0065話
戦場となっている場所で使われたミニメテオは、当然ながら多くの者に注目を受けることになる。
不幸中の幸いと言うべきか、ミニメテオという魔法名に相応しく、降ってきた隕石はかなりの小ささで、ドレミナのような場所からその隕石を観測することは出来なかった。
……だが、当然ながら実際に戦場にいた者達や、暗黒のサソリの戦いを見て黎明の覇者がどれだけの戦力なのか、あるいは少しでも黎明の覇者の戦力を減らしてくれないかと様子を見ていた者達は、しっかりと今の一連の動きを確認出来た。
「全く……敵をイオの方に行かせたのは、こっちのミスね。とはいえ、流星魔法の秘密を多くの者が探っていた以上、遅かれ早かれこうなっていたのは間違いない、か」
呟きながらも、ソフィアは槍を使って数人の相手にほぼ同時に複数の突きを放ち、倒す。
槍の穂先はその全てが傭兵の頭部を貫いていた。
……頭部を爆散させるのではなく、脳を破壊しながらも頭部そのものを残すといったような、圧倒的なまでに鋭い一撃。
それはソフィアだからこそ出来ることだった。
圧倒的な実力差を見せつけながら、ソフィアは近くにいる部下に指示を出す。
「イオとレックスの場所に援護に向かいなさい。流星魔法を見せた以上、イオを狙ってくる可能性が高いわ。それこそ、暗黒のサソリ以外の勢力もね」
ベヒモスの素材はともかく、ここまでやって来た勢力の多くの目的は、流星魔法を使うイオだ。
実際には二度起きた隕石の落下――ミニメテオを入れれば三回だが――が魔法であるとは思っておらず、マジックアイテムか何かだと思っている者もいるかもしれないが……ともあれ、それをやったのはイオであると認識している者がいる可能性は十分にあった。
そうである以上、ソフィアとしてはまずイオを守る必要がある。
……本来なら、レックスがいるからイオが戦うようなことはないと思っていたし、何よりも自分たちの戦力なら敵をイオたちのいる場所に向かわせることはないと思っていた。
しかし、実際には抜かれてしまっている。
この辺りは、ソフィアのミス……というよりも、運が悪かった、もしくは暗黒のサソリの運が良かったのだろう。
あるいは、最初からもっと戦力がいれば、また話は別だったのかもしれないが。
とにかく、イオの存在が複数の勢力に知られたと判断した以上、ここの戦力を減らしてでもイオを守る必要があった。
幸いにして、ソフィアが参戦したことによりこの場の戦力は圧倒的に黎明の覇者が裕利となっている。
暗黒のサソリと黎明の覇者。この二つの傭兵団の違いは多数ある。
それこそ全体で見た戦力やランク、知名度、周囲への影響力。
そんな違いの中でも、最も大きな違いの一つが……団長が持つ戦闘力。
ガーランドも暗黒のサソリを率いているだけあって、その辺の傭兵よりは強い。
だが、ランクA傭兵団の黎明の覇者を率いるソフィアの持つ戦闘力は、そんなガーランドとも比べものにならないほどの強さを持っていた。
それが、現在の戦局に非常に大きな意味を与えている。
「ふざ……ふざけるなぁっ! 俺たちを舐めてるのか!」
暗黒のサソリの傭兵の一人が、苛立ち混じりに叫ぶ。
自分たちと戦っている最中に、戦力を引き抜く。
それは自分たちを侮っている……戦力を引き抜いても容易に勝てると、そのように思っているからこその行動で、気の短い者が集まった暗黒のサソリの傭兵たちにしてみれば、それは決して許容出来ることではなかった。
そんな怒りの声を聞きつつも、ソフィアは特に気にした様子もなく味方に指示を出す。
「イオを狙おうとする者がいたなら、すぐに排除するように。ここは……」
「お前ええええぇっ!」
自分の怒声を無視して部下に指示を出すソフィアに我慢の限界がきたのか、傭兵の一人が槍を手に一気に間合いを詰めようとするが……
「ソフィア様に何をするつもりだ!」
黎明の覇者の傭兵の一人が、一瞬にして走っていた傭兵のすぐ側まで移動すると長剣を振るい、脇腹を斬り裂く。
革鎧を着ていた傭兵だったが、黎明の覇者に所属する……それもソファと共に行動することを許可された実力の持ち主にしてみれば、そのくらいのことは容易に出来る。
「が……」
まさか、革鎧の上から切断されるとは思っていなかったののか、信じられないといったような表情を浮かべつつも、一声漏らして地面に倒れる。
ソフィアを攻撃しようとした者がどうなるか。
それを目の前で見せられた暗黒のサソリの傭兵たちは、しかしここで退くといったことはしない。
今のこの状況において、自分が退くというのを敵に見せる訳にはいかないからだ。
……いや、敵だけではなく、この場合は味方にも見せる訳にはいかない。
暗黒のサソリには多くの傭兵が集まっているものの、その大半は非常に攻撃的で気の短い者たちだ。
それだけに、もしここで誰かが退くような真似を見せれば、それこそ場合によっては仲間から攻撃されるといったようなことになってもおかしくはない。
