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才能は流星魔法  作者: 神無月 紅
異世界へ

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0061話

「隊長! ちょ……あれ! あれ見て下さい!」


 その言葉に、部隊を率いてる男は副官の指さす方向を見る。

 最初、それが何なのかは分からなかった。

 だが、よく見れば……それが巨大な骨であると理解出来る。


「……嘘だろ……」


 その骨を見た隊長と呼ばれた男は、うんざりとした表情でそう呟く。

 骨のある場所は、まだかなり離れている。

 だというのにその骨を見ることが出来るというのは、その骨がどれだけ巨大であるのかを示していた。

 本来、隊長と呼ばれている男は積極的な性格ではない。

 それこそ誰かに仕事を任せられるのなら完全に任せるといったようなことをしてもおかしくはない。……それどころか率先して行うような性格をしている。

 そんな隊長にとって、視線の先に存在する巨大な骨は厄介事の匂いしかしない。

 元々隊長は、ドレミナの領主に使えている騎士の一人だ。

 その面倒臭がる性格から、決して上司受けはよくないが……それでも一部隊の隊長という地位を任されるだけの活躍をしてきた人物。

 それだけに、上から……具体的には領主からの命令で隕石が落下した場所に向かい、それを起こした人物がいた場合は確保するようにと言われて行動に出ていた。

 隊長としては、出来ればそんな面倒な真似は他の部隊に任せたかったのだが……それでも上からの命令である以上、自分が行くしかないと判断したのだ。

 その結果として、予想した以上に面倒な事態に巻き込まれつつあるのは間違いなかった。


「これは……一度退いた方がいいんじゃないか?」

「何を言ってるんですか! あの隕石を落とした原因を突き止めてこいって言われるんでしょう!? それも、可能ならそれをやった奴を連れてこいって。なのに、私たちが一番に到着したのに、ここで撤退するなんてことはありえませんよ!」

「いや、けどさぁ……俺に入ってる情報が正しければ、俺たちよりも先に黎明の覇者が進んでいるはずだぞ? なのに、特に何が起きた様子がないってことは……つまり、そういうことなんだよ」

「どういうことですか! とにかく今は、少しでも早くあの骨のある場所に行く必要があります。あんな巨大なモンスター……何でドレミナからそう離れていないここに……」

「焦る気持ちは分かるけど、その巨大なモンスターを倒した存在があそこにはいるんだぞ? だとすれば、そんな相手と接触するのは危険だと思うんだがな」

「危険でもなんでも、それこそ黎明の覇者が先にいても、まず私たちが行動する必要があるんです」


 副官のその言葉には一理ある。一理あるのだが……このまま進めば、自分たちが最悪の目に遭うのはほぼ間違いないと思われた。


「向こうで何かあるか分からない以上、偵察が必要だとは思わないか? 向こうがどういう態度で出るのかを知っていれば、こっちもまた相応の態度を取れる。そう考えれば、俺たちよりも前に誰かを行かせた方がいい」

「ですから、それだとこちらの立場がないでしょう」

「立場と部下の安全のどちらを重視するかと言われれば、俺は部下の安全を取るね。それが俺の安全に繋がっているというのもあるし」


 上司のその言葉に、副官はもどかしい思いを抱く。

 自分たちの安全を考えてくれているのは嬉しいものの、だからといってこのまま誰かを先に行かせるのを許容出来るかと言われれば、その答えは否だ。

 特に、自分たちは可能な限り急いでここまで来た。

 だというのに、わざわざ自分たちよりも遅い者たちを先に行かせるような真似をしてもいいのか。

 そんな風に副官が悩んでいると、隊長は軽くその肩を叩く。


「いいか? 敵はあの巨大な骨を持つようなモンスターを倒すことが出来る連中だぞ? そんな相手がどう行動するのか……それは今のところ分からないだろう? もし敵対的な相手の場合、こっちが一方的に攻撃を受ける可能性もある」

