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双子Vtuberの人気格差。

「みんなありがと~!みんながいるから毎日がほんと楽しくて。。!楽しくて。。」


プロ顔負けのコンデンサーマイクに声をあてる若年の女性。


「みんな!きょうはここまで!また見に来てね!」


彼女は大人気ヴァーチャルYoutuberだ。アバターの名前は『星屑カナミ』。


毎日、ゲームの世界へ視聴者を導く案内人として、その身体をイラストに変化させ


ステージに降り立つ。その背景には選りすぐりのスタッフを抱えた事務所の力が働き、


彼女の自由な配信スタイルを支えていた。


幾ばくものファンは彼女を見守り、チャット欄はいつだってリアクション、彼女への質問で


つねににぎわっている。


しかし、そんな華やかな姿を照らす太陽は、いつか必ず沈む。


莫大な資金をかけて作成されたアバター、オブジェクト。


だが、それだけでは人は長居してくれないのだ。


だから・・・彼女は嘘をつき始めた。


人間の多くは、仮想現実のネットワークに仮想のキャラクターを産み出し架空の人格を憑依させる。『少しだけ盛る』ことは現実でもあることだが、電子世界はなにせ自由だ。


ある者は学業や事業の成功者として嘘の空想成功体験を綴り、またある者は査読すらされていないデータにまみれた論文をもとに裏世界を知る自称医療関係者としてネットの小さな世界を牛耳る。


彼女もまた偽りの経験にまみれた面白話を武器として、大規模な配信者としてインフルエンサーに


成りあがった。


だが、虚言はいつかバレてしまうのだ。


そして、多くのアンチに囲まれ、視聴者は減っていく。。


愛するファンも減っていき、配信すれば同時接続者数ランキング1桁だった


繁栄はついぞ滅びる寸前になってしまっていた。。


---


放送はおわり、彼女が座席を立つ。


すると・・・。


「カナミ様、放送お疲れ様です!!」


「お疲れ様です!!!」


大声で女性の一声が鳴り響き、続けて3人の女性が声をあげる。


「こ、声が小せぇんだよ!!」


座席から立ち上がった女性は現場の誰よりも声が大きかった。


「カナミ様、放送お疲れ様です!!!」


その声は先程のカナミと同等の声量をとどろかせる。


「出るじゃねぇかよ。さっきのはなんだっただんだよ!!!」


拳で彼女はデスクトップPCのパネル部分を叩く。


ありあまる熱量。もはや脅迫やパワハラと呼んでもいいだろう。


第三者から言われなくても、自分が栄枯盛衰を一番実感し焦燥していたのだ。


「報告!!」


苛立ちを含んだ声をスタッフにぶつける。


「はっ。」


さきほどの声とは対照的に冷静沈着な声を発す


第一声をあげた女性は電子端末をもち、


淡々と読み上げていく。


「先週と比較して、ポジティブ指標をお伝えします。


本日の総視聴者数はマイナス1372人減少。


アクティブ接続者数は8千人を割る瞬間があり、こちらも低下。


割った瞬間の配信内容としては、自動広告がストーリームービー中に


流れた。このことが大きな問題だと推論しております。


今週の同時接続者数ランキングでは68位でした。


同期の星屑ミノリ様は今週の配信においてアクティブ視聴者数7万人を割ることなく


先月同様1位となっております。」


淡々と話す彼女にイライラをつのらせ、そして。


「うっせえええええんだよ!!!!」


怒声をあびせる彼女は血眼になっており、声に迫力を増している。


淡々と報告する女性に彼女はいつも以上に苛立つ。


だが・・・


「もう。。。。どうすりゃいいんだよ。。。


どんどんランキングは落ちていくし、収入も落ちていく。


それなのにアイツはどんどん上に上がっていくしよ。。」


星屑カナミ。


彼女は星屑ミノリとともに事務所からデビューしたVtuberだ。


最初は”癒やされる双子”というコンセプトで二人が1つの配信に


出演する形だった。


だが、星屑ミノリ。彼女はなにもかも違いすぎた。


なかでも卓越するゲームセンス。


これはプロゲーマーが認めるほどの最強の才能だった。


どのゲームをやっても1ヶ月あれば、最難関のコンテンツがクリアできてしまう。


対人戦のゲームでも、あっという間にコツを得てランキングトップ500の中に


彼女のプレイヤーIDが紛れている。


そうしてプロゲーマー界隈にあっという間に進出してしまう。


「なんなんだよ。。あいつは。。


なんで私が持ってないものを。。」


淡々と話す女性と3名の女性をカナミは見る。


「お、お前たちは私が稼げなくなったらどうすんだよ。。


事務所からクビになるのか??」


「いえ、クビになることはありません。私達は配信者ではないので。」


「そ、そっか。よかった。


私は同時接続者数のランキングで100位切るとクビだから・・・さ。」


泣きながら、現実と向き合う彼女は哀愁がただよっていた。


「ですが、さきほど事務所の社長より今月でこの職場は撤退となることが


決定しました。理由としては、今後の収益を計算した際にカナミ様では


よくてプラマイ0、基本ベースややマイナスになることが確定したから。


とのことです。」


「は・・・。。」


突然、伝えられるスタッフの職場撤退。


それは、自分にかけられるコストが大幅に削減されたということであり同時に。。


意味がわかんない。


なにを言っているんだ。こいつは。


ずっと一緒だったスタッフが。。いなくなる??


