コミュ障キモヲタ少年がエリート騎士団にやってきた。⑦
あれ?これまで主人公の妄想の中にしかラブコメが出てきてないような。
第7話
「彼女の瞳に映るモノ」
はっきりと言おう。僕は適当という言葉がとても好きだ。
人によっては杜撰だったり手抜きだったり悪い意味に捉えてしまうけれど、僕の場合は程良い感じや上手く当てはめるといった感じで良い意味に捉えているからだ。
だから一生懸命生きていこうとする必要はなく、より適当に生きれば良い。欺瞞ではない。
だから簡単に何かを託さないで欲しいと思うのだ。託されてしまうと一生懸命になり、そこから打算が生まれる。より良い結婚、いや、結果をと! そうして都合よく僕は思うのだ。そんな僕が報われる事があってもいいじゃないか! 美少女といい仲になってもいいじゃないか! 美少女な彼女が出来てもいいじゃないか! と。打算から生じる叶いもしない泡沫の夢を。
目の前にいる赤い髪の少女はポカーンと口を開けたあと、なにこいつ? なんでまたいるの? 超絶キモ!! 死んでくんない? といった風な強気の顔つきと。
怯えを隠した瞳を、僕にむけていた・・・。
─────あれは今から1時間ほど前の出来事にさかのぼる。
【無断侵入からの連続子女暴行事件の主犯】などという濡衣を晴らす為にリンダ寮長と僕が師団事務所を訪ねると、すでにエリザヴェータ第二皇女様、ルーズリッター団長、それとラームット卿というじい様が待っていた。
リンダ寮長の口添えもあってスムーズに暴行事件の顛末を説明できたのだが話が終わるとルーズリッター団長が大笑いしながら今回の騒ぎの『裏事情』と云うべきものをおしえてくれた。
「赤い髪のあれは、ラームット卿の末娘なんだけどね。あの娘は脇が甘いというか、プッ、ひと月ほど前のエリザヴェータ様の16歳記念パーティの際にちょっとおかしな事にププッ!なってだな・・・」
ルーズリッター団長の含み笑い説明が非常にウザい、いやなんか忌々しいのでまあ要約すると。
①赤髪少女のクラリネがとあるパーティで社交界デビューをした時にたちの悪いイケメン貴族に薬を盛られて休憩室に連れ込まれてしまった。
②パーティに参加していたリンダさんがいなくなったクラリネに気づいて休憩室に踏み込んだところすでにドレスをはだけられたクラリネが横たわっていた。
③リンダさんはすぐに男を打ち殺し助けだしたが行為の有無までは定かでなく、女性医療機関を尋ねることを勧めたが【男遊び、売女、淫乱少女】などの悪い噂が広まると妄想気味にクラリネが思い込み頑なに固辞するので困っていた。
④軍の規則に【軍生活で性的被害の疑いがあれば必ず女性医療機関で調べること】とあるのでコレを利用して女性医療機関を受診させることにした。
⑤絶対に手を出さない暴漢役を作り出し、クラリネの部屋に誘導して一騒動起こしてもらう。
⑥そこにリンダ寮長が踏み込んで暴漢を捕縛、規則にしたがいクラリネにはあくまで被害者として検査をうけさせる。そういった裏事情で関係者は動いていたとのことだった。
その裏工作を仕切っていたのは作戦立案のエリザヴェータ様、ラームット卿、作戦指揮のルーズリッター団長。現場対応のリンダさん、という事らしい・・・。
ウ、ウ、ウ、ウッ、ウッゼエェェェーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
ヲイ! ふさけるなよ。クラリネを強引にでも医療機関に連れて行けばいいだけじゃねーかよ! 妄想女子に振り回されてる上にその暴漢役が完全に人柱じゃねーか! もうこれ完全にあれだよね。噂になってるよね? 僕が鬼畜な変態野郎だって噂、超広まっているよね? 被害者僕なのにクラリネ被害者じゃん!って見事に作戦通りでぐぅの音もでんわ!
僕の方はもう表を歩けない!! 汚された、心も身体も! ・・・ん?なんか元々が汚点だらけの人生だし別にいいのか・・・? キモヲタが白い目で見られるの平常運転だしな、なんか怒りが治まってきたぞ。まあ、美少女の笑顔を取り戻すためと言えなくもない。救われない思いがするのは気の所為か?
