第11章「エギロダの武器」【3】
人の気配を感じ取る。
一人、二人………三人いる。
話し声などはしない。
深夜だ、眠っているのだろう。
だからといってまた日を改めてなどと悠長な事は言ってはいられない。
辺りの気配を探りつつ、壁をニ、三度軽く叩いてみる。
反応はない。
もう一度。
三人とも深く眠っているのだろうか。
どこへ響いてしまうか分からないが、もう少し強めに壁を叩く。
「誰?」
小さく返事があった。
ウマーチは鼻歌を歌った。
それはバドニアで昔から歌われている、老若男女誰でも知っている歌である。
しばらくすると、部屋の中からも同じ歌が聴こえてきた。
「ウマーチです」
「!」
「三人とも、無事ですね?」
「はい、今のところは」
「ガーディエフ軍のあなたたちを救出する為の部隊が、近くまで来ています」
「は、はい」
「現在は救出の機会を伺っている最中です。もう少し待って下さい」
「わ、分かりました。クワンやソエレにも伝えます」
「それでは、また」
来た時と同じように慎重に、ウマーチは静かに要塞から脱出した。
それから急ぎリャガ隊の元へ戻ると、ルジナと接触出来た事をリャガへ伝えた。
リャガやケベス、その他起きていた兵士は、声を立てぬように腕を振り回して喜びを表現した。
ウマーチは別の場所にいるツヴォネディ隊へ報告に向かった。
「私はようやく手ごたえを感じたよ」
リャガも同感であった。
「ウマーチが来てくれて良かった。前へ進めたと思います」
これまでの手がかりのようなものではなく、はっきりとクワンたちの存在を掴んだのだ。
朝になり、テネリミはリャガから、ヌウラやミジャルはツヴォネディから朗報を聞かされた。
「しかし、決して解決した訳ではない。これからが本番であるぞ」
ツヴォネディは穏やかに、兵士たちの気を引き締めた。
大きな問題が残っている。
決断をしなくてはならない時がある。
ただ、兵士たちはやる気に満ち溢れている。
「戦力差が多少あったとしても、今なら全て跳ね返せる気がしてならんな」
ケベスも上気した顔でリャガに言った。
そうだ、こちらの方が戦力は上の場合だってある、楽観的に考えてもいいはずだ。
とにかく要塞の近くに見張りを配置して動きを監視しつつ、本隊では作戦会議が始まった。
ルーマット村では、ビルトモスがあちこちを歩き回り、一向に落ち着かない様子である。
今の関心事は、もちろん呪術師三人の捜索と救出である。
自身もリャガやツヴォネディらと同じように飛び出していきたいのは山々であった。
しかし彼はガーディエフ軍の総大将という立場にある。
無闇に突っ走る訳にはいかないのだ。
敵の数がはるかに多ければ、救出を諦めルーマット向けへ戻るようにと決めたのはビルトモスであった。
それだけに、やきもきしている。
ビルトモスとて、クワンたちを救出するのが最も望む事であるのは間違いない。
だが、その為に兵の数を著しく減らす訳にもいかない。
果たして二度目の伝令がやってきた。
どのような報告を持ち帰ったのか、聞きたいようなそうでないような。
報告はガーディエフの前で行われた。
もちろんガーディエフとて心配している。
呪術師三人も兵士も。
テネリミやヌウラだって。
特にヌウラに至っては、なぜあの子を連れて行かなければならないのか、未だに納得出来ないでいる。
「クワン、ルジナ、ソエレを発見いたしました。壁越しではありましたが、全員の無事を確認しております」
肩の力が一気に抜けた、こんなに入っていたのかと驚くほどに。
続けて兵たちの無事も報告された。
誰も怪我一つ負っていないと、これまたホッとさせる。
残るはクワンたちの救出である。
判断は現場に任せるしかないが。
リャガはまだ若く、経験も浅い。
だからこそケベスをつけ、ツヴォネディも後発隊として送り込んだ。
傷の少ない決断をと願うしかないビルトモスであった。
岩場の窪み、リャガ隊が控える場へ見張りの兵が戻ってきた。
その顔は険しく、青ざめているといっても過言ではなかった。
「要塞の入り口へ十数名の者が入って行きました」
それがいつものエギロダの部下でない事は想像がついた。