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才能は流星魔法  作者: 神無月 紅
異世界へ

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53/178

0053話

 一度決断すると、ルダイナの行動は素早かった。

 少しでも早くベヒモスを倒す必要があるというのもあるのだろうが、それ以上に大きな意味を持つのは、イオの言ってる内容が事実なら本当にベヒモスを倒すことも出来るのではないかと、そう期待したのだろう。


「いいか! 幸い周囲は草原だ! 街道から逸れることになるが、馬車が走れる余裕はある! 俺たちはイオがベヒモスを倒すまで、何とかしてベヒモスをこの場所から逃がさないようにすることだ!」


 ルダイナの叫びが周囲に響く。

 同時に、それを聞いた者たちはやる気に満ちた……あるいは半ば自棄になったかのような叫び声を上げる。

 今の状況を考えれば、ベヒモスから自分たちは逃げられない。

 そうである以上、イオが使うという流星魔法に賭けるしかなかったのは間違いのない事実。

 ……だが、この部隊の者たちはイオが戦いにおいて素人であるというのを知っている。

 そうである以上、完全にイオを信じることが出来るかと言われれば、難しいところがあるのも事実だった。

 それでも今は、ベヒモスを倒す手段としてイオに頼るしかないのも事実。

 ……ドラインは、自分が嫌っているイオに頼りたくはなかったし、イオがベヒモスを倒すことが出来るというのも嘘だと思っていたが、それでも黎明の覇者に所属する者として今回の指揮官であるルダイナの言葉に従わないという選択肢はなかった。

 とはいえ、ルダイナの指示に従っているからといって、不満を抱かない訳もなく……馬車の中で、苛立ち混じりに口を開く。


「くそっ! 自分が目立ちたいからってふざけた真似をしやがって……ベヒモスの件が片付いたら、思い知らせてやる」

「ちょっと、ドライン。やめなよ。私たちが助かるには、あのイオって奴に期待するしかないんだよ? それに……あとで思い知らせるって言っても、あのイオってのがベヒモスをどうにも出来なかったら、私たちはどのみち終わりなんだから。それくらいは分かるでしょ?」


 ドラインの仲間は、当然ながらイオを馬鹿にしていた者の一人だ。

 だが、もしイオがこの状態で何も出来なかったりした場合、自分たちは死ぬ。

 それが分かっているからこそ、今はイオに何とかして欲しかったし、本人が口にしてるだけの実力はあって欲しかった。

 もしイオがドラインの言う通り、何の実力もない場合は自分たちにとって最悪の結末しか存在しないのだから。


「お前っ! ……ちっ、分かったよ」


 仲間の口から出たイオを庇う発言に、ドラインは半ば反射的にふざけるなと怒鳴ろうとし……だが、馬車の中にいる自分以外の全員の視線が向けられているのに気が付き、黙り込む。

 イオの存在が気にくわないと思っているのは、ドライン以外の者たちも同様だ。

 だが、この状況で生き延びるためには、どうにかしてベヒモスを倒す必要があった。

 ……あるいはベヒモスを倒すまでいかなくても、追ってくるのを諦めさせるような一撃を与える必要がある。

 今の状況において、それが出来る可能性があるのはイオだけなのだ。

 そう考えれば、ドラインもここで迂闊なことは口にせず、黙り込むしかない。

 ここでこれ以上何かを言えば、それは恐らく仲間に不満を与えるだけになるのだから。


(イオの野郎、俺たちにここまでさせておいて、実は倒せませんしたなんてことになったら覚えておけよ)


 口には出さずそう考えるドラインだったが、もしイオがベヒモスを倒せない場合は、ここにいる者の中でどれだけが生き残れるのかは分からない。

 ドラインは何があっても自分は生き延びるといった覚悟をし、何があってもすぐ対応出来るように準備を整える。

 とはいえ、現在は馬車が街道から外れて草原を走り回っているだけだ。

 もう矢も全て使い果たしてしまった以上、現在のドラインに出来ることは何もない。


「草原の中には岩とかがあるから気を付けろ!」


 馬車で走りながら、ルダイナの叫ぶ声が聞こえてくる。

 街道の上にも、小さな石は多数落ちている。

 しかし、その街道から外れた場所であれば、そこには小石ではなく岩がいくつも転がっている。

 もしそのような岩に馬車の車輪が引っかかってしまえば、車輪が破壊されて馬車として使い物にならなくなる。

 修理すればまた馬車として使えるのだろうが、それはあくまでベヒモスとの戦いがなければの話しだ。

 そうである以上、今この状況で車輪が岩によって壊されるというのは、その馬車に乗っている者にとって致命的な隙となるのだから、ルダイナが仲間たちに注意するように指示するのは当然の話だった。

 馬車の御者たちも、そんなルダイナの言葉は理解しているので、慎重に……それでいながら、ベヒモスに追い付かれないように注意しながら走り続ける。


「イオ! どうだ!」


 ルダイナがイオの乗っている馬車に向かって叫ぶ。

 その馬車の中では、イオが杖を手にして意識を集中していた。


(ゴブリンを倒したときのメテオは……いや、あのときはちょっと魔法の発動が遅かった。だとすれば、ベヒモスが近くにいるこの状況では使い物にならない。今は少しでも魔法を発動させる必要があるか)


