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才能は流星魔法  作者: 神無月 紅
異世界へ

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0070話

 イオたちは、避難する場所を求めて移動していた。

 そんな中で向かったのは、当初の予想通り前線。

 それでいながら、ソフィアには頼らないですむ場所。

 そんな場所に向かっている最中、当然ながら襲ってくる敵もいる。


「いたぞ、黎明の覇者の傭兵だ! 殺せ、殺せ、殺せえぇっ!」


 短気で凶暴な性格を持っている暗黒のサソリの傭兵たちは、イオたちを見つけると即座に攻撃してくる。

 ただし、当然ながら……


「邪魔だ」

「自分の強さを理解した上で攻撃してこい」


 ゾブンとアザラカによって、攻撃をしてきた敵は即座に倒される。

 元々ゾブンたちが強いというのは、イオも理解していた。

 しかし、先程襲ってきた中年の男との戦いでは二対一でも倒すことが出来なかった。

 それを見れば、若干……本当に若干ではあっても、イオがゾブンたちの実力に疑問を抱くのはおかしくはないだろう。

 黎明の覇者の中でも特に選ばれた精鋭であるというのは知っていたが、それでもやはり実際に目の前で行われた戦いの中で、しっかりとその実力を認識することが出来ることにより安心する。


「うわ……凄いな」

「そうですね。ですが、黎明の覇者の傭兵であると知っていれば、むしろこのくらいはやれて当然といった気もしますが」


 二人の凄さに驚くイオに対し、レックスは特に驚いた様子はなく、これが当然の結果だと言いたげだった。

 この世界に来たばかりのイオと違い、レックスは子供の頃から英雄としての傭兵に憧れており、そんな中で当然のように多くの傭兵団について調べている。

 そんなレックスが調べた傭兵団の中でも、黎明の覇者というのは最高峰の傭兵団の一つだ。

 だからこそ、暗黒のサソリという傭兵団を相手にこれだけの実力を発揮するのは当然のことなのだろう。


「ほら、いつまでも話してないでさっさと行くぞ。……ったく、やっぱり馬に乗ってくればよかったか?」


 ソフィアと共にこの場所までやって来たゾブンたちである以上、当然ながら馬に乗って移動してきていた。

 しかし、今は馬に乗っていない。

 それは単純にイオとレックスの護衛をするとなると、馬が邪魔になるからだ。

 護衛対象のイオたちが馬車にでも乗ってるのならまだしも、歩きである以上、それは当然の結果だった。

 ……あるいは馬の後ろにイオやレックスを乗せるといった方法もあったのだろうが、それはイオやレックスが乗馬の経験がないという時点で却下された。

 何もないときならともかく、ここは戦場だ。

 そんな場所で乗馬の心得がない者を後ろに乗せて移動していた場合、一体どんなトラブルが起きるか分からない。

 最悪の場合、戦いの最中で馬を暴走させてどこかに突っ込ませる……などといった真似をしかねないのだ。

 だからこそ、イオとレックスの護衛をするのに、馬は邪魔だった。

 とはいえ、ゾブンたちは少しだけそれを後悔していたのだが。

 馬に乗っていれば、当然ながら高い機動力によって戦場を素早く移動出来る。

 こうして前線に向かっている途中で、敵と遭遇する機会を減らすという意味では十分な機動力が。


「まぁ、今この状態でそんなことを考えても意味はないがな。今はとにかく、出来るだけ敵に遭遇しないで移動するのを優先した方がいい」


 ゾブンのその言葉に、他の三人も同意するように頷く。

 敵と遭遇すれば、当然のように戦いになる。

 そうなれば、戦っている間に他の勢力の者たちも集まってくる可能性があった。

 そうならないようにするためには、やはり素早く移動する必要がある。

 とはいえ、今は前線に向かっているのだ。

 そうである以上、自然と敵と遭遇することになるのだが。

 もっとも、そのような状況で遭遇するのは、あくまでも暗黒のサソリの傭兵であって、先程の中年の男のような強さを持つ傭兵ではない。

 そういう意味では、そのような強力な傭兵と遭遇しないようにするために前線に出るというのはおかしい話ではなかった。


「よし、見えてきた。……そろそろ、いつ暗黒のサソリの傭兵が出て来てもおかしくはない。何があってもいいように注意しろよ」


 先程から同じような注意を何度か受けているのだが、戦場にいる以上はそのような注意を受けるのは当然だろう。

 イオは特に不満を抱くような真似はせず、ゾブンの忠告に対して素直に頷く。

 いざというとき、何があったら対処出来るように杖を握りながら。

 もっとも、イオが実際に魔法を使うようなことになったときは、周囲の被害もとんでもないことになる可能性が高かったが。


「ちっ、またお出ましだ。俺たちが戦ってる間に、その隙を突いて襲ってくる奴がいるかもしれないから、気をつけろよ!」


 そう叫び、ゾブンは少し離れた場所から自分たちに向かって走ってくる相手に対処しようとし……不意に、そんな暗黒のサソリの傭兵たちに対し、別の方向から見覚えのない者たちが姿を現して攻撃をすると、次々に倒していく。


