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才能は流星魔法  作者: 神無月 紅
異世界へ

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0071話

 ゾブンの口から出た、宣戦布告ともとれる……いや、そうとしか思えない言葉。

 それを聞いた騎士団達は、即座に攻撃の準備を整える。

 しかし……そんな騎士達を止めたのは、ゾブンと交渉していた男。


「はい、そこまでだ。取りあえず今はまだ攻撃をしないように。……いいな?」


 そんな言葉に、騎士たちが構えていた武器を下ろす。

 何のつもりだ?

 ゾブンがそんな疑問を抱くのは当然だろう。

 今のこの状況では、騎士団側が圧倒的に有利だ。

 質という点ではゾブンもアザラカも負けるつもりはなかったが、戦闘に関しては素人のイオと、イオよりは訓練を積んでいるが、それでもまだそこまで強くないレックスの二人がいる。

 ゾブンたちを相手に牽制し、それで足止めをしている間にイオを連れ去るといった真似をされた場合、それはゾブンとアザラカにとってかなり厳しいことになる。

 そうなると分かっている以上は徹底的に反撃するつもりではあったが、それでも今の状況を思えば騎士団側が有利なのは間違いない。

 なのに、何故この状況で攻撃するのを止めたのか。

 ゾブンは最初それを理解出来なかったが、アザラカが視線で合図を送ると、そこでようやくその理由を理解した。

 かなり離れた場所からだが、数人がこちらに向かっているのだ。

 それもゾブンたちに見覚えのあるその相手は……黎明の覇者に所属する傭兵たち。

 ゾブンたちにとって幸いだったのは、ここが前線に近い場所だということだろう。

 だからこそ、黎明の覇者に所属する者たちにとってゾブンたちを認識しやすい状況となっていた。

 同時に暗黒のサソリの傭兵たちが弱く、黎明の覇者に傭兵にしてみれば圧倒的な実力差があった……というのも、この場合は大きいだろう。

 その結果として自分たちが戦っていた相手を倒した者たちが、こうしてゾブンたちの援軍に来るだけの余裕を持つことが出来たのだ。

 そして……こうなると、ゾブンたちにとっても話は変わってくる。

 先程までは、騎士団を相手に自分たちの方が不利だと認識していたものの、その前提は引っ繰り返った。

 今となっては、騎士団との戦いになっても味方の援軍が来るまで持ち堪えることが出来れば、それで自分たちの勝利は確実となる。

 イオとレックスが心配なのは間違いないが、レックスが防御に徹していれば、恐らく味方が来るまで持ち堪えられるはずだった。


「なるほどな。……で、どうする? 俺としてはもう少しここでお喋りをしていてもいいんだが」


 時間の経過は、自分たちにとって有利になる。

 そう理解したゾブンの言葉に、交渉をしていた男……騎士団の隊長は嫌そうな表情で口を開く。


「今この場でお喋りをしても、それはそっちにとって利益しかないだろ。それに……ここで下手に時間を使えば、それはこちらにとって不利になる。そう分かっている以上、時間稼ぎには付き合ってられないな。撤退! 撤退するぞ!」

「ちょ……隊長!?」


 隊長の発した撤退という命令に、副官は納得出来ないといった表情を浮かべる。

 ここで撤退するのなら、何をする為にわざわざここに来たのか……そんな風に思ったからだろう。

 そう思ったのは副隊長だけではなく、他の者達も口には出さないものの不満そうな表情を浮かべている者はいた。

 まさか隊長がこのような状況ですぐに撤退するように指示を出すというのは、完全に予想外だったのだろう。


「後ろを見てみろ。黎明の覇者の援軍が来ている以上、ここでこれ以上粘っても意味はない。それどころか、こちらが負ける。……忘れるな、こいつらはその辺のどこにでもいる傭兵団ではない。黎明の覇者だ」