そうして何人かがイオのいる方に向かって移動していく。
「さて、今の私の行動は不満らしいけど……それでどうするつもりなのかしら? 不満があるのなら、実力で示してみなさい」
槍を手にしてそう告げるソフィアの迫力に、暗黒のサソリの傭兵たちは思わずといった様子で数歩下がるのだった。
「見たか?」
黎明の覇者と暗黒のサソリが戦っている戦場から少し離れた場所。
そこにドレミナに所属する騎士団が待機していたのだが、そんな中で隊長が鋭く呟く。
先程、視線の先で再び隕石と思しき存在が降り注いだのだ。
隕石が降ってきたにしては、特に周囲に大きな被害があるようには思えない。
そう考えると、もしかしたら何らかの見間違いではなかったのか? と思わないでもない、
だが見間違いではないというのは、隊長だけではなく他の者達も多くの者が見ていることで否定されてしまっている。
「はい。……間違いなく隕石が降ってきましたね。しかし、その割にはあの巨大な骨のモンスターを倒したと思しきときとは全く違う感じでしたが」
副官のその言葉に隊長は厳しい表情で頷く。
「考えられるとすれば、あの巨大な骨のモンスターに隕石を落としたから、威力が弱まった。もしくは……降らせる隕石の大きさを自由に変えることが出来るのか」
前者であれば、隊長としては嬉しい。
しかし後者であった場合、何種類かの方法で隕石を降らせる方法があるということになる。
また、ある程度の短期間で隕石を降らせるというような真似が出来るとなると、それは隕石に関係している者、もしくは物を確保する身としては、色々と危険な事になりそうな気がしていた。
「どうします、隊長。もし続けて何度も隕石を降らせるなんて真似が出来るような相手だったら……暗黒のサソリでそれを完全に消耗してくれると助かるんですが」
「だからといって、そんな運に賭けるような真似は出来ないだろ」
当初は暗黒のサソリが倒されたのを見て、そこから騎士団で攻撃をするつもりだった。
もちろん、実際にそのまま攻撃をするとなると、色々と不味い。
最初は穏便に話し合いで交渉を持ちかけ……だが、黎明の覇者は当然のようにそれを断るだろうから、そこから実力行使といった流れでどうにかするつもりだったのだ。
いくら相手がランクA傭兵団である黎明の覇者であっても、現在暗黒のサソリと戦っているのは黎明の覇者の全員ではなく、限られた者たちでしかない。
だからこそ、もしそのような相手との戦いがあった場合……それは、全力を出せると思えないのだ。
それだけではなく、黎明の覇者の立場を考えてもドレミナの騎士団である自分たちと戦いたいとは思わないはずだ。
ドレミナの騎士団というのは、現在ドレミナを拠点としている黎明の覇者にしてみれば、出来れば敵対したくない相手なのだから。
そこまでして、その上でさらに隊長は戦いになっても自分たちは全力で戦うといったようなことをする訳でもなく、隕石を降らせているマジックアイテム、もしくはそれを持っている者を確保したら、すぐに撤退するつもりだった。
だが、その前提にあるのは当然ながら自分たちに隕石が降ってくるといったことがされないというもの。
そうである以上、相手がすぐにでも隕石を降らせることが出来たというのは、隊長にとって完全に誤算だったと言ってもいい。
……とはいえ、今の状況を思えばここで一体何をどうすればいいのかというのを、すぐに決める訳にもいかなかった。
(どうすればいい? この場合、最善なのは一体どういう行動だ? ここで下手をすれば、俺たちは間違いなく大きな被害を受ける。それだけは、絶対に避ける必要がある)
隊長は迷いながらも、最善の選択肢を考える。
だが、今のこの状況で最善の選択肢となると、それこそ戦わないでこのまま撤退するのが最善のように思えてしまう。
とにかく、隕石を降らせる相手がそれを連発出来る可能性があるというのが、色々な意味で不味い。
「いっそ撤退するか?」
「馬鹿を言わないで下さい! ……まぁ、気持ちは分からないでもないですが」
副官は隊長の言葉を真っ先に否定しながら、その気持ちは理解出来てしまう。
実際に自分の目で見ても、降ってきた隕石は脅威に思える。
思えるのだが、だからこそ現在の自分たちの状況や隊長の言葉を考えると迂闊に攻撃をするようにとは言えなかった。
「あの戦いに参加するのは、自殺行為に等しいと思うんだがな。……もしどうしても俺たちがあれをどうにかするのなら、暗黒のサソリが倒されてからまた他の傭兵団を突っ込ませるか……あるいは。他の勢力と一緒に襲いかかるか」
「後者がいいと思います。……ただ、また隕石が降ってくるとなると、私たちもかなり危険になりますから、その辺の注意が必要ですが」
「注意が必要って言ってもなぁ……」
降ってくる隕石を考えると、注意してどうにか出来るのか?
言外にそう告げる隊長の言葉に、副長は言葉に詰まるのだった。




