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第13章「クンザニ、帰らず」【2】

 正規兵は正規兵をよく知っている。


 その鎧は刃を通さず、簡単には倒せない。


 だが、どこが弱点かも知っている。


 訓練では上官からそこを徹底的に叩き込まれるのだ。


 そういえば、ヨウルの言うことは今更ながらに腑に落ちる。


 対正規兵の訓練など、戦争にでもならなければ不要なもののはずだ。


 だとすれば、戦争が終わっていないと言うのはバドニア軍でも考えの中にあったという事か。


 まあいい。


 たとえ相手が騎士だろうと、鎧の弱点は変わらない。


 そこを突けば良いのだ。


 鎧は全身を守っているようで、そうではない箇所がある。


 装甲の継ぎ目だ。


 各関節まで装甲で覆ってしまうと、動けなくなってしまうからだ。


 自然、そこは斬れにくい素材の服を着るのだが、あまり意味を成さない。


 ちなみに、鎧の形などは各国様々である。


 装甲の形や国の紋章をどこに入れるかなどは、特に決まりがない。


 決まっているといえば、色である。


 国によって決められた色で染めなければならない。


 例えばバドニアなら橙色で、コルスは水色である。




 ?




 なぜ、戦っている最中に鎧の色の事まで考えているのか。


 戦いに集中していない証拠だな。




 クンザニは、全身傷だらけになっていた。


 装甲の継ぎ目という継ぎ目を、片っ端から狙われ、斬られていた。


 防ごうにも、ヨウルの剣はこちらの剣をかわし、弾き、鎧などあってないようなものの如くにその刃を突き立ててくる。


 弱点を突かれているのはこちらの方で、クンザニは相手に傷一つ負わせられないでいたのだ。




 ああ、そういう事か。


 傷の痛みがどんどん増えるにつれて、戦いの事など考えられなくなっていたのか。


 そうだ、あろう事かソエレの事まで頭から消えていた。


 これでよく彼女を助けようなどと言えたものだな。


 全く、情けな




 ヨウルの剣が、クンザニの首を貫いていた。


 そこは兜でも胴体部分でも守られていない箇所である。


 ただ、首で露出しているのは僅かな面積でしかない。


 戦いの最中にそこを突けるのは、容易な事ではないだろう。


 その技術にはライーヴも感心する。


 しかし、殺さなくてもいいだろうと、彼女は首を振るしかなかった。


 クンザニの頭と身体は、斬られなかった首の僅かな部分だけで繋ぎ止められているだけだった。


 彼に生気は無かった。




 勝利したヨウルに歓声を上げる兵たちを尻目に、ライーヴは倒れたクンザニの遺体に近寄っていた。


 そして衛生兵を呼んだ。


 もちろん手当てをする気は流石にない。


 クンザニの遺体を近くに生えている木の根元まで運ばせる。


 僅かに残った首が千切れないように、丁寧に運ばせた。


 その上から全身をすっぽりと覆うように毛布をかけてやる。


 遺体の処理としては雑であるが、これ以上時間はかけられない。


 予定が狂ってたった一人だが、手に入れた呪術師を本城まで運ばねばならない。


 気を失ったままの彼女を、ライーヴは悲しげに見下ろしている。


 バドニア兵、いやクンザニは彼女をソエレと呼んでいた。


 ソエレは、クンザニがたった一人で助けに来た事も、その為に命を落とした事も知らない。


 呪術師を手に入れる為に、人の命さえ奪うこの行為は、果たして正しいのか。


 それともヨウルが言うように、戦争が続いているのだから構わないとでもいうのか。


 部隊の撤退が始まり、ライーヴは隊列の中央にいるヨウルの隣へ馬を進めた。


 しばらく互いに無言だったが、先にヨウルが口を開いた。


「残念だった。あの兵士は、真面目に訓練を積んできた跡が伺える。バドニア軍の型に忠実だった」


「クンザニです」


「お…うむ、クンザニか。単騎で敵陣に飛び込んで仲間を救おうとするその気概は、賞賛に値する」


「はい」


「だが、足りなかった。訓練も運も。訓練が足りていれば勝てたかもしれないし、運が良ければ逃げられたかもしれん」


 何が言いたいのか。


「運の尽きは、相手が私だった事だな。私の訓練の量は、クンザニのそれを遥かに凌駕していたという事だ」


 初めから分かっていたのに、それでも勝負を持ち掛けた。


 この男に対する、軽蔑した記憶ばかりが積み上げられていくのを感じ、ライーヴはウンザリしていた。

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