0067話
イオとレックス、それと黎明の覇者に所属する二人の傭兵は戦場を移動していた。
流星魔法を使う、もしくは隕石を降らせるマジックアイテムを持つ……はたまた、それ以外の全く未知の手段で隕石を降らせるといったようなことをするイオの存在を、暗黒のサソリに所属する傭兵から隠すためだ。
正確には暗黒のサソリ以外にも、イオを狙っている勢力は多数が存在している。
そのような者たちに、イオを奪われたりしないようにするために移動していたのだが……
「よし、取りあえずここまで移動すれば、そう簡単に見つかったりはしないだろう。もし見つかっても俺たちがいるから、その辺の雑魚なら一人や二人……いや、十人や二十人くらいなら何とかなると思うが」
そう言ってくる護衛の傭兵の一人に、イオは驚きの視線を向ける。
何気なく言った今の言葉は、それだけに十分に実力があってそのような真似を出来ると理解したためだ。
(あ、でもこの二人も黎明の覇者に所属している傭兵なんだから、そういう意味ではこのくらい出来てもおかしくはないのか?)
そんな風に思いながら、イオは自分の隣にいるレックスに視線を向ける。
この世界に来たばかりで、常識という点ではどうしても分からないことが多いイオと違い、レックスはこの世界で生まれた人物だ。
また、英雄のような傭兵に憧れて自分も傭兵になったという経歴の持ち主である以上、二人で二十人を相手にするといったようなことが、実はそこまで珍しくないのか? と視線を向けたのだが……そんなイオの視線に気が付いた様子もなく、レックスは護衛の二人に視線を向けていた。
(いやまぁ、二十人を倒すとなると……俺も流星魔法を使えば出来るだろうけど。ただ、それは色々と違うだろうし)
イオの使う流星魔法と、傭兵たちの戦い。
その二つは相手を倒すという意味では同じものの、それでもどこか違うと思える。
「やっぱり黎明の覇者に所属する傭兵って、一人で十人くらいを相手に出来るような人が多いんですか?」
「ん? ああ、そうだな。その辺は相手の強さにもよる。もちろん、俺たちと同じくらいに強い相手と戦う場合は一人で十人を相手にするのは難しいだろう。けど暗黒のサソリの傭兵程度なら、十人くらいを相手にしても全く問題なく倒せる。なぁ?」
イオに話しかけられた男が、自分の同僚に向かって尋ねる。
そんな言葉に、もう一人も当然といったように頷く。
「暗黒のサソリ程度の相手なら、だけどな。……問題なのは、暗黒サソリを捨て駒に使った他の勢力が一体どれだけの強さを持ってるのかということだろう。その連中が強かった場合は……そうだな。レックス、お前にもイオを守ってもらうことになると思うぞ」
「は……はい!」
まさかここで自分の名前を呼ばれるとは思わなかったのか、レックスは少しだけ裏返った声で返事をする。
レックスにしてみれば、自分が黎明の覇者の傭兵……それも見習いではなく、精鋭と呼ぶべき相手と一緒に戦うことになるというのは、少し前までは全く想像もしていなかった。
「おいおい、緊張するのはその程度にしておけよ。今はお前の力もしっかりと借りたいんだからな」
レックスの緊張を解そうと声をかける傭兵だったが、その目論見は失敗する。
今の一言で、よけいにレックスは緊張してしまったのだ。
「ほら、落ち着け。ここにいるのは俺たちだけじゃなくて、護衛として二人も来てくれているんだ。それなら何かあっても、ある程度は対処出来るだろ。それにさっきの暗黒のサソリの傭兵のことを忘れたのか? レックスが敵を防いで、その隙に俺が流星魔法で倒したんだから」
同じことをまたやれば問題はない。
そう告げるイオの言葉に、レックスは少しだけ安堵した様子を見せる。
「そ、そうですよね。今の状況はさっきよりも大分いいですし。……でも、イオさん。今更の話ですけど、杖は大丈夫なんですか?」
レックスがイオの持っている杖を見て、心配そうに尋ねる。
レックスは馬車の中でイオが流星魔法を使う光景を見ている。
つまり、流星魔法を使ったときに杖が砕けたのを、その目で見ているのだ。
なのに今回は流星魔法を使っても杖は壊れていない。
それをレックスが不思議に思うのは当然の話だろう。
「ん? ああ、杖か。そうなんだよな。さっきのミニメテオを使っても、杖は壊れてない。ただ……問題なのは、その理由が何か分からないことだけど」
イオが思いつく理由としては、二つある。
一つは、単純に先程使ったミニメテオが杖にかける負担が少なかったということ。
ゴブリンの軍勢やベヒモスを倒し、周辺の地形ですら多少なりとも変えてしまうような威力を持つ魔法と、一人の頭部を破壊する程度で、周辺には殆ど被害をもたらさない小規模な魔法。
その二つでは、当然のように杖にかかる負担が違っても当然だろう、
もう一つは、単純に現在イオの持っている杖が今まで使っていた杖よりも高性能な杖だというもの。
イオが以前使っていた杖は、ゴブリンメイジが使っていたと思われる杖だ。
