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第12章「ヌウラの祈り」【8】

 その時、背中に違和感を感じた。


 振り向いたエギロダは、自身が背負っている盾が強烈に赤々と染まっている事に気が付いた。


「おいおい、なんだよコレ⁈」


 盾は痙攣するかのように、ブルブルと小刻みに震え始めた。


 これは呪術師が術をかけている証なのだが、周囲にそんな姿は見受けられない。


 確かに目の前に呪術師はいるのだが、彼女らは三人がかりでも同じ材質の壁をほんのり赤く染めるのが精一杯だったはず。


 そんな事を考えているうちに、盾は大きく揺らぎだし、ぐにゃぐにゃと形を不規則に変えていく。


「どういう事が分からねえが、目茶苦茶ヤバいってのは明らかだな!」


 そしてとうとう、変形に耐えられなくなった盾が、バラバラに砕け散った。


 その破片がエギロダの頭や背中に直撃する。


「ぐえっ、ちくしょう!」


 破片が当たった所がヒリヒリするくらいの痛みはあったが、幸いにも意識を失う程の大きなものではなかった。


「あー、簡単には事が運ばねえってか…うわっ!」


 突如、身体が急に左側へ引っ張られた。


 いや、目の前にいる呪術師がガクンと左側へ倒れたのだ。


 すぐに彼女の体を支える事が出来た為、これも大事には至らなかった。


「何だよー、まさかこの状況で寝たってのか?」


 だが嫌な予感がしたエギロダは、後続の部下の様子を見る為に、振り返る。


 そこには、部下が馬の向きを今走ってきた要塞の方へ反転させようとする姿があった。


 しかも、二人ともである。


「お前ら! 何をしてやがるんだ!」


 だがエギロダの怒声にも部下の二人は全く反応を示さない。


 エギロダは部下の馬に乗っている呪術師も、右側と左側に倒れている事に気が付いた。


 呪術師が三人とも意識を失ったのだ。


 ついに部下二名は、要塞の方へと戻って行ってしまった。


「くそ、追いかけてる暇はねえ。俺だけでもコイツを届けなくちゃ…」


 ボヤボヤしていると追跡者が来ないとも限らない。


「一体、どこの呪術師だ、こんな真似を出来るだなんて相当の…」


 エギロダは、先ほどから頭の痛みを覚えていた。


 盾の破片が当たったからなのかと思っていたが、どんどんと痛みが増していく。


 それでもエギロダは馬を走らせた。


「三人から一人に減っちまったなあ。ネムレシア様はがっかりされるかもしれねえ」


 頭痛と共に、視界がぼんやりと白っぽくボヤけていく。








 ー呪術師の地位を向上させるって、そんなの必要なのか?


 ーもちろんよ。やらなくては、いずれ呪術師は絶滅してしまうわ。


 ー絶滅って、大袈裟だな。要するに、仕事が無くなるって事だよなあ?


 ー皆んなが呪術師の事を忘れてしまう。それは失職ではなく、存在が消えてしまうという事なのよ。


 ーあんたはそれが我慢ならないって訳だ。


 ー世界は私たち呪術師を散々こき使っておきながら、用済みとなったら追い出して捨てているわ。当然、我慢出来るはずないじゃない。


 ー俺は、呪術師の地位の向上とやらに手を貸すって事か。


 ーその通りよ。あなたのその能力は必ず役に立つ。力を貸してちょうだい。


 ーまあ、いいだろう。俺は無職で金も無かった所だからな。正直、あんたの大層な野望は、俺にはよく分からん。だが、好き勝手にやらせてもらえるなら、不満は無い。やってやるよ。








 クンザニは懸命に馬を走らせていた。


 ソエレを、せめてソエレだけでも救いたい、それが彼の願いであった。


「む、何か来る…?」


 前方から近付いてくるのは、二頭の人馬であった。


 近付くにつれ、馬にはもう一人ずつ乗っているのが分かった。


「クワン! ルジナ!」


 目を閉じて身体を斜めに傾ける彼女らは、今にも馬から落ちそうであった。


 なぜ彼らが引き返してきたのかは、全く不明である。


「ソエレは? ソエレはどこだ⁈」


 要塞の外で自分の邪魔をしていたエギロダの部下たちと同じだと、クンザニは感じた。


 この部下二名もまた、クンザニの方へは目もくれずにまっすぐ前だけ見つめている。


 いや、何も見ていないのかも知れない。


 馬を止める手立てはあった、だがクンザニはそれをしなかった。


 そんな事をしている暇はないと判断したのだ。


 二頭の馬はクンザニとすれ違い、そのまま要塞の方へ走り去っていった。

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