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才能は流星魔法  作者: 神無月 紅
異世界へ

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0024話

 自分に向かって近付いて来る男に対し、イオはどう反応するのか迷う。

 近付いて来る男は、明らかにイオに対して敵意を抱いていた。

 その理由はイオにも分かる。

 先程まで会話していた、ウルフィへの態度が気にくわなかったのだろう。

 あるいは、それ以前にイオがウルフィと話してたことそのものが気にくわなかったのかもしれないが。

 見るからに敵意を剥き出しにしている男の様子に、イオは杖を構えようとするものの……


「止めるんだ」

「ウルフィさん!?」


 男がイオに近付くのを止めたのは、男がイオに向かって怒っていた最大の理由であるウルフィ本人だった。

 男がウルフィを尊敬しているのはイオから見ても明らかだ。

 それだけに、イオに詰め寄るのを当の本人であるウルフィに止められてしまえば、男もそれ以上は無茶が出来ない。


「ウルフィさん……」

「君が私のことを思って今のような行動をしているのは分かっているよ。けど、私はそのようなことは望んでいないんだ」

「でも、ウルフィさんにあんな態度を取ったんですよ!?」

「別に構わないだろう? 彼は傭兵でも冒険者でもない一般人なんだ。それにもし傭兵や冒険者であっても、別に私の仲間でもない。それに……別にそこまで気にするようなことはないと思うけどね」


 そう告げるウルフィは、事実イオの言葉遣いや態度をそこまで問題にしてはいない。

 むしろ、自分と気安く会話をしてくれる辺り、好感を抱いてすらいる。


「ほら、君も今はゴブリンの軍勢と星が落ちた件の情報を集めるためにギルドにいるのだろう? 私の相手をしている場合ではないと思うけどね」


 ウルフィのその言葉に、イオに近付こうとしていた男は渋々とではあるが頷く。

 自分の尊敬するウルフィにこうまで言われてしまえば、男としてもこれ以上は何も言えない。

 ……代わりに、男はウルフィから視線を逸らしてイオを強く睨み付けてから、その場を去っていく。


「すまないね」


 男が立ち去ったのを見て、ウルフィがイオに向かってそう頭を下げてくる。

 そんなウルフィに対し、イオは慌てて首を横に振る。


「いえ。そんな。そもそも、今回の件はウルフィさんが悪い訳じゃないんですから」


 これは大袈裟でも何でもなく、イオが心の底から思ったことだ。

 今のような状況でウルフィが責められるといったことは、普通有り得ない。

 もし責められるのなら、それは当然ながら先程イオに向かって怒鳴った男だろう。


「そう言って貰えると助かるよ。彼は……その、自分で言うのもなんだけど、かなり私を慕っていてね。以前ちょっと助けたことがあったんだけど」

「それで、ですか。……でも、ウルフィさんの様子を見る限りだと、それってかなり珍しいんですよね?」

「だろうね。普通は助けて貰ったからといってあそこまで慕ったりはしないんだけど」


 ふぅ、と憂鬱そうな様子を見せるウルフィ。

 ウルフィにしてみれば、自分を慕ってくれるのは嬉しいものの、だからといってやりすぎは困るといったところか。


(あの様子だと、俺に絡んできた以外も色々とやらかしてるんだろうし)


 何となくだが、イオはそう思えた。

 とはいえ、それをウルフィに言えば精神的なダメージを与えそうだったので、言うつもりはなかったが。


「それにしても、ウルフィさんってやっぱり有名人なんですね」

「そうだね。ソロでランクBの傭兵というのは珍しいし。大抵の傭兵は最初はソロでも、ある程度ランクが上がったり実力が上がってきたらどこかの傭兵団に入るか、あるいは自分で傭兵団を作るかといったような真似をするんだ」

「ソロの方が稼ぎは上に思えますけど」

「そうでもないさ。ソロと傭兵団なら、大きな仕事は傭兵団の方にいくしね。もちろん、ソロで活動していれば報酬を独り占め出来るという点では大きいけど、その代わり危険も大きくなる」

