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第13章「クンザニ、帰らず」【9】

「どうした?」


「俺は今、アイツの事を考えていた」


「ヤリデルか?」


「そうだ、ヤリデル! 俺はアイツから、何も聞いていないぞ」


「何も、とはどういう事だ?」


「アイツがヤーベ殿を手にかけたのは何故だ?」


 ヤリデルは身分を偽ってアッゼイラのふりをしていた。


 それをヤーベに見破られたので、殺したと彼らは聞いた。


「だがそれは、トミア国軍からだ。アイツから直接聞いた訳ではない」


「ふむ、まあ確かに」


 トミア国にて、キリマックルたちとヤリデルは多少の接触はあったものの、直後にヤリデルは捕えられてしまった。


 そして彼の身柄はリグ・バーグのヘルザダットに引き渡された。


 故に、話らしい話を全くしていないのだ。


「それはしかし、事実なんだろう? だったら、それで仕方ないぞ」


「例えそれが事実だとしてもだ、俺はそれをアイツの口から、アイツの言葉として聞きたい」


「そんな、お前の希望を言っても…」


「我らには、ヤーベ殿のご家族にそれを話さねばならんのだ。だのに、本人からの言葉を何も聞いていないでは、ただの伝言係ではないか」


「確かに、ご家族は聞きたい事が山ほどあるだろうに、我らは何も答えられんな」


「何だ、お前まで⁈」


 その時にヤーベとヤリデルの間でどんなやり取りがあったのか、ヤリデルは何を考えたのか、些細な事でも知っておかなければ、家族に伝えるのは難しい。


「それに、もっと重要な事がある」


「もっと重要?」


「謝罪だ」


 キリマックルのその言葉に、セメターテヨも黙るしかなかった。


「もちろん謝った所でヤーベ殿が生き返るはずがない。だが、奴の口からそれを絞り出させ、そこまでをヤーベ殿のご家族に伝えねばならんのではないか。我らの責任として」


「ヤーベ殿を守れなかった我らの、せめてもの責任として、だな」


「ではつまり、アレか。我らはマセノアへの帰国を一時中断して、ヤリデルの元へ行って奴に謝らせると、そう言うのだな?」


「その通りだ」


 決してヤリデルを引き渡せと言うのではなく、直接話がしたいとリグ・バーグに要請するのだ。


 それなら事情は知っているのだから、向こうも無下にはしないだろうと思われた。


「よかろう。それは確かに我らの仕事だ」


 セメターテヨも納得したらしい。


「うむ、決は取れた。明日から北上して本城デ・ファルシオを目指す」


 迷いのないキリマックルの言葉に、彼らのモヤモヤが多少晴れていた。


「だが、薪と水と食い物は必要だ。まず、そちらから」


 とはヨウッシャーセン。


「違いない」








 コルス国。


 エギロダの要塞。


 主人が不在のままだったが、その部下とナポーヒの部隊が残っていた。


 彼らは全員が夢から醒めたように、表情と意思を取り戻した。


 気が付けば、バドニア軍の姿は消えていた。


「何があったのか?」


 ナポーヒは途中からの記憶がない事に動揺している。


 呪術師の力を跳ね除ける盾が粉々になり、そこで意識が途絶えたのだ。


 自分の部下に尋ねても同じであった。


 エギロダの部下に尋ねても結果は同じで、覚えている者が一人もいないというのだ。


 砕けた盾の破片が床に散らばっている。


 この奇妙な状況を報告して、果たして本城は信じてくれるだろうかと、ナポーヒは一抹の不安を覚えた。


「どうします、隊長?」


 部下たちも呑気にしていられる場合でなさそうなのは分かっているようだ。


 彼らが空気を読んでいるのは、隊長として非常に喜ばしい限りではある。


 いや、彼らが空気を読まざるを得ないほどの異常な状況だという事か。


「まあ、アレだ。盾を壊した始末書は提出しなくちゃならんだろうな」




「エギロダ様はすぐに戻って来られるぞ。片付けを始めてくれ」


 エギロダが外出をしている際に要塞で指揮を取るのは、側近のヒリテンの役目である。


 彼もまた、途中から記憶がないのだが、それならそれで仕方ないと考えている。


 裏の壁に大きな穴が空いている。


 これはエギロダが命じて、人馬が通れるようにしたまでの事なので、問題なし。


 ナポーヒ部隊に関しては、彼ら自身が後始末を付けるだろうから、これも問題なし。

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