第11章「エギロダの武器」【4】
だからこそ、見張り役の兵が間を空けている事に違和感を覚えた。
「どうした、何を言い淀んでいるんだ?」
見張り役は更に首を捻った。
「あ、いや、しかし、見間違いかもしれません」
何をどう見間違ったのかというのだろう。
「要塞の中へ入っていった連中は、皆鎧を身に着けていました」
「だからどうしたと言うのだ! 鎧ぐらい、誰が着けていても不思議じゃなかろうが!」
とうとうケベスのイライラが爆発した。
見張り役は萎縮してしまう。
「ケベス様、ここは…」
リャガはケベスを見張り役から一番離れた場所まで下がらせた。
「それで、どんな鎧なのだ?」
「…ずいろの…」
「む?」
すっかり声が小さくなっていたので、よく聞き取れなかった。
「水色の、鎧です」
「………!」
目を見開いてリャガは振り返った。
見張り役の声の大きさは変わらなかったので、離れたケベスには何も届いていなかった。
「どうした、隊長?」
「コルス軍です」
一階まで降りてきていたエギロダは、水色の鎧を纏った兵士十五名を出迎えた。
「ようこそ、コルス正規兵のみなさん。私がここの主人、エギロダでございます」
エギロダは深々と頭を下げる。
対してコルス兵の一人が兜を脱ぎ、顔を見せた。
「うむ。私はこの部隊の指揮を務めるナポーヒだ」
短髪の指揮官はエギロダより背が低い。
その為か、エギロダはある身体を曲げたままでナポーヒより頭を高い位置に上げぬように気遣っていた。
「ナポーヒ様、此度の長旅お疲れ様でございます!」
「ああ、確かに些か疲れた。早速だが、しばらく休ませてもらうぞ」
「もちろんでございます! 既にみなさんにお休みいただけるよう準備を整えておろます!」
エギロダが合図を送ると、部下がワラワラと足早にやってきた。
コルス兵一人につき、部下が一人世話係として荷物を持ったり部屋へ案内したりと。
指揮官のナポーヒには粗相がないようにと、世話係が三人付けられた。
「いやはや、着いて早々に休憩だと言い出すだなんて、コルス軍も地に落ちましたなあ」
休憩部屋へ消えていくコルス兵を眺めつつ、エギロダの側近ヒリテンが呆れて、そう呟いた。
「奴らがいる間は余計な事をほざくなよ。後でしっかり働いて貰わにゃならんのだから、今は好きにさせとけ」
「へいへい、酒や肉は山ほど用意してありますから、その辺はお任せくだされ」
「それよりも、奴ら例のアレは持ってきてるのか?」
「奴らの馬車の荷台は既に確認済みですよお。間違いなく、アレを、しかも人数分以上に!」
「ああ、そりゃあ助かるな」
エギロダはにやりと口を曲げる。
奥の方からは、コルス兵の笑い声が響いてきた。
早速宴会が始まっているようだ。
知らせを聞いたツヴォネディが、岩場の窪みへと急いでやってきた。
「コルス軍が来たというのは、事実か?」
「遠目ではありますが、水色の鎧を身に着けた者が十数名、だと」
リャガは少し顔が青い。
「これは一体、どういう事だ?」
ケベスは訳がわからんといった具合。
「エギロダと正規兵が繋がっているという事は、コルス本城が呪術師の誘拐に一枚噛んでいるという事ではないか!」
流石のツヴォネディからも笑みが消えていた。
「呪術師の件に関しては断定出来んが、両者が繋がっているのは事実だ」
それは、エギロダの要塞など取るに足らないくらいの障壁であった。
「このまま戦えば、我々はコルス軍を敵に回す事になる」
ガーディエフ軍七十二名、コルス軍十数名。
これだけなら、まともに戦っても勝てる。
だが、戦ってはならない。
コルス国内において国軍に追われる事になれば、ガーディエフ軍は壊滅の憂き目に遭うのは歴然。
「正規兵が呪術師を引き取りに来たのか、それとも我々への牽制か?」
「分かるか、そんなもん」
ケベスの言う通り、正規兵の目的が分からない。
この件にコルス本城が絡んでいるかどうかも不明なのだ。
「困ったわね」
テネリミも弱気な一言を口にした。
すると、リャガは立ち上がった。
「情報が必要ですね。私はこれからユドリカへ行ってきます」