ゴブリンの軍勢を倒して得た杖なので、恐らくそうだ、としか言えないが。
しかし、ゴブリンの軍勢の中には当然ながらゴブリンメイジの上位種がいてもおかしくはないし、そのような存在が使っていた杖は、ゴブリンメイジの物より高い性能を持っていてもおかしくはない。
イオが現在使っている杖は、そのような杖であるという可能性は否定出来なかった。
とはいえ、そんなに都合のいい話があるのか? といった思いもあるのだが。
……ただ、別にイオが現在持っている杖は最初に選んだ杖という訳ではない。
最初に入手した杖はゴブリンの軍勢に流星魔法を使ったときに砕け、次の杖はベヒモスに流星魔法を使ったときに砕けている。
三本目にしてようやくイオの魔力に耐えられるようになった杖を入手出来た……かもしれないというのは、別にそこまで都合がいい訳ではない。
そんな感じで杖について説明していたイオだったが、そんな中で不意に護衛の一人が口を開く。
もう一人の方も、手にした長剣を構えていつでも対処出来るような体勢となっていた。
「イオの杖についての考察は面白いし、出来ればもう少し聞いていたかったんだが……そんな訳にもいかなくなったな。どうやらお客さんのお出ましだ」
お客さん? と一瞬疑問に思ったイオだったが、今のこの状況でやって来るお客さんと言えば、それこそ敵しかいないだろう。
もしかしたら……本当にもしかしたらだが、黎明の覇者の傭兵が援軍に来てくれたという可能性もあったが、護衛の二人の様子を見る限り、イオのそんな楽観的な考えはすぐに否定される。
「イ、イオさん。僕の側に」
精鋭である二人が真剣な表情を浮かべているのに気が付いたレックスは、護衛役としてイオの側に移動すると、真剣な表情でそう告げる。
先程イオの流星魔法で倒したときとは違い、今度は黎明の覇者の精鋭が二人もいる。
そういう意味では、レックスにとって今の状況は決して悪くはないのだが……それでも、やはり緊張してしまう。
あるいは頼りになる人物が二人いるからこそ、イオの護衛以外についてのような余計なことを考えてしまっているのかもしれないが。
「分かった。よろしく頼む。……えっと、流星魔法は使った方がいいですか?」
イオが新たに使えるようになった対個人用の流星魔法は、規模こそ小さいものの、命中すれば相手の頭部を砕くといった凶悪な威力を持つ。
そして杖もまだある以上、ここで敵を倒すのに流星魔法を使ってもいいのでは……そんな風に思ったのだが、そんなイオの言葉は護衛の一人の言葉によってあっさりと否定された。
「止めておけ。お前の魔法は強力だ。だが……だからこそ、何かあった時の切り札として温存しておきたい。それに、今ここで発動したからといってすぐに敵を殺せるという訳でもないんだろう?」
「それは……まぁ、はい」
イオの新たな魔法は、個人用で周囲に与える被害は小さいし、発動も今までのメテオに比べれば非常に早い。
だが、それはあくまでメテオに比べれば早いのであって、イオ以外が使う普通の魔法と比べると、どうしてもその発動は遅くなってしまう。
イオにとって、その辺は何とか改善したいところだった。
……もっとも、どうすればその辺の改善が出来るのか、イオには全く分からない。
個人用の流星魔法を使えると、何故か不意に思ったときのあの感覚がまたやってくれば、もしかしたらどうにかなるかもしれなかったが。
とはいえ、今の状況ではそのような真似が出来ない以上、期待することは出来ないだろう。
ともあれ、イオたちが準備を整えて敵が近付いて来るのを待っていると、やがて一人の男が姿を現す。
中年といった感じの男は、ここにはイオたちしかいないが、それでも戦場になっているこの場所を特に緊張した様子もなく……それこそ、近所の店に何か買い物でもしようとしているかのように姿を現す。
「おや、もしかして俺が当たりだったのかな? で……杖、か。だとすれば、やっぱりさっきの隕石は魔法だったということなのかね? まぁ、それらしいのは確保しておけばいいだけかな」
そう言いつつ、短剣を手にする男。
相手が一体どのような存在なのかは、イオにも分からない。
ただし、こうして見ている限りでは自分を狙ってきたどこかの勢力に所属している相手だろうというのは、容易に予想出来た。
そうである以上、今はとにかく敵であると認識し……いつ何かあってもいいようにする。
とはいえ、レックスや黎明の覇者に所属す傭兵二人が護衛としている以上、そこまで心配する必要はないというのが、イオの正直な気持ちだった。
レックスもそれは同じなのか、先程の緊張はすでにないかのような……いや、実際にはまだ緊張はあるのだろうが、それでもそこまで緊張を表には出していない様子で、相手を見る。
「悪いけど、こいつは俺たちの仲間だ。そう簡単にやる訳にはいかないな」
そんな中、イオの護衛をしていた者が決してイオを渡さないと、そう中年の男に告げるのだった。