「うん?」


 そんな突然現れた者たちの行動に不思議そうにするゾブン。

 この状況でなら、暗黒のサソリと自分たちを争わせ、漁夫の利を狙うのでは? と疑問に思ったのだろう。

 ましてや、暗黒のサソリの傭兵たちに襲いかかった者たちは、揃いの鎧を身に着けている。

 これは傭兵団としてはそれなりに珍しい。

 実際、黎明の覇者であっても傭兵個人によって着ている鎧を含めて装備は個人で違っているのだから。

 装備を画一化されているというのは、よほど統制のとれた傭兵団か……もしくは、傭兵以外の存在。

 いきなりイオたちの前に姿を現した者たちが具体的にどちらなのかは、イオには分からない。

 ……ただし、分からないのはあくまでもイオであって、他の三人は違った。


「あれは……ドレミナの騎士団? 厄介な存在が出て来たな」


 ゾブンが苦々しげな口調で呟く。

 黎明の覇者は、ゴブリンの軍勢の討伐においてドレミナの領主と契約をしている。

 また、そのような契約の類がなくても、ドレミナで活動する以上は、領主に仕える騎士団の実力を調べるのは当然だった。

 レックスはつい数日前に黎明の覇者に所属したばかりなのだが、それでも黒き蛇という傭兵団に所属していたので、その件でドレミナの騎士団についての情報は得ていた。

 ……黒き蛇は、レックスに対する扱いを見れば分かるように、決して品行方正といった傭兵団ではない。

 それどころか、素行不良で何度も街中で騒動を起こすといったような真似をしている。

 だからこそ警備兵や騎士団についての情報を集めるのは当然であり、本人が騒動を起こすようなことがなくても、黒き蛇に所属しているレックスがその辺に詳しくなるのも当然だった。


「ドレミナの騎士団は突出して強いという訳ではないですが、平均的な……もしくは平均よりも若干上の実力を持っていると聞いています。そうなると、今の状況では……」


 レックスのその言葉に、イオもこの状況が決して楽観出来るものではないと理解する。


「ちなみに、本当にちなみにの話ですけど……俺たちを助けに来てくれた、なんてことはないですか?」

「助けに来たという可能性は否定出来ないが、その場合はあくまでもイオを確保するという意味で助けに来たんだろうな。でなければ、このような場所にいる理由は納得出来ない」


 アザラカがイオの言葉にそう告げる。

 それはつまり、最悪の場合はイオの命は保証されるものの、他の者たちがどうなるのかは分からないということだろう。

 あるいは最悪の場合、イオを保護……という名目の確保をするために、レックスたちを殺すというような真似をしないとも限らない。

 もちろん、レックスはともかく、ゾブンとアザラカの二人は黎明の覇者の中でも精鋭に数えられる二人だ。

 そんな二人を殺すといったような真似をするのなら、それこそ騎士団側にも大きな被害が出るだろう。


「つまり……暗黒のサソリの傭兵たちからは助かったけど、総合的に見た場合は決して助かっていない、それどころか都合の悪い方に向かっている……といった感じですね」

「正解だ」


 イオの言葉にゾブンがそう答えるのと同時に、暗黒のサソリの傭兵を倒し終えた騎士団から何人かの騎兵がイオたちに近付いて来る。


「やあ、どうやら無事だったようだね。俺たちが到着するのが遅れたら、危険なことになっていたかもしれないけど、何とか間に合ってよかったよ」


 にこやかに笑みを浮かべてそう告げてくる男。

 しかし、当然ながら現在ここにいる者でそんな相手を信用するような者はいない。

 ゾブンが警戒した様子で口を開く。


「助けて貰って嬉しいが、あの程度の相手なら俺たちで普通に倒せたんだけどな」

「そうかい? でも、危険だったの間違いないと思うよ。そこで……どうだろう? そちらの杖を持った人物は、見たところ素人のようだ。この戦いの中にそのような者がいると危険だから、こちらで預かろう。私たちが誰なのかは、もう知っているんだろう?」

「ドレミナの騎士団。……だが、それでもこの男、イオは黎明の覇者の客人だ。そしてイオを守るようソフィア様から命令された以上、その役目を譲る気はない」


 ゾブンのその言葉を聞いた男は、少し困ったように口を開く。


「そう言ってもね。こちらも素人を危険な場所に置いておく訳にはいかないんだ。騎士団である以上。民を守る必要がある。それは分かってもらえると思うのだが?」


 その言葉は真実ではあるのだろう。

 だからといって、現在のイオたちの状況でその言葉を素直に聞くといったような真似をする訳にいかないのも事実。

 相手が親切めいた言葉を発しているのは間違いないが、それは同時にイオを欲しているからこその言葉というのは明らかだったのだから。


「そちらの気持ちは理解出来る。しかし、繰り返すようだがイオは俺たちの客人だ。そうである以上、イオを守るのは俺たちの仕事で、それを他人に委ねるつもりはない。それでも、もしどうしてもイオを奪おうとするのなら……」


 そこで一旦言葉を切ったゾブンは、長剣の切っ先を相手に向ける。


「お前たちもイオを奪おうとする者の仲間だと判断して、こちらでも相応の態度を取る必要があるな」


 そう、告げるのだった。

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