 ベヒモスとの間合いが十分にある……それこそ、ゴブリンの軍勢を攻撃したときと同じくらいに離れているのなら、ゴブリンと戦った時に使ったのと同じ魔法でも十分効果はあるだろう。

 だが、現在のベヒモスは馬車のすぐ後ろ……とまではいかないが、ゴブリンのときと同じように距離が開いている訳ではない。

 そうである以上、やはりここはゴブリンと戦ったときとは違う魔法を使う必要がある。


(そして問題なのは、杖がこれ一本しかないことか。……盗賊の討伐隊の中に魔法使いがいれば、予備の杖もあったかもしれないけど。いや、最悪ベヒモスを倒せなくても、俺たちを追ってこられないようにすればいいんだ。そういう意味では、結構気楽に出来るはずだ)


 半ば自分に言い聞かせるようにしながら、イオは杖を手に意思を集中する。

 流星魔法は強力な魔法だが、派手であるというのと……何よりも、一度使えば杖が壊れるという欠点もある。

 あるいはゴブリンメイジが使っているよりも高品質な杖なら、壊れない可能性もあったが。


(結局この杖がどういう杖なのか分からないというのがな。……いや、今はそんなことよりもっと別のこと、ベヒモスを倒すことに専念しないと)


 自分の心臓とは思えないほどに高鳴っている心臓を意識しながら、イオは宣言する。


「魔法を使う。ルダイナさんにベヒモスを一定の範囲内から出さないように馬車を動かすように言ってくれ」

「分かった。……頼むぞ」


 仲間のその言葉に頷き、イオは杖を手にして口を開く。


『空に漂いし岩よ。我が思うがままにその姿を現し、我が前に立ち塞がる敵を滅ぼせ……メテオ』


 呪文が完成し、魔法が発動する。

 そして以前メテオを使ったときと同じように、イオの持っていた杖は砕け散った。

 いきなり杖が砕けたのを見て、馬車の中にいる者たちは驚愕の表情を浮かべる。


「お、おい、イオ……魔法は失敗したのか……?」


 男の一人が、半ば絶望の表情を浮かべながらイオに尋ねる。

 だが、イオはその言葉に対して首を横に振って否定した。


「いや、魔法は無事に発動した。あとは効果が出るまで待つだけだ」


 魔法そのものはゴブリンの軍勢を倒すときに使ったのと同じ『メテオ』という魔法だ。

 だが、呪文の詠唱を変えることにより、メテオの効果を多少変えていた。

 威力を犠牲にし、実際に降ってくる速度を増し、範囲を出来るだけ広げないように。

 とはいえ、それでもやはり流星魔法のメテオが発動しても、即座に効果を発揮する訳ではない。

 流星魔法はどうしても目立ってしまうということや、広範囲に被害を与えること。そして発動までに時間がかかること……といったように、欠点も少なくない。

 もっとも、それらの欠点を考えても十分に納得出来るだけの威力を持つのも事実だったが。


「イオ! まだか! まだなのか!」


 馬車の中でベヒモスの様子を見ながら、男の一人が叫ぶ。

 すでに馬車は草原の中で、ベヒモスを一定の範囲内から出さないように、同じ場所を走り回っていた。

 ベヒモスはランクAモンスターで、本来なら頭も相応にいい。

 それでも馬車が同じ場所を動き回っていることに疑問を持たないのは、イオたちに今の状況で何が出来るのかといった侮りを持っているからだろう。

 そのような侮りを持たれているのは、当然ながら傭兵たちにも理解は出来る。

 しかし、その侮りによって自分たちが助かるのなら、それに不満を抱いたりはしない。

 むしろ、それで生き残れるのなら侮られるのは望むところ思う者も多かった。


「魔法はもう発動した。あとは……魔法が発動するまで、ベヒモスを効果範囲から出さないようにするだけだ」

「くっ……分かった! おい、聞いたな! このまま逃げ続けていれば、俺たちは生き残ることが出来る! 絶対に生き残るぞ!」


 叫ぶ男の言葉に、馬車の御者も叫ぶ。


「分かっている! 俺たちはこんな場所では絶対に死なない! 何としても生き残ってみせる!」


 その言葉は、聞いている者に必死さを十分に理解出来るものだ。

 そうしてベヒモスが走って追ってくるのから馬車で逃げ回り始めた。

 馬車の中では皆が沈黙して時間がすぎるのを待っている。

 ここで何か口を開いて沈黙を破れば、それが最悪の事態に結びつくような気すらしていた。

 しかし……不意にそんな沈黙を破る一声が馬車の中に響く。


「来た」


 一体何が来たのか。

 イオの口から出たその言葉に、最初は馬車の中にいる者たちも理解出来ずにいた。

 しかし、イオが馬車の天井を見ているのを疑問に思う。

 あるいは馬車の上に何らかの敵がいるのか? と思った者もいたが、馬車に異常はない。

 異常があるのは……


「ちょ……おい。何か聞こえないか?」

「俺の魔法だ。……ルダイナさん! 全力でここから離れて下さい! 魔法が発動しました!」


 叫ぶイオの言葉が聞こえたのか、ルダイナが即座に同じ場所を回っていた動きをやめて、全ての馬車にその場から離れるように指示を出し……そして馬車がベヒーモスから離れたのを見計らったかのように、空から降ってきた隕石がベヒモスに命中するのだった。

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