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才能は流星魔法  作者: 神無月 紅
異世界へ

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80/178

0080話

 結局パトリックはソフィアからの提案を受け入れ、その場から去っていく。

 そんな白き眼球の後ろ姿を見送ったソフィアは、特に緊張した様子もなく本陣のある場所……つまり、ベヒモスの骨のある場所に戻ってくる。


「ソフィア様、ご無事ですか?」

「見れば分かるでしょう? あの状況で向こうが何か妙な真似をする可能性はまずないし、もしあったらあったで、私がそう簡単にやられると思ってるの?」


 手にした魔槍を軽く振るうソフィア。

 本人にしてみれば、特に力を入れて振った訳ではないのだろう。

 だが、それでも……一流と呼ぶに相応しい精鋭が多数を占めるこの場においても、多くの者がソフィアの振るった何気ない一撃に目を奪われることになる。

 それだけソフィアの今の一撃は鋭いものだったのだ。


「そうですね。普通ならこういう状況で向こうが何か妙な真似をするようなことはないでしょう。ですが、追い詰められた状態で一気に逆転を狙う……などといったような真似をする場合、それこそどういう手段に打って出て来るか分かりません。もしかしらという可能性もあるかと」

「そうなったらそうなったで、あの場で一気に相手を殲滅すればいいだけよ」


 何の気負いもなくそう言うのは、自分にそれが出来るだけの実力があると理解しているからだろうし、そして事実そのようなことになっていた場合、どうにでも出来たのだろう。

 ソフィアの実力を思えば、それは妄想でも何でもなく歴とした事実だった。


「ソフィア様が強いのは、この場にいるものなら全員が分かっています。ですが……いえ、だからこそ余計にソフィア様のことを心配する者がいるのも事実なんです」


 話を聞いていた女の傭兵がそう言うと、ソフィアも咄嗟に反論するようなことは出来ず、小さく息を吐いてから黄金の髪を掻き上げつつ口を開く。


「そうかもしれないわね。心配をかけたみたいだから、そこは謝るわ」

「あ、いえ。その……すいません。本来なら私なんかがソフィア様の心配をするのは出すぎた真似ですから」

「あら、別にそこで謝らなくてもいいのよ? 私のことを心配してくれたんだから」


 そう言い、笑みを浮かべるソフィア。

 そんなソフィアの様子に、話していた女の傭兵は目を奪われてしまう。

 今ここでそのような真似をしているような余裕はないと、そう理解はしている。

 理解しているのだが、それでもソフィアの様子に目を奪われるなという方が無理だった。


「イオ、恐らくもう大丈夫だとは思うけど、それでもいつまた敵が姿を現さないとも限らないわ。何かあったとき、すぐに流星魔法を使えるようにしておいてちょうだい」

「あ、はい。分かりました」


 話していた女の傭兵だけではなく、実はイオも今のソフィアの笑みに目を奪われていたのだが……イオは自分がそんな様子だったということを何とか隠しながら――多くの者には隠せていなかったが――頷く。


「でも、この状況でまた敵が襲ってくるということはありますか? ただでさえさっきのメテオで混乱してるところに、ギュンターさんが戦場を荒らしに行ってるし、それ以外でもさっきの白き眼球もそれに協力する形となりますし」


 白き眼球は、正確にはギュンターに協力をするといった訳ではない。

 ギュンターは戦場を混乱させ、黎明の覇者に攻撃を集中させないようにするというのが目的だ。

 それに対し、白き眼球はベヒモスの素材を少しでも貰うために、他の勢力を撃破……あるいは説得して撤退して貰うのが目的だった。

 大きく見た場合は、ギュンターと白き眼球……正確にはそれを率いていたパトリックは同じような目的に思えるものの、もし戦場で遭遇した場合はどうなるか。

 一応、ソフィアがパトリックに合い言葉のようなものを教えてはいるものの、それでも双方がぶつからずに上手くいくかどうかというのは微妙なところだろう。


「戦場が混乱するのは間違いないでしょうね。けど……だからこそ、そんな混乱に巻き込まれるよりはと、白き眼球のパトリックのようにこちらに接触してくる相手も増える可能性はあるわ。もっとも、パトリックのような内容ではなく、一気にこちらを倒そうと思う者もいるかもしれないけど」


 その言葉には、誰も反対を口にしない。

 実際にそのような状況になってもおかしくはないと理解している者が多いからだろう。

 だからこそ、ソフィアはいざというときのためにイオに向かっていつでも流星魔法を使えるようにしておけと言ったのだから。

 黎明の覇者に挑んでくる者がいたとして、そのような者たちは当然ながら先程のメテオを脅威に思っているはずだ。


「イオを奪おうとする者や、ベヒモスの素材を奪おうとする者。そのような者たちを相手にして、私たちが退くようはことは一切ないから、皆もそのつもりでいなさい」


 ソフィアの言葉に、話を聞いた者たちは全員が頷くのだった。






 ソフィアたちがベヒモスの骨の側で守りを固めている頃、ギュンターは部隊――というには人数が少ないが――を率いて戦場を走り回っていた。


「ギュンターさん、前方に怪しい集団を発見しました!」


 視力のいい傭兵の一人がそう叫ぶと、ギュンターは迷わずに決断する。


「よし、突撃するぞ。だが、いいか。分かっていると思うが、俺たちがやるのは戦場を荒らすことだ。その場に留まって戦いを継続するのではなく、突入して攻撃をしながらその場所を突破する!」


