第11章「エギロダの武器」【7】
エギロダは二番目の組に入った。
そして呪術師が受験者に両の手のひらを向ける。
術がかけられているのだ。
だが三人はいとも容易く歩き出し、止まる事なく向こうの壁へ到着した。
年長の役人は黙って呪術師を見て、呪術師は少し赤面している。
続いてエギロダの番となり、前の組と同じように後ろ手で壁を触った。
呪術師が術をかけている。
緊張はあったが、エギロダは何の抵抗もなく足を前に出す事が出来て、ホッとした。
彼の右隣の男も、揃って歩き始めた。
こうなると、彼女の呪術師としての実力を疑ってしまう。
ところが、エギロダの左の男の姿が視界に入らず、足音すら聞こえてこない。
歩きながら首を回し、左の男の様子を伺うと、そこには最初の位置から全く動かず、背後の壁に手をつけたままの彼がいた。
その彼は背後の壁に手をつけたまま、その位置から全く動いていなかった。
気のせいかとも思ったが、彼は無表情を貫いている。
そうこうしているうちに、エギロダと右隣の男は向こうの壁に着いてしまった。
最後まで一歩も踏み出せなかった左の男は、結局不合格となった。
次の組は三人とも歩いた事から、ここでの落選はエギロダと同組だった彼一人となった。
次の試験の為に現れたのは、中級の呪術師だった。
今度は受験者が歩き出してから、呪術師が術をかけて足が止まったら終了となる。
エギロダは最初の組のなった。
正規兵の合図で、彼を含む三人が歩き出す。
すると呪術師は腕を伸ばして右の手のひらを受験者に向け、左手で右の手首を掴んだ。
これが彼女なりのやり方なのだろう。
彼女の術で足が止まってしまったのは、エギロダの組では一人であった。
次の組でも一人、最後の二人組でも一人が歩けなくなった。
計三名が不合格となり、会場を後にした。
残り六人、三人ずつ分かれて二組。
上級とされる呪術師が現れた。
エギロダは後の組。
前の組の三人がそれぞれ椅子に座らされた。
そこから立ち上がる事が出来るかどうかが、合否の分かれ目である。
呪術師は左の手のひらを三人にかざし、右手はだらりと垂らすのみ。
何となくエギロダは三人を眺めていた。
だが、ふと気付く。
一体、いつまで座っているのかと。
三人とも座ったままで、まるで動きがないのだ。
「そこまで」
正規兵が終わりを告げた。
そこでようやく腑に落ちた。
何もしていなかったのではなく、三人ともが立てなかったのだと。
途端に呪術師の顔が恐ろしく思えてきた。
上級というだけの事はある。
エギロダたち三名が椅子に座る。
すぐに呪術師は左手をエギロダたちに向けて、ぐっと伸ばした。
一人は微動だにせず、無表情のまま。
術にかかってしまったのだ。
ところが、もう一人がゆっくりと腰を浮かせ始めた。
自分はどうだ、立てるのか?
不味い、エギロダは焦った。
身体の端々が固まりかけている感覚に襲われていた。
踏ん張れ、踏ん張れ、自身に必死で語り掛ける。
上へ上へと力を込める。
打ち破れ!
身体がスッと軽くなった。
勢いよく身体が伸び上がり、立つというよりは前へつんのめってしまった格好だ。
しかし、これは合格と認められた。
「二人とも合格という事か?」
残った二人で自己紹介をした。
もう一人の名はモージャルといった。
コルスの北西部にある田舎町からやって来たのだという。
年長の役人が彼らに声をかけた。
「よくぞこの試験を乗り切った。実に見事だ」
役人はご満悦の表情でエギロダたちを褒め称えた。
「二人には褒美を遣わそう」
何か貰えるのか、エギロダとモージャルは心が躍った。
「王宮呪術師であるネムレシア様への謁見が許された」
エギロダとモージャルは地下から階段を登り、二階の大広間へと通された。
「ネムレシアって、知ってるか?」
エギロダはコルス人でありながら、その名を今日まで聞いた事がなかった。
「もちろんさ。ネムレシア様は、世界で二番目に有名な呪術師だよ」
「へえ…え、一番は?」
「そ、それも知らないのかい?」
モージャルが面食らっている所へ、先程の若い役人が入ってきた。