第13章「クンザニ、帰らず」【3】
ヨウルの部隊が撤収した後しばらくして、リャガがケベスや部下と共にこの地へ現れた。
ツヴォネディ隊は要塞の付近で待機を続けている。
彼らは、人の足跡や馬の蹄の跡が大量に残されているのを発見した。
「大きな部隊がいたのだろうな。ナポーヒのとは訳が違う連中が」
そう言ってケベスは、そいつらがまだ近くにいるかもしれんと辺りを睨み付け、警戒を怠らなかった。
「ここへクンザニが来たのでしょうか」
「分からん。だが、もし接触したとしたら、どこへ行った?」
リャガとケベスはお互いの顔を見合わせて、嫌な予感を募らせた。
「隊長! 隊長ー!」
部下の兵士が絶叫とも思われる声でリャガを呼んだ。
一本の木の根元に、毛布で全身をすっぽりと覆われたクンザニがいた。
最初に毛布をめくって彼の顔を確認した兵は、地面に座ったまま塞ぎ込んでいる。
「凄まじい手練のようだ」
クンザニの遺体を調べているケベスがぽつりと漏らした。
リャガは何も言わずにクンザニを見下ろしていた。
「装甲に守られていない箇所だけを執拗に斬って、最期に首をといったところだ」
その首を、ケベスはじっと覗き込む。
「首が繋がっているのは、たまたまじゃない。“残した″に違いない」
「それは、クンザニに敬意を払っての事ですか? 首を落とすのは忍びないと…」
「そう願いたい」
リャガ隊全員で穴を掘り、そこへクンザニを葬ってやった。
「クワンとルジナを保護できたのが、せめてもの救いでした」
要塞を離れてエギロダを追っている途中で、リャガは彼女らを助ける事が出来たのだ。
遠くから彼の方へ向かってくる二組の人馬を発見した。
手綱を握るのはエギロダの部下であり、その後ろにはクワンとルジナが気を失ったまま、今にも馬から落ちそうに乗っていた。
エギロダの部下と縄でお互いの身体を縛っていたからこそ、無事だったのだろう。
彼らの馬は二頭ともゆっくりと歩いているだけだった為、簡単に止める事が出来た。
やはりここにいるエギロダの部下も無表情であり、何の抵抗もせずにリャガたちがクワンらを馬から下ろすのを、ただ待っているようでもあった。
それからリャガは部下二人にクワンとルジナをツヴォネディの元へ運ぶように命令した。
「ソエレはこの事を知っておるのかな」
ケベスからも同情の言葉が漏れた。
「分かりません。ですが、クワンたちと同じように気を失っていたなら、知らずにいる可能性もあります」
「そんな願いしか出来んとは、我らは何と無力なのか。情けないな」
ソエレはコルス本城リオーゲルフェイマへ連れて行かれたのだろう。
リャガ隊二十数人で助け出すのはもちろん、ガーディエフ軍五百人でも難しい。
虚しい思いを抱えたまま、リャガ隊は要塞の方へ戻って行った。
コルス国タラテラの町。
“寝ずの番人″の一員シャラディーは、土砂降りの雨の中で目を覚ました。
彼女の覚醒をホッとした顔で眺めているのは、同じ“寝ずの番人″の仲間であった。
彼女は監視対象であるオパッセの小屋の真ん前で倒れていたのだ。
そこへ交代に来た仲間が彼女を見つけた、という状況らしい。
どうしてこんな場所で気を失ったのか、シャラディーは身体を起こしながら記憶を呼び戻そうとした。
いつものようにオパッセの在宅を確認するべく、彼の小屋を訪れようとしていた。
だが、記憶はそこまでであった。
彼女の仲間がオパッセの小屋の中を調べたが、彼は不在だった。
しかも、衣類や金も見当たらず、不味い事になったと仲間がぼやいている。
確かに、逃げたのであれば最悪だ。
オパッセの監視は、コルス本城からの正式な依頼であり、それを失敗したとなれば痛恨の極みである。
彼女はそこから離れず、仲間と共にオパッセの帰りを待ったが、何日経っても彼女らの希望は叶えられなかった。
トミア国。
道端に馬車を停めて、アミネが目覚めるのをエルスとゼオンは待っていた。
日が落ちて夜になり、日が昇って朝を迎え、もう一度日が落ちそうな頃、彼女は目を開けた。
ふと横を見ると、焚き火に薪をくべているゼオンの姿が目に映る。