 ギュンターのその指示に、話を聞いていた者たちは揃って返事をする。

 腕利きを集めて移動しているこの集団だったが、それでも同じ場所に留まって戦うというような真似をすれば、多少なりとも怪我をする者も多いだろう。

 そうして怪我が積み重なれば、最終的にギュンターたちは戦えなくなり……あるいは戦いに負けて殺されるといった可能性も否定は出来なかった。

 であれば、素早く相手の集団に突撃し、その集団を馬上から攻撃しながら突っ込みながら突破するといったような真似をした方がいい。

 そのような攻撃であっても、ダメージを受ける危険はある。

 敵の中に突っ込むのだから、当然のようにそれに対応する者も出て来るだろう。

 ここに集まっている勢力の多くは精鋭と呼ぶに相応しい存在なのだから。

 しかし、そのような相手であっても一方的に攻撃し、相手が動揺している間に突破するといった真似は、ギュンターやそのギュンターが選んだ者であれば出来る。

 そして実際、今ここまでそれを無事に行ってきたのも事実なのだ。

 そうである以上、これからも同じようなことをして次々と敵にダメージを与えてはその場から逃げ出すといった真似は、かなり有効なはずだった。


「他の勢力同士の争いはどうなっている?」

「……見た感じ、そこまで大きくはなってないみたいです」


 ギュンターの確認するような言葉に、背後の様子を見ていた者がそう告げる。

 その報告に、ギュンターは少しだけ残念そうな様子を見せた。

 何度も敵に突っ込めば、それによって敵は混乱する。

 しかし、当然ながら全員が混乱して何も対処出来ない訳ではなく、自分たちにちょっかいを出してきた相手に反撃をし、即座に撤退したギュンターたちを追撃するといった者もいる。

 当然ながら、そのような相手を撃退するのはギュンターたちにとって難しい話ではない。

 だが……ギュンターたちは、敢えて追撃を行ってきた者たちを引き連れてまた別の集団に突っ込むといった真似をしていた。

 その結果として、結構な人数の者達は混乱に巻き込まれ、中にはギュンターたち以外の勢力同士でぶつかりあったり……といったことにもなっている。

 ギュンターたちにとっては、出来るだけ戦場は混乱してくれた方がありがたい。

 そういう意味では、出来れば自分たちが暴れているだけではなく、他の勢力同士でもぶつかって欲しいというのが正直なところなのだが……残念ながら、そう都合よくはいかないらしい。


「それならそれで仕方がないか。今はとにかく、向こうにいる勢力を……待て」


 遠くに見えた勢力に向かった突っ込もうとしたギュンターだったが、突撃の指示を出す直線に言葉を止める。

 その話を聞いていた面々は特に困惑するようなこともなく、何があってもすぐ対処出来るように準備をする。

 ギュンターのことを少しでも知っていれば、今のような態度となったときに一体何があったのかは、大体予想出来た。

 そしてギュンターが待てと言って少しすると、やがてギュンターたちのいる方に近付いて来る集団の姿が視界に映る。

 最初こそ敵なのかと思ったのだが、その敵は自分たちに対して敵意や殺意を抱いているようには思えない。

 だからこそ、その集団に向かって攻撃をしろといったようなことは命令として出さなかった。

 ギュンターたちと近付いて来た集団は、沈黙を保ったまま近付いていく。

 ギュンターの部下たちは、相手が妙な真似をしたらすぐにでも攻撃出来るように準備をする。

 今は敵意や殺意がないか、もしかしたらそれを隠せるだけの技量を持っているかもしれない。

 あるいは話をしている最中に交渉が決裂して襲ってくるとも限らないと思ったからこその行動。

 なお、それはギュンター側だけではなく、近付いて来る集団も同様だ。

 そうして十分に距離が縮まったところで、近付いて来た集団の先頭に立つ人物が口を開く。


「俺はパトリック。白き眼球の副団長だ」

「黎明の覇者のギュンターだ。それで、こうしてわざわざやって来たんだ。何か理由があってのことだろう?」

「ああ。俺たちは黎明の覇者と協力関係にある」

「何?」


 ギュンターが訝しげに呟くのと、ギュンターの部下たちの視線が鋭くなるのは同時だった。

 この状況で自分たち黎明の覇者と協力関係にあると言ってきたのだから、それを信じろという方が無理だろう。

 何かを誤魔化してそんな風に言ってるのだろう。

 そう思い、ギュンターやその部下たちは武器を構え……それを見たパトリックは、慌てて苦ちをを開く。


「待ってくれ。怪しむのは分かる。だが……『青の糸を引く狼は水を飲む』」


 その言葉を聞き、ギュンターは構えていた武器を下ろすのだった。

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