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第2章「それぞれの帰路」【9】

 国から国へ渡り歩く旅人はとても多い。


 観光や旅行、目的は人それぞれ。


 世界中で何処かの誰かが今日も次の国を目指すのだ。


 アレイセリオンを発ち西を目指す何でも屋“八つ鳥の翼”もそのうちの一組。


 頭領のヤンド、髭面のツーライ、紅一点のシャン、年上の女性に好かれるコムノバ、新入りのタンデの五人。


 本来彼らは本国アレイセリオンで依頼を受け、それをこなすのだ。


 本国を出てまで仕事をするなど、ほとんど経験がない。


 それほどに特殊な内容である。


 彼らが目指すのは隣の隣の国であるクルル・レアだ。


 しかもクルル・レアの北の最果てが目的地だという。


 北の最果てには何があるのか。


 そこは切り立った断崖絶壁。


 どこまでも深く深く続く崖があるのみ。


 降り立った先には巨大な湖があると、何処かの学者が説を唱えている。


 しかしどこまで降りればいいのか、まるで検討がつかない。


 血迷った冒険家が底を目指して降りて行くものの、戻ってきた試しがない。


 そんな場所へ“八つ鳥の翼”は何をしに行くのか。


 剣を捨てに行くのだ。


 ただの剣ではない、巨大な一振りだ。


 幅が広く、人の背丈より長く、重い。


 これを一人で持ち上げられる者など、そうそういない。


 剣の名はエゾンモール。


 呪いがかけられているのだという。


 この剣を、同じく呪いをかけられた者が持ち、フェリノアの王族に近付くと、その者は人の二、三倍もの背丈に膨れ上がり、王族の命を狙うようになってしまうのだ。


 この者がフェリノア王族の命を奪ってしまうと、国際的な問題となり、最悪は戦争に発展しかねない。


 それを防ぐには、呪われた剣と人を遠ざけるしかない。


 何しろこの大剣、どれだけ炎で熱しても溶けないらしい(八つ鳥の翼調べ)。


 叩き割ろうと何人もの男が金槌で打ち続けたが、割れるどころか刃こぼれ一つしないらしい(八つ鳥の翼調べ)。


 地中深く埋めてしまえばいいのではないかと案が出たが、これはもっと駄目らしい。


 この大剣、近くにいる人間を呼び寄せ、呪われた者の元へ届けさせてしまうのだとか。


 だから例え地中深く埋めても、誰かが掘り返し、結局呪われた者の所まで運んでしまうという訳である。


 故に人の手の届かないところ、つまり北の最果ての断崖絶壁の底、そこに捨ててしまおうというのが“八つ鳥の翼”の目的なのだ。


 ちなみに、この世界の北の最果ては全て断崖絶壁になっている。


 北の最果てに面しているのは三つの国、西からクルル・レア、フェリノア、ティティオ。


 アレイセリオンから最も近いのはクルル・レアなので“八つ鳥の翼”が目指すのも、その国となる。


 さて“八つ鳥の翼”が何故そんな呪われた大剣を扱わなければならないのか。


 危険かも知れないというのに。


 だが大剣というよりは、呪われた者の方が重要なのだ。


 その者の名は、エルス。


 かつて“八つ鳥の翼”に籍を置いていた十五歳の少年である。


 つまりはエルスの為に。


 そのエルス自身もアレイセリオンから東へと旅に出た。


 まずは人と剣を遠ざけ、やがては剣を崖の底へ落とす。


 それが成功すれば、ほぼ解決と言っていいだろう。




 彼らは現在西の隣国リーガスにいた。


 “八つ鳥の翼”の移動速度は決して早くなく、むしろ緩やかである。


 出来れば少しでも早く、というのが理想なのだが、そうもいかない。


 旅にかかる費用、つまり路銀が足りないのだ、それも“まるで”足りないのだ。


 元々細々と小さな仕事をこなしてばかりだった為、“八つ鳥の翼”としての蓄えなど微々たるものであった。


 出発して早々と使い果たす羽目となった。


 であるから、行く先々の町や村で何でも屋として仕事を請け負い、路銀を稼ぐ。


 仕事がすぐに見つかれば良いのだが、見つからない場合、何日もそこで足止めを喰らう。




 ここイリバキの町では幸運な事に仕事にありつけた。


 畑で野菜の収穫が始まっていたのだ。


 頭領ヤンドにしてみれば願ったり叶ったりである。


 広大な畑の野菜を全て収穫し終えるまで手伝ってようやく報酬がもらえる約束を交わした。


 一体何日かかるのか、他の面々は気が遠くなる思いだった。

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