 改めて隊長の口からそのようなことを言われると、他の騎士たちも何も言えなくなる。

 もしここで黎明の覇者と正面から戦った場合、自分たちが負ける……とは思いたくはないが、その可能性が高い。

 あるいはもし勝ったとしても、騎士団側が受ける被害も大きくなるのは間違いなかった。

 そうである以上、今はもうこれ以上ここにいる必要はない。

 ただ……撤退する前に、やっておくべきことはあった。


「君、名前を聞かせて貰えるか?」


 隊長がイオに向かってそう尋ねる。

 一瞬、名前を言ってもいいのか? といった疑問を抱いたイオだったが、自分という存在を知られてしまった以上、ドレミナの騎士団ならすぐに分かるだろうと判断し、頷く。


「イオです」


 どのみち相手に名前を知られてしまうのなら、ここで自分から言っておいた方がいい。

 そう判断したイオが自分の名前を名乗ると、隊長はじっとイオを見てくる。

 イオもまた、そんな隊長の視線に負ける訳にはいかないと隊長に視線を返す。

 数秒……もしくは十数秒ほど視線を合わせていた二人だったが、遠くからやってくる黎明の覇者の傭兵たちが近付いてきたのを感じた副長が口を開く。


「隊長、そろそろ移動した方がいいかと」

「そうだな。……イオだったか。もし黎明の覇者でやってけないと思ったら、ドレミナの騎士団を尋ねてみるといい。そうすれば、決して悪く扱わないことを約束しよう」


 その言葉を最後に、騎士団は隊長に率いられて去っていく。

 イオにしてみれば、今のやり取りはある意味で向こうの計算通りなのだろうと思うと同時に、それでも決して悪い印象だけを与えるようなものではない。


「取りあえず、これで安心ですね」


 そうイオが言うと、ゾブンが少しだけ心配そうな視線をイオに向ける。

 今のやり取りでイオの興味が騎士団に向けられたのではないかと、そんな風に思ったのだろう。

 実際、その心配はそこまで大袈裟なものではない。

 だが同時に、騎士団に興味を持ちはしたが、黎明の覇者に対してはそれ以上に興味を抱いているし、何よりもあの騎士団はドレミナの騎士団なのだ。

 ドレミナの領主が色々と問題があるというのをソフィアから聞いているイオにしてみれば、今のような状況で騎士団に入ろうなどという考えは一切なかった。


「安心して下さい。今のところ、俺が騎士団に行くなんてことはないですから、それに黎明の覇者には色々と親切にして貰ってますので、それを裏切るような真似はしたくないですし」

「そうか。お前がそう言うのなら、それでいい」


 ゾブンがそう言い、隣にいたアザラカは安堵した様子で頷く。

 そんなやり取りをしていると、黎明の覇者の援軍がようやく到着した。

 ……実際には、ようやくという表現は相応しくないのだが。

 騎士団がいなくなってからやってきた援軍だったが、それは騎士団の撤退の決断がそれだけ素早かったということだろう。

 同時に、騎士団としても本格的に黎明の覇者とぶつかるような真似は避けたかったという考えもあったのは間違いない。


「悪いな、ちょっと時間が掛かったらしい。……けど、どうやらそっちは無事だったようで何よりだ」


 援軍としてやって来た男が、ゾブンたちを見てそんな風に言う。

 しかし、ゾブンは少し不機嫌そうにしながら口を開く。


「出来れば、もっと早く来て欲しかったんだがな。もう少しくるのが遅ければ、ドレミナの騎士団と正面からぶつかるようなことになっていたかもしれないぞ」

「やっぱりさっきのはドレミナの騎士団か」


 傭兵と違い、騎士団は基本的に全員が揃いの装備を身に着けている。

 だからこそ、遠目から見ても先程の者達が傭兵団ではなく騎士団であると、そう予想することが出来たのだろう。

 イオにしてみれば、そんな判断力は凄いと思わないでもなかったが、

 この辺りの能力は、やはり戦場を何度も駆けてきた経験からくるものなのだろう。


「そうだよ。お前たちが来たから向こうは大人しく退いたが……もしもう少しお前たちが来るのが遅かったら、本格的に戦いになっていた可能性は否定出来ないだろう」

「間に合ったんだから、いいだろう? それに……ゾブンとアザラカがいるんだぞ? そんな状況で、そう簡単にお前たちがやられるとは思わなかったしな」


 仲間からそう言われると、ゾブンも反論出来ない。

 もしここで反論した場合、自分の実力が劣っているといった風に認識されてもおかしくはないのだから。

 そうならないようにするためにも、渋々……本当に渋々ではあるが、ゾブンもこれ以上は不満を口にはしない。


「まぁ、その件はいいとして……これからどうするか、だよな。お前たちが俺たちの援軍に来たということは、そっちの方にいた暗黒のサソリの傭兵は全部倒したのか?」

「ああ。正確には勝ち目がないと判断して逃げ出した奴もいたけどな」


 それはイオにとっても少し驚きではある。

 暗黒のサソリの傭兵は、誰もが気の強い性格に思えたからだ。

 そんな暗黒のサソリの傭兵たちが逃げ出すというのは、それこそ援軍に来た傭兵たちがよほど大暴れをしたからなのだろうというくらいは予想出来る。

 とはいえ、ランクA傭兵団である黎明の覇者の傭兵……それもソフィアと一緒にこの場所にかけつけるような精鋭であると考えれば、そのくらいの実力は当然なのだろうが。

 事実、どこの勢力かは分からないが中年の男が襲ってきたときはゾブンとアザラカの二人でも倒しきれなかったが、そのあとで遭遇した暗黒のサソリの傭兵たちは、鎧袖一触という言葉が相応しいくらい、圧倒していたのだから。

 そうである以上、黎明の覇者と暗黒のサソリの傭兵の間には大きな力の差があるのは間違いなかった。



「それで、これからどうするんだ? 今回は騎士団の方から退いてくれたが、次に出て来る連中も同じように大人しく退いてくれるとは思わないぜ?」



 援軍で来た男の一人が、心配そうにそう告げる。

 男にしてみれば、自分たちが纏まっているから戦力としては十分に協力だとは思うが、それでも人数的にはまだそこまで多くはない。

 そうである以上、先程の騎士団のように大人しく退いてくれない場合……それこそ、イオを力づくで入手しようとした相手がいる場合、対処するのは難しくなってしまうのは間違いないだろう。

 そんな相手に、一体どうすればいいのか。

 そうして相談するゾブンやアザラカたちを見ながら……イオは、先程は却下された意見を再び口にする。


「俺が流星魔法を使うのは、どうでしょう?」

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