「ロイ。お前には悪かったと思っている、まあ私の生足をたっぷり見た代償と思って我慢してくれ。ププッ。なんなら触ってみるか?んん?靴の裏でよければな」
「不本意だけど私からも謝罪するわ。ところで生足をたっぷりと観た?そこの変態色欲魔、どうゆう事か詳しく聞かせて頂戴。場合によっては縊り殺すわよ」
「君がマクエル君だね。ラームットじゃ。末娘の為にすまなんだの。しかし君、ブサイクじゃの・・・ゴホッゴホゴホッ!本音がウッウウン!いやなんでもない」
ゼロ! 僕の心を癒やす言葉超ゼロ! なにこの三人? ねえ頭大丈夫? 騙されて傷心の少年にかける言葉それぇ? 全く心のこもっていない謝罪+ここで言う? のブサイク砲! いや〜もうね、なんか色々とアザース!!! お腹いっぱいで〜す。 うっ、うっ、じいちゃん〜、何だか前が霞んで見えないよ。どうしてだろう・・・。
『ポン』『ポン』
両肩に手が置かれたので振り返ると、見覚えの無い男二人が僕に憐憫の瞳をむけていた。角張った顔のおっさんとメガネのイケメンだ。軍服を着ているから軍人の人かな?ありがとう。あなた達は分かってくれてるんだね、この鬼の所業を。少し救われました。退団するのは思い留まることにします。
「ロイ・マクエル、あなたもう用無しだから退団したらどう? ・・・案外と道端で野垂れ死ぬ貴方も素敵かも知れないわね」
「エ、エリザヴェータ様、もっとオブラートに包んでください。遠回しに促して下さい。野垂れ死にはエグルストン公国の名に傷が付きます」
エリザヴェータ様の後ろからのツッコミ見事っす。アントニオさんあざマース。ちなみにそれ何のフォローにもなってませーん。 何回ツッコミさせるねん。さっきからすごい疲れるわ、ほんま・・・。
「まあ、冗談はこの男の顔面だけにしてリンダ寮長。事件後の事態収束とこの色欲魔、いや腐れ外道、違うわ顔面偏差値25男の汚名返上はやはり簡単ではないかしら?」
「左様ですね。ロイを限りなく黒な暴行犯に仕立て上げましたので。クラリネはおろか、近衛候補生全員がロイが同宿舎に泊まることを許さないと思われます」
エリザヴェータ様とリンダさんは少し深刻な感じで黙り込んだ。それはそうだろう。次は自分が襲われるかもしれないのに誰が好き好んで犯罪者とひとつ屋根の下に暮らすというのだろう。濡衣だけどね。顔面偏差値は35ぐらいはあると思う。
「軍宿舎での空き部屋もないな。規定人数分の部屋しかない。それに犯罪者の為に部屋のシェアをしてくれる奴もいないだろう。」
ルーズリッター団長もそう漏らすとちょっと考え込んでしまった。
あれ? マジで雲行きが怪しくなってきた。キチンと理由があるなら退団もやむを得ないだろう。うむ、残念だ。入団期間1日でも退団金はでるのだろうか? できれば近衛師団都合にして頂きたい。しらんけど。
「しょうがないわ、ロイ、わ、私の部屋・・・」
「ならば仕方無い、ロイ、わ、私の部屋・・・」
エリザヴェータ様とリンダさんの言葉がリンクする。なんで今 瞬間、心重ねて になっちゃうの。シ○クロ率何%なの?ヤバい、違うお話しになってしまう。逃げちゃ駄目だ逃げちゃ駄目だ。
二人ともに互いをにらみ合い? ながら、牽制してる?これどうゆう状況なの? 都市伝説と思っていたがついにきたのか! キモヲタにもモテ期がぁ!!?
「私の部屋の前に犬小屋を用意するからよろこんで飼われて頂戴」
「私の部屋の奥にトイレがあるから羽をのばしてくれたらいいぞ」
・・・・・・・・・・・うん。知ってた定期。
キモヲタにモテ期とか(笑)あるわけがなかった。美少女や美女達にしたらヲタクなど畜生や虫と同じでした。全てに於いて報われない。おまけに二人とも互いにわかってるね〜的な表情だ。マジなんなの?
「ちょっと楽しんでるところよいか?儂からマクエル君を見込んで、ひとつ頼みたいことがあるんだが。」
「?」「?」「?」「・・・」
楽しんでね〜よ、オッサン。何処に楽しい要素があんだよ?もう疲れたからツッコまないよ。
「ロイ・マクエル君とクラリネなんだが、宿舎での相部屋生活を続けてはもらえんかの?出来れば彼氏彼女みたいな感じで。」
あなた話聞いてましたか?マジブッコロしますよ?
──────────そして話は戻り1時間後。
「ちっ、近寄らないで!ラ、ラン・・ひっ、うっ、だ、駄目。お、お願い、おねがいします・・・」
ここまで怯えられる彼氏ってヤバくね?いや彼氏とか言うのも烏滸がましいんだけどもさ。
生じている全ての問題要素をゴミ箱に投げ捨てて、ロイ・マクエルはラームット卿の依頼により初めての同棲、いや相部屋生活を目の前の赤い髪の美少女と始める事になったのだ。
潤んで揺れる彼女の瞳。恐怖と不安と、それに僅かに狂気を含んだ・・・そんな濁った瞳。
幼い頃の僕の目に、少しだけ似ていると思った。・・・・・・・・・・・・いや、顔は一ミリも似ていません。