「お、お前たちがいなくなったら配信機材とか、コメントのモデレーターとか、、、、


グ、グッズだって作ってもらってたよな!????


それはど、どうなるんだよ。。」


「来月からは全て、自分でやっていただくことになります。


カナミ様の熱量でしたら可能との判断を社長は下したとのことです。


また、それに際してこちらの事務所は来月から新人のVtuberの方が使用するため、


カナミ様は再契約の後に自宅からの配信となります。」


うそ・・・でしょ。。


配信者が挫折する理由。


“人が来ない”を事務所の力で解決してもらってた。


その次の理由”アンチコメントに心が荒んでしまう”


これもスタッフがモデレーターとして心が病むコメントをブロックしてくれていた。


全てを克服して、次に必要になるステップ。


“ずっと応援してくれるファンの獲得”


これは私には一切わからず、スタッフに任せっきりにしていた。


その結果が【グッズ展開】だった。


これは、予想以上にうまくいきバズりにバズった。


結果的に安定した同時接続者数の確保に繋がったのだ。


そのグッズの出来上がり。価格以上の満足感。


それはネットニュースになってさらなるファンの獲得につながった。


でもこの人気の根源は私が可愛いから。私が面白いから。私が。。。


それが・・・


私一人だけになるの。。


「み、みんなはなに。。事務所でなんか書類作業とかやるの。。


それとも私とは違う人のスタッフになるの・・・?」


最後はもう何を言っているのか聞こえないような音量で声を捻る。


「はい。全スタッフ来月より星屑ミノリ様のグッズ部門を担当します。」


衝撃の一言だった。


私に与えられた事務所、スタッフは現在においてトップクラス。


創立後、すぐに応募した結果勝ち取った部隊。


それが。。同期に盗られるって・・・。


「カナミ様、同時接続者が減少傾向になって続いてから


あなたは変わられてしまいました。時代錯誤の熱血感。現代でいえばパワハラです。


我々、スタッフに怒声を浴びせ始め備品の破壊をもしてしまう。


我々スタッフも責任を感じ、可能な限りのことはしました。


配信後、嘘の辻褄をあわせるための記事作りは特に大変でした。


それも今月でおしまいです。では残り一週間どうぞよろしくお願いいたします。


失礼いたします。」


スタッフ各位は帰る。


配信前から事務所に来て、音質のチェックや著作権に関する最終確認、


生放送の事故を防止するためのテストなど。


いや、それだけじゃない。グッズ作成も夜な夜な残業してやってくれてた。


私がおかしくなる前は・・・。


それが・・・


崩れてしまったんだ。


いや、私が崩してしまったんだ。


こうして、私は業界最王手のVtuber事務所から


戦力外通告をされ、収入は0となってしまった。


記念のアバター(大量の規約つき)を買い取ったはいいが、


もう表舞台にでることはない。


近々、引っ越しもしなくてはならないだろう。


再契約も考えたが、とてもじゃないがランクが違いすぎる。


大企業の管理職からアルバイトに落ちる程度には、


金額の落差がある。


「もう終わり。。かな。死のっか。」


そう呟くほど私は衰弱してしまった。


これが若くして大金を稼いだ仇。


サポート含め、全て自分の実力だと勘違いしていた。


ネットの中の視聴者ごときが嘘を見抜けるわけない。


お前らと私は対等な立場ではないんだ。と思い始めたあたりから、


崩壊は始まっていたのだろう。


プルルルルッ


机で懺悔していると、一括払いで買った最もスペックが高いスマホ


が鳴る。


はぁ。。もっとお金を貯めとけばよかった。


そんな後悔を胸に電話にでるのだった。


「星屑カナミさんですか??


事務所から許可をいただき、お電話させていただきました。」


かなり若めの男の声。


もうVtuberからOLに転職することを決意しかけていたところに電話きた。


私は力がない応答を続ける。


だが、その言葉を聞いて意識が現実にもってかれる。


「もしよかったら、またVtuberで活動しませんか??」


その言葉。それは灰色の世界だった彼女の視界に色がつく。。


こんなことになるなんて・・・。。。


話を聞くと、スタッフが手を回してくれていたことが明らかになった。


なんなんだよ。。どうしてパワハラばっかの私なんかに


また仕事なんてふってくれるんだよ・・・。。


私は失ったものの大きさを実感し、泣き崩れるのだった。

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