表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/130

第1章「ユドリカの苦難」【1】

 ここはフェリノア王国の南の国境にあるどこかの荒地。


 家も草花もないこの地に1本の木が寂しげに佇んでいる。


 その木のすぐ近くの地面に穴が1つ開いていた。


 丸い穴の直径は人が両手を伸ばしたくらいで、深さは大人の背丈の3倍だろうか。


 穴の周りには男が1人いる。


 頭巾を被り、マントで身体を覆っている。


 男はとても退屈そうに欠伸を繰り返し、胡座をかいて座っている。


 何かするといえば、時折穴の中を覗き込んでいるくらいだ。


 穴の底は随分と暗い。


 しかし目を凝らせば人が1人倒れているのが分かる。


 目隠しをされ、猿轡をかまされ、両腕は後ろで縛られ、両足も足首辺りを縛られていた。


 彼の名はゲジョル。


 フェリノア軍諜報部の1員である。


 どうして彼がこの様な姿にされているのかというと、簡単な話、ヘマをやらかしたのだ。


 事もあろうにフェリノア王国第1王子の暗殺に加担したのだ。


 幸いな事に未遂に終わった。


 ゲジョルにとっては失敗なのだが。


 その首謀者はタムリアといい、彼女もまたフェリノア諜報部員であった。


 第1王子の命を狙った事は大罪であるが、タムリアもゲジョルも極刑は免れた。


 共にその能力を買われての寛大な沙汰であった。


 甘すぎるといえばそうなのだが、フェリノア本城内も第1王子贔屓の者ばかりではないという所であろうか。


 ちなみにタムリアは数十名いた部下をほぼ全員殺されてしまった。


 部下を守れなかったその罪を、彼女は生きて背負わされる羽目となった。




 そしてゲジョルはこうして穴の底で身動き取れぬ状態のままで寝かされているのだ。


 穴を覗いているのは見張り役という訳だ。


 そこから少し距離を置いた所にも、男が2人いた。


 1人はネビンといい、もう1人はボウカという。


 ゲジョルの部下は他にも数名いて、交代でゲジョルの様子を見守っているのだ。


 あんな所に閉じ込められている上司を助けにいきたいのは山々だが、見張りの男も同国の諜報部員であり、下手にしゃしゃり出ようものならゲジョルの班全員が処罰されるのが関の山である。


 もどかしいが黙って見ている他なかった。




 そんなある日、見張りの男の元に、もう1人別の男が現れた。


 いつもの交代だろうかとネビンは思ったが、それにしては少々様子が違う。


「ゲジョルを釈放だって? そうかー、ようやくこのつまらん任務から俺たちも解放されるって訳かー」


 男はそう言って大袈裟に身体を伸ばす。


 するともう1人の男が縄を取り出し、近くの木にしっかりとくくり付けた。


「さあ、さっさとあいつを引き上げて、俺たちも家に帰ろうぜ」


「引き上げた後、ゲジョルはどうするんだ? まさか連れて帰れって命令されたんじゃないだろうな⁈」


「いや、そんな必要は無いらしい。今度こそ本当に放置しておいて構わないというお達しだ」


「へえ、そうなのか…」




 縄は穴の中へ落とされ、1人がその縄を伝って底まで降りた。


 底に降りた男は、足元に転がるゲジョルをまるで汚い物でも見るかのように顔を顰めていた。


 微動だにしないゲジョルを見て、死んでいるのではないかと足で突いてみた。


 するとゲジョルは微かに身体を震わせた。


「おいゲジョル、引き上げてやるから暴れるんじゃないぞ。分かったな?」


 返事は無い。


 男は呆れたようにため息をつき、それから縄をゲジョルの胴に巻き付けた。


 そして男は縄を使って上まで登り、穴から出た。


 その後、2人で縄を握り、ゲジョルを引き上げる。


「何だ、思ったより軽いな」


「そりゃあそうだ。ほとんど水しか与えてないんだからな」


 そう言って男は笑う。


 この様子を当然ネビンたちも見ていた。


 しかし見張りの男たちの声までは聞こえないので、ゲジョルが引き上げられてどうなるのかまでは分からない。


 しばらくするとゲジョルが穴から姿を現した。


 穴の外へ転がされたゲジョルは縄を解かれ、目隠しや猿轡を外され、両手両足も自由になった。


 日の光に照らされると、異常なまでに痩せ細ったゲジョルの姿に見張りの男たちは目を丸くした。


「これで生きてるのか、すげえな」


「いや、瀕死だろ。こんなの、どうせすぐに死んでしまうだろうな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