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第12章「ヌウラの祈り」【7】

 兜からはコルス兵がどこを向いているのか分からない。


 だがそれでも、彼らが自分たちを意識しているようには思えないリャガであった。


 穴が開いたコルス兵の壁を突破したリャガ隊は、要塞の奥へと突き進む。


 途中、エギロダの部下らしき者の姿はあったが、彼らもまた道を開けてくれている。


「急に心変わりした、という訳ではないのだよな?」


 ケベスも多少は慎重に考えているようだ。


 確かにその可能性が全く無いとは言えないが、それではあの盾の破裂を説明出来ない。


 入り口の反対側にある壁まで辿り着いたが、壁には大きな穴が開いていた。


「馬でも通れそうですね」


 この高さがあれば、人が跨ったままでも馬で通り抜ける事が出来るだろう。


 念の為、三階まで部下数人を行かせたが、誰もいないと報告を受けた。


 壁の穴から外へ出て目を凝らしたが、エギロダらしき人影は確認出来ない。


 ずっと遠くへ逃げてしまったのだろうと思われた。




 要塞を外側から回って裏へ回ろうとしたクンザニだったが、部下たちが固まって障害となり、前へ進めない。


「頼む、どいてくれ! 私はこの先へ行きたいのだ!」


 だがエギロダの部下たちはまんじりともせず、クンザニの行手を阻むだけである。


 時間だけが刻一刻と過ぎていく。


「…お願いだ、ソエレに会わせてくれ…」


 その願いが果たして通じたのか、エギロダの部下たちが急に動き出し、クンザニと彼が乗る馬が通れるだけの幅を広げてくれたのだ。


 やはりクンザニも突然の事に事情が飲み込めなかった。


 何しろクンザニから問いかけても誰一人答えようとせず、無表情のままで突っ立っているだけなのだ。


「分かった、通らせてもらおう」


 要塞の壁と彼らの間を通り抜ける間、万一にも襲ってくるかも知れないと、クンザニは警戒した。


 彼らとは全く目が合わない。


 クンザニは不気味ささえ覚えた。


 ついにエギロダの部下の壁を通り抜けた。


 振り返ってみたが、クンザニの方を向いている者は一人もいなかった。


 クンザニは馬を要塞の裏へ回らせた。


 すると、裏の壁には大きな穴が開いていたのだ。


 エギロダがここからソエレたちを連れて逃げたのは、想像に難くない。


 馬を走らせ、クンザニは後を追った。


 前方には誰の姿も見えないが、追いかけるしかない。




 それから少しして、壁の穴からリャガ隊が出て来たが、彼らはクンザニの姿も認める事は出来なかった。








 エギロダとその部下二名は、クワンたちをそれぞれ一人ずつ自分の前に乗せて、ひたすら逃亡を続けていた。


 この先にコルス軍の本隊が待ち受けてくれているのは知っている。


 振り返っても追いかけてくる者がいない事を確認したエギロダは、勝利を確信した。


 エギロダが前に乗せているのはソエレである。


 後ろ手に縛られたまま馬から飛び降りるような無茶をしないよう、彼女の身体と自分の身体を一本の縄で縛ってある。


 万一の為、後ろの馬に乗っているクワンやルジナから術をかけられぬよう、例の盾を背中に縛り付けてある。


 無論、そもそもエギロダは呪術師の術が効かない体質なのだが、念には念を入れていた。


 逆に後方の部下は前ではなく盾を挟んで後ろに乗せていた。


 これも術をかけられないようにとの配慮である。


 もしかけようとしても、盾が防いでくれるという算段であった。




 三人も連れて行けば、きっとネムレシアは大いに喜んでくれるだろうと、褒めてくれるだろうとエギロダは期待に胸を膨らませていた。


 自分でもいつからかは分からないが、彼女の期待に応えようと必死になっていた。


 第一印象は“恐ろしい婆さんだ″くらいにしか思っていなかったのに。


 初めて呪術師を一人連れて行った時、ネムレシアは“やっぱり仕事が出来るわね″と褒めてくれた。


 それが無性に嬉しかった。


 また褒められたいと思った。


 彼女に上手く乗せられてしまったような気もするが、それでも構わないと思うようになっていった。


 そういえば、要塞の壁に開けた穴を修理しなくちゃならんな、とこの仕事が終わった先の事をぼんやりとエギロダは考えていた。

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