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 ああ、もういいわ。

 公式の夜会で、私を放っておいてバールケ男爵令嬢へと駆け寄り、

「待たせたね」

とかのたまっている夫と、

「アーベル様」

夫からは見えないようにほくそ笑んでいるバールケ男爵令嬢を見て思った。もういい。解放されよう。

 幼い頃から婚約者に決められ、いずれこの国を共に背負うんだと手に手を取り合って成長してきた。恋愛感情こそ持ったことなかったけれど、幼馴染としての情はお互いに持っていると思っていた。

 でも、もうそれも終わりだったんだわ。さっと開いた扇の裏で小さくため息をついたとき、お父様と目があった。私と同じようにうんざりとした冷めた目になったお父様と。互いの目の表情を読み取り合った私とお父様は、密かに頷き合う。

 様子を見ていたけど、もう決断のときだ。私とお父様は、目立たないようにそっとそれぞれ夜会から抜け出す。どうせ陛下は、彼女が聖女認定されて以来骨抜きなバールケ男爵令嬢に夢中で気が付かないだろう。その間に、ことを進めておかなければいけない。

 私は王妃宮に速やかに向かうと、女官長のエデルガルトを呼んだ。

「エデルガルト、撤収よ」

「かしこまりました」

前々からそういうことになる可能性があるとは伝えていたから、エデルガルトの反応は速やかだ。それにしてもさすがの迷いのなさだけれど。

「今夜中には、ご出立の準備が整います」

「今夜中!?」

エデルガルトの有能さはもちろん承知していたけど、驚いて淑女らしからぬ声をあげてしまった。

 いつもなら眉をひそめる王妃にも厳しい女官長だけど、今は見逃してくれた。

「万事朝までには整いますので、殿下はゆっくりお休みください。今夜はお疲れでしょう」

エデルガルトは労わってくれたが、夜会に出席していた時間は短いからそうでもない。……いえやはり疲れているわね。

 これまでを思い出して考え直すと、

「では、負担をかけますがお願いね」

私はエデルガルトの言葉に甘えることにした。

 次の日目覚めたときには、エデルガルトの言葉のとおり王妃宮からの撤収の準備が完了していた。王妃宮に仕えてくれているみんなの行く先の王都内の我が実家の別宅の準備もできているそうだ。私が王妃を退いた後は、そのまま私に仕えるか、それとも次の職場の斡旋を受けるか選べるようにするとは伝えてある。王妃宮に仕えていたというのは、私が言うのも口幅ったいが、かなり箔が付くことなのだ。

「では、参りましょう」

こうして私はこれを最後に王妃宮を出ていった。後で余計な因縁をつけられないように、私が指示したとおり王妃宮からは誰もいなくなり、これをもって王妃宮は閉鎖された。

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