「それは……」


 その隊長の言葉は、副官にとっても理解出来た。

 プライドと自分達の身の安全を考えた場合、後者を選ぶのは理解出来たのだろう。


「俺は部下を無駄死にさせたくないんだ。そんな訳で、休憩だ。……後ろからやって来てるのは、どういう連中だ?」

「たしかワシャダク商会に雇われている傭兵団、暗黒のサソリの筈です」

「ワシャダク商会の暗黒のサソリか。あそこは評判が悪いから、あのモンスターの骨を見れば、間違いなく噛みつくだろうね」

「噛みつきますか? 相手は黎明の覇者ですよ?」

「暗黒のサソリの評判が聞いた通りなら、間違いなく噛みつくだろう。そんな訳で、向こうとの接触は任せるとしよう」

「……分かりました」


 副官はまだ完全に納得した訳ではないのだが、それでも隊長がこう言うのならと、半ば無理矢理自分に納得させる。

 そして一番反対をしていた副官が隊長の言葉に納得した以上、他の者たちはこれ以上反対をするような真似はしない。

 そうして道の端に移動する。


「馬車が壊れた振りをするように。ただ意味もなく場所を譲っているといったように見られると、色々と問題がある」


 隊長のその指示に従い、馬車の車輪を破壊してしまったように見せかける。

 そうして待機を始めてから少しし……やがて後方から武装した集団が姿を現す。

 ワシャダク商会に雇われている傭兵団、暗黒のサソリだ。

 暗黒のサソリは、一瞬馬の勢いを止める。

 何故自分たちよりも先を進んでいた部隊がそこで止まっているのが分からなかったのだろう。

 だが、馬車の修理をしているように見えると、それを確認した傭兵たちは馬鹿にしたような笑みを浮かべる。

 傭兵たちにしてみれば、自分たちの前を移動していた部隊が馬車を壊して移動出来なくなっているのを見て、ざまあみろといったように思ったのだろう。

 あるいは、これでもう少し時間的に余裕があれば、馬車の修理をしているように見える者たちを馬鹿にするといったような真似をしたかもしれない。

 しかし、背後からはまだ他の部隊が追ってきているのだ。

 そうである以上、ここで無駄に時間を使うような真似をして自分たちが追い抜かれるといったようなことは避けるべきだった。

 結果として、傭兵団は馬鹿にしたような笑みを浮かべつつも、特に何かちょっかいを出すような真似をせずに通りすぎる。

 ……それでも何人かの傭兵は、騎士や兵士たちに向けて唾を吐きかけるといったような真似をしていたのだが。

 騎士だけあってプライドの高い者が多く、傭兵に向かって武器を構える者もいたが、それは仲間によって止められる。

 結果として、ワシャダク商会の雇っている暗黒のサソリは、そのままベヒモスの骨のある方に向かって進むのだった。






「ソフィア様、来ました」

「そう。……それで、一体どこか私たちに喧嘩を売ってくるのかしら?」

「あれは……暗黒のサソリですね。ランクC傭兵団です。ただ、噂によると意図的にランクを上げてないという話もありますが」


 部下からの報告に、ソフィアは笑みを浮かべる。

 その笑みは、女としての艶やかな笑み……ではなく、獲物を見つけた肉食獣の如き笑み。

 ただし、そんな笑みを浮かべるソフィアも凄絶に美しく、暗黒のサソリについての情報を持ってきた男は想わず目を奪われる。


「じゃあ、迎撃の準備をしましょうか。言っておくけれど、イオも……そしてイオたが倒したベヒモスの素材も、誰にも渡すつもりはないわ。向こうが力を振るおうとしてやって来るのなら、こっちも同じように力で対抗するわ」


 その言葉で我に返った男は、すぐに頷いて迎撃の準備を整えるように指示を出していく。

 そうしてベヒモスの素材の整理をしていた黎明の覇者は素早く戦闘準備を整えていく。

 その素早さは、歴戦の傭兵と呼ぶに相応しい。

 暗黒のサソリが至近距離まで近付いてきたとき、既に戦いの準備は完了していたのだから。

 そして……ベヒモスの骨からそう離れていない場所で、暗黒のサソリと黎明の覇者は向き直る。


「一体、何をしに来たのかしら? このベヒモスは私たち黎明の覇者が倒した相手よ。そうである以上、私たちからこれを奪おうとするのなら、相応の覚悟をして貰うわよ」


 槍を手に、そう告げるソフィア。

 古代魔法文明のアーティファクトの槍だと、暗黒のサソリに所属する傭兵たちは知らないだろう。

 だが、それでも何か理解出来ないような迫力を感じてはいるのか、何人かが思わず後ろに下がる。

 そんな中……三十代ほどの男が馬から下りて、前に出る。


「いえいえ、そんなに喧嘩腰にならないで下さい。俺たちは別に黎明の覇者と敵対するつもりでやてきた訳ではないのですから」

「あら、貴方がこの暗黒のサソリを率いている人物かしら?」

「ああ、はい。そうですよ。俺はガーランド。一応、この暗黒のサソリの団長をしている」

「あら、自己紹介されたら私も黙っている訳にはいかないわね。私は黎明の覇者を率いるソフィアよ」


 ガーランドも黎明の覇者を率いてるソフィアの名前は知っていたのか、少しわざとらしいくらいに驚きを露わにする。

 もっとも、黎明の覇者を率いるソフィアの美貌は広く知られている。

 そういう意味では、ソフィアが自己紹介するよりも前からガーランドはソフィアの正体は知っていたのだが。

 とはいえ、ソフィアも向こうが自分のことについて知っているだろうというのは予想していた。

 今回の一件で少しでも調べれば、餓狼の牙を倒すために黎明の覇者――正確には見習いたち――がギルドから依頼を受けたということはすぐ分かったはずなのだから。

 そうである以上、暗黒のサソリが黎明の覇者について知っているのは、間違いのない事実だった。


「これはこれは……まさか、戦場に咲く一輪の華とも呼ばれることがあるソフィアさんと会うことが出来るとは思いませんでした。ですが……こちらも、相手が強者だからといって譲る訳にはいかないんですよ。どうでしょう? お互いのためにも、色々と譲ってくれると面倒は少なくてすむのですが」

「あら、譲る必要がある? ベヒモスを倒したのは私たちのよ? なら、当然その素材は私たちのものでしょう?」

「それはそうでしょうね。ですが……いえ、ではこの光景を生み出した者をこちらに譲って貰えませんか?」

「さて、何のことかしら?」


 相手の言葉に、ソフィアは艶然と……それこそ男が口にしたように、戦場に咲く一輪の華のように笑みを浮かべるのだった。

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