コミュ障キモヲタ少年がエリート騎士団にやってきた。⑥
第6話
「キモヲタが去りしハウンズ家の晩餐会」
エグルストン皇国の遥か西方800km余。地平の先が見えない程の広大な大森林がある。大資産家ハウンズ家の管理領地である。
その森林の一角には豪奢な建物が建ち並んでいる区画があり、中でも一際豪華な建物の中からは静かな音楽と人々の談笑が聞こえてくる。
建物の内部は白を基調に調えられた大広間となっていて、そこでは資産家として大成功を収めて今や世界一の大富豪とも噂されるハウンズ家が晩餐会で立食パーティを執り行っていた。
豪華な細工の円卓には美しい刺繍が施されたテーブルクロスが敷かれ、大皿には程良く焼けた肉料理、異国から取り寄せたであろう色とりどりの生野菜、今しがた剥いてきたであろう瑞々しい果物が所狭しと並べられている。
タキシードを華麗に着こなす紳士、豪華なドレスで着飾った淑女、それらの人たちで会場の大広間は溢れんばかりの賑わいを見せていた。
さらに一段高い正面の舞台には有名な楽団が配置され、荘厳な音色で会場を包みこんでいる。舞台袖には歌姫達が控え、決められた時間に歌声を披露して紳士淑女を愉しませる予定である。
この後に開かれるであろうダンスパーティーに備えてか皆食事は嗜む程度で抑えている。その中で一人、黙々と食事を続ける女性がいた。
周りが賑やかに会話の愉しんでいるだけに異質に映るのだが、軽々に声を掛けられないほどの美貌を持つその女性は肉料理を嫋やかながらも次々とその可憐な口の中に吸い込んでいく。その姿に誰もが圧倒されてその行為に口をはさむ者はいない。
この会場には各国の王族貴族は勿論のこと富豪と呼ばれる人々や各地において力のある名士も大勢招かれいて、美しい同伴女性を伴っている。
そんな彼女達からみてもその女性の美貌は群を抜いている。だが周りと一言も言葉を交わさないところからも、明らかに機嫌が悪いであろう事が察せられた。
「そのぐらいにしたらどうだ?マーガレッタ。気品のなさはハウンズの名を貶める。・・・晩餐の後は主催者として挨拶も控えているんだぞ」
後ろからその美貌の女性に近づくと、声のトーンを一段落として銀髪の青年がそう注意する。
「・・・この程度で堕ちる家名ならいくらでも。今日はお父様もお祖父様も来られていないのだし、精一杯自由にやらせて貰います。それよりここで油を売っていて好いのかしら? レイ兄様もこのパーティの主催者でなくて?」
「遠目にもお前のドカ食いが目に付くんだ。周りのお歴々から微妙な視線を送られるこちらの身にもなってみろ」
「ふん。いつもはどんな視線を向けられても全くお気に為さらないのに? 聞いてますわよ。悪名高いデーダス公爵を失脚させた手腕。エゲツないやり口でしたわね。それに前回も・・・」
「今日は随分と口数が多いではないか。そちらもいつもは私とは一言も話さないではないか?」
二人は実の兄妹であり、ハウンズ家には男4人女3人の子供達がいる。だがほとんどはそれぞれ独立し、今は三男レイ・ハモンと三女リリ・マーガレッタがハウンズ家を任されている。
『ハウンズ・リリ・マーガレッタ(18歳)』【美貌の三姉妹】と謳われるのハウンズ家の3女。感情を全く隠さない激しい性格。だがその美しさからお見合いの申し込みは跡を絶たない。
『ハウンズ・レイ・ハモン(20歳)』長髪銀髪の青年、ハウンズ家の3男。今はハウンズ家の膨大な資産の管理と財務事務を一任されている。
持っていたスプーンをカン! とテーブルに置くとマーガレッタは立ち上がりレイ・ハモンに向き直った。その瞳は業火を思わせるほど怒りに満ちていた。
「・・・・・・・ロイをハウンズから追い出したのはお父様のお指図なのかしら?話はレイ兄様を通しているわよね?どうゆうご所存なのかお聞きしたいわ」
