというのは噂だけではなかったようだな」


 大臣から直々に褒められた。


「だが逆に現役兵士の体たらくぶりは嘆かわしい限りだ。三人もいながら、たった一人になすすべもなく斬られたそうだな」


 あの三人とは酒を酌み交わし、共に語り合った仲である。


 何より彼らがいてくれたおかげでトミアへの旅も心強いものだったのだ。


 サビノアが自らを恥じたのは、その事を大臣に一つも言い返せなかったから。




 しばらくの休暇の後、再び元の武器や装備品の在庫管理の職に戻った。


 長らく留守にしていた間に、倉庫の中はすっかりと無残な姿に変わり果てていた。


 剣の数が少な過ぎたり、盾は多過ぎたりとこの仕事に慣れない者に任せたのが間違いであった。


 自らの居場所であるこの倉庫を元の姿に戻そうと、サビノアは毎日台帳と睨めっこをしていた。


 忙しく、集中しているはずだったが、トミアでのあの事が思い出される。


 モエラが白状した、あの件。


 仲間の命を奪った憎むべき女、自分の手で仇を取ったものの、その言葉が忘れられない。


 トミアにはフェリノア国王のだけではなく、王子の軍隊も来ていたという。


 しかもその事をトミア側は知らず、モエラだけが秘密にしていたようなのだ。


 フェリノアの王子タルティアスは父王リドルバに帯同していたはずである。


 つまり彼の軍隊は別行動だった。


 ディアザ市への道中、サビノアが目撃したのはタルティアスの軍隊なのはモエラの発言からして間違いなさそうだ。


 モエラという女はトミア軍の諜報部にいながら、タルティアスの味方だった。


 しかし当のタルティアスは自身が乗る馬車に火を着け、燃やしてしまった。


 後に焼死体も発見された。


 タルティアスの軍隊は宙に浮いてしまった格好だが、この先どうなるのか。


 そもそもこの軍隊のトミア入国を、フェリノア側は知っているのか。


 サビノアにとって最大の問題は、この件をアレイセリオン本城へ知らせなくて良いのかどうか。


 知らせるにしても、今更の感がある。


 どうして今まで黙っていたのかと追及されるのは必至。


 それでも本国に無関係ならどうでもいいと判断されるだろうか。


 いや逆に大問題だと騒ぎになったら、今度こそ解雇か逮捕は免れないかも。


 結論。


 黙っていよう、シラを切り通そう。


 タルティアスの軍隊をサビノアが目撃した事を知っているのは、彼の護衛だった三人とモエラだけ。


 しかもその三人とモエラは死んでしまったではないか。


 わざわざ自分の首を自分で締める必要などない。


 さっさと忘れてしまおうと、サビノアは心に誓うのだった。








 旅の再開の準備を進めているのは、呪術師のアミネである。


 愛馬トズラーダに馬車を括り付けている。


「あなた…太ったんじゃない?」


 ディアザの餌や水との相性が良かったのか、緊張感から解放されていたからなのか、トズラーダは明らかにふっくらとしていた。


「まあ、いいわ。元気な証拠よね」


 その頃合いで、ゼオンとエルスも退院させられる羽目となった。


 あくまでアミネの独断ではあったが、ゼオンは喜んだ。


「いつまでもベッドに縛り付けられていたら、筋肉が無くなっちまう」


 一方のエルスは対照的に不満そうだ。


「まだ、骨がくっついていないかも」


 そこへアミネが顔を近付ける。


「あなたのは、ほぼ完治だと先生からお墨付きを貰ってるからね」


 バレてたらしい、エルスは観念せざるを得なかった。


 ディアザに滞在中世話になったヘンダンの宿にも別れの挨拶を済ませ、エルスたちはいよいよ出発する。


 一応、トズラーダの手綱はアミネが握る。


 怪我人にやらせるのは、周囲からの印象が悪い。


 何しろエルスとゼオンは、一連の騒動で活躍したことで顔が売れていたので尚更である。


 道すがら市民が手を振ってくる。


 ゼオンは大きく振り返し、エルスは遠慮がちに手のひらを向けていた。

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