第11章「エギロダの武器」【9】
ユドリカに到着したリャガと護衛の三名は、足早にユーゼフの家へ向かった。
幸いな事にユーゼフは在宅しており、すぐに居間へ通された。
「エギロダがコルス軍と繋がっていると、知っておられたのですか?」
「いいえ、あの要塞で正規兵を見たという報告は聞いた事がありません」
ユーゼフの情報源はあくまで要塞の中だけであり、その他については知りようがない。
それに、両者の繋がりを知っていたからといってどうなのだとも言える。
その事実は変えようがないのだから。
「どうされるおつもりですか? まさか、国軍と剣を交えようなどとは考えておられませんよね?」
それが得策でない事は、リャガも重々承知している。
「正直、分かりません。ただ、まだ諦めたくはないのです。何か方法があるのではないかと」
「普段姿を見せた事のない国軍が現れたという事は、更に動きがあると見て良いのでしょう。あまり考えている時間はないという事です」
それも分かっている。
現時点でクワンたちを救い出すには、要塞に正面から乗り込んで、奪うしかない。
それを阻むのがコルス正規兵の存在なのだ。
「それでもやる、というのなら、微力ながら手助けが出来なくもないのですが」
思いもよらないユーゼフの言葉に、リャガは顔を上げた。
道が開けるかもしれない、微かな望みを見出すリャガであった。
コルス正規兵の宴は終わり、彼らは満足して眠りに就いていた。
「旅の疲れがあったのだろう、全員熟睡しておるよ」
エギロダの正面に座るナポーヒは、機嫌良くそう言った。
「ナポーヒ様もお疲れでございましょう。お休みになられてはいかがですか?」
「そうしたい所だが、確認だけは済ませておきたいのでね」
コルス軍にあって、この指揮官殿は真面目な方なのだなとエギロダはやや見直した。
「呪術師を運ぶのは、あんた方。我々はあくまで不測の事態に対処する為に働く」
「有難い事です。何しろ私どもでは、正規兵を相手にするなど分が悪過ぎますから」
「しかし、本当にバドニア兵なのか?」
「間違いありません。何人もが目撃しておりますから、はい」
「真実なら由々しき事態だな。他国でコソコソとしおって」
「そいつらの事は、ナポーヒ様にお任せいたします」
エギロダは深々と頭を下げた。
「それでは、休ませてもらおうか。明日はよろしく頼む」
こちらこそ、とエギロダは更に深く頭を下げた。
空がうっすらと明けた頃、エギロダの要塞の扉の鍵が中から外された。
外したのは、ガーディエフ軍の諜報員ウマーチである。
この扉は、中からでも鍵を使って施錠する作りとなっている。
当然、解錠には鍵が必要となる。
その鍵を調達してくれたのは、ユーゼフの間者であった。
毎晩、鍵を掛けるのは当番制となっていたが、彼はその日の当番を代わってやると買って出たのだ。
誰にも知られぬように、こっそりと。
鍵の当番は面倒なので誰もやりたがらないので、申し出を受けた本来の当番の者は喜んで代わってもらった。
ただし、当番が変わった事は誰も知らない。
後でこの事がバレても、しらばっくれればいいだけの話となる。
間者は鍵を手に入れ、三階の窓から忍び込んだウマーチに渡す。
そして彼は、まだ解錠の定刻ではない時間に、扉の鍵を外したのだ。
そこへ、リャガ隊二十五名が静かに侵入する。
リャガは、クワンたちを救い出す事を決意した。
その上で、ユーゼフに協力を仰いだ。
ツヴォネディ隊は要塞から離れた所で待機してもらう。
ガーディエフ軍がコルス国にいる事は、既にコルス軍には筒抜けになっている。
今更隠す必要はない。
しかし、極力交戦は避けたい。
兵数の差をコルス軍に見せ付け、戦っても勝ち目はないと思わせたい。
これでコルス軍が引いてくれるのが、最高の理想の形である。
どちらにしても、腰を据えているルーマット村を出て姿を隠さねばならないという問題はあるが、それでもリャガはコルス軍と対峙する道を選んだ。
それをケベスもツヴォネディも納得したのだ。
戦果も出さずに帰れるものかとケベスは笑っていた。