業火を思わせる瞳とは裏腹に、冷たい冷気を吐き出すような口調でマーガレッタはレイに問いかけた。すでに周りの人々は険悪になりつつある二人から離れていた。「ハウンズ家の者は怒らせるな」が西側諸国の暗黙のルールとなっている。
西側から中央にかけては小国家がひしめくように存在している。だがその内情はといえば、まだまだ治安も悪く悪辣なやり口で私腹を肥やす王族や貴族たちも多い。
その中でハウンズ家は莫大な資産を持って国家間と繋がり、貿易や流通に厳格なルールを設けると守らない王族貴族を排除した。勿論守らない国や王族貴族はいた。
しかしハウンズ家に目を付けられ、物流や金銭取引を完全封鎖されて国家ごと干上がり崩壊した国がいくつもある。
しかもただ経済で締め上げるだけではない。余り目立ちはしないがいざとなったら軍事力も相当なものがあるはずと思われていた。
触らぬ神に祟りなし、と今では西側諸国の多くはルールを守るようになり治安も数年前よりずっと良くなっている。
隠せない程の強い怒気を持って立ち上がる姿を見てやはりそうだったか、とレイ・ハモンは思った。此処にきた理由が『ロイ・マクエル』にあるだろうことは察しがついていた。
気分屋なマーガレッタが晩餐会を企画し関係各所に通達と根回し終わらせてから当日の応対を私に申し出た。ハウンズ家の家長代理としては無視はできない。
回りくどいやり方だが互いに運営の実務で多忙を極めている、こうしてハウンズ家主催の大きな催しでもない限り中々顔を合わせない。
「父上の考えまでは解らない。ただエグルストン皇国の『近衛騎士招喚通知』と、この封書に入っている羊皮紙の指示に従ったのは確かだ」
ハモンは封書ごと羊皮紙をマーガレッタに渡した。封書裏には父と祖父の名前が連名されている。羊皮紙の内容も勿論知っている。『ハウンズ・ロイ・マクエルをハウンズ家の縁戚から外し、エグルストン皇国に行かせよ』とだけある。
──────────非凡なものを持っている。
かつてレイの目には末弟ロイ・マクエルがそう映った。いや、感じた。ただそれが何なのか? 弟は本当は何者なのか? 一体何をするべき男なのかが、最後まで解らなかった。
物事の理解が早く、驚くほど計算が早かった。100桁の計算を暗算でスラスラ解いた10歳児に驚愕したものだった。
幼い頃に算数、数学、物理学と教え込もうとしたが逃げられてしまった。随分と酷いことを言ったりもした。ロイはほとんどの時間を森で過ごすようになり。ロイとレイの関係は何処かでねじ曲がった。
無論、今回の事を悩まなかったわけではなかった。だが、ロイをこのまま小さい森に押し込めたくもなかった。必ず何かを、自分の様な凡百の輩に成せない偉業をやり遂げられる男のはずだった。
父や祖父の考えはどうであれ、自分はこの近衛騎士招喚通知がロイにとっての飛躍になると信じたのだ。
「・・・・・・絶対に納得いかないわ。お祖父様までなに? そんなに今のロイが厄介者なわけ? あの子はただ・・・一人で静かに暮らしたいだけじゃないの。それをみんなで寄ってたかって」
羊皮紙を読んだであろうマーガレッタは肩を震わせている。泣いているのだろうか。いつも冷徹な目で物事を判断する。情の人ではない。それが・・・
「マーガレッタ。私をどう思おうと一向に構わん、今は憎んでくれても良い。アイツは、ロイはなぜか人を惹きつける。何処にいようと必ず無事でいて、やがてはその才覚で頭角を現すだろう・・・」
【英雄の器】とはそうゆうもののはずだ。
今回は割と真面目っぽい話になりました。
きっとロイが出て来ないとこんなに感じになるのかもしれません。
ブヒり主人公がいないと盛り上がりませんかね?
どうなんでしょうか?