「ああ、なるほど。ソロだとその辺が危険ですよね」


 傭兵というのは、当然ながら戦いによって日々の糧を得る者たちだ。

 中には冒険者のようにダンジョンに潜ったり、モンスターを倒したり、場合によっては盗賊になったりといったような真似をする者もいるが。

 ともあれ、戦いで日々の糧を得ている以上、ソロの傭兵は個人で戦いに参加することになる。

 あるいは他の傭兵団に一時的に所属させて貰うか、他のソロの傭兵と一時的に手を組むといったこともあるのだろう。

 ただしそのような真似をした場合、当然ながら報酬を独り占めにするというソロ最大の特権を享受することは出来ない。

 本当に報酬を独り占めにするのなら、全てを自分だけでどうにかする必要があるのは間違いなかった。

 そしてソロでランクBにまで上がってきたということは、ウルフィはそれを出来るだけの実力の持ち主であるのは間違いない。


「でも、ウルフィさんはそんな危険な状況であってもどうにか一人でやって来たから、一人でランクBになれたんですよね? それは素直に凄いと思いますけど」

「ははは。そう言って貰えると嬉しいよ。ただ、私の場合は他の相手と一緒に活動するのが苦手という一面もあるんだけどね」

「……そうなんですか?」


 ウルフィの口から出た言葉は、イオを驚かせ、あるいは疑問を抱かせるには十分だった。

 イオから見た場合、ウルフィはかなり人当たりのいい性格をしている。

 ギルドの中に入ってきて、右も左も分からないといった様子のイオにわざわざ声をかけていることからも、その辺りは明らかだろう。

 そんなウルフィが誰か他の相手と一緒に行動するのが苦手だというのは、イオには信じられなかった。

 実際にこうして話していても、イオはウルフィの人当たりのよさを感じることが出来るのだから。


「ああ、そうなんだよ。それにしても……イオだったよね? 君はこれからどうするんだい?」

「どうする? どうすると言われても、まずは傭兵や冒険者がどういう人たちなのかを知りたいと思ってギルドに来たんですし」

「なるほど。……まぁ、杖を持っている様子からすると、イオは魔法使いなんだろう? なら、よほどのことがない限り、他の傭兵や冒険者には歓迎されるだろうね。それこそ、もしイオが優れた技量を持つ魔法使いなら、私も一緒に仕事をしたいと思うくらいだ」

「えっと、その……ありがとうございますと言った方がいいですよね?」


 ウルフィの言葉には多分にお世辞が入っているのだろうということは、イオにも容易に想像出来る。

 しかし、そのお世辞は見方を変えれば期待という一面もある。

 だからこそ、イオはウルフィのその言葉にも素直に感謝の言葉を口にすることが出来たのだった。

 そんな様子に、ウルフィはイオが何を考えているのかを理解したのだろう。

 小さく笑みを浮かべ、改めて口を開く。


「言っておくけど、私が口にしたのは本心だよ。魔法使い……それも腕の立つ魔法使いというのは、それだけ珍しい存在なんだ」

「え? その……しょ……本気ですか?」


 思わず正気ですか? と尋ねそうになったイオだったが、咄嗟に何とか言葉を変える。

 色々と自分に親切にしてくれたウルフィに対して、まさか正気ですかといったようなことは言えなかったのだ。


「本気だよ。イオにはあまり実感がないようだけど、魔法というのはそれだけ大きな意味を持つ。それこそ、場合によっては戦局を逆転させる切り札になったりもするんだ」

「そうですね」


 ウルフィの言葉に思わず納得してしまったのは、イオの使う流星魔法がまさにその典型だからだろう。

 空から落ちてくる流星による一撃は、それこそ一軍を相手にしても自分たちには被害がないまま、一方的に殲滅することが出来るのだ。

 そうである以上、ウルフィのその言葉は真実でしかない。

 実際にゴブリンの軍勢を一方的に殲滅したイオだけに、その言葉の意味は十分に実感があった。


「分かって貰えたようで何よりだよ。それで、イオは傭兵や冒険者として活動するかどうかは、まだ分からないのかな?」

「そうですね。今は少し前に知り合った傭兵団に世話になっていますから、すぐにどうこうするといったようなことはしなくてもいいんですけど」

「傭兵団に? もしよければ、どこに世話になっているのかを聞いてもいいかな?」


 ウルフィがそのように尋ねたのは、もしかしたらイオが悪質な傭兵団にかかわっているのかもしれないと思ったからだ。

 傭兵団の中には、質の悪い者たちもかなり多い。

 イオに分かりやすく言うのなら、黒き蛇のような傭兵団が特にそうだろう。

 もしイオがそのような傭兵団にかかわっているのなら、出来るだけどうにかしてやりたいと思ったのだ。

 それだけ、短い会話ではあるがウルフィはイオに好感を持ったのだろう。


「黎明の覇者ですね」

「……は?」


 だからこそ、イオがそう口にした瞬間、ウルフィの動きは止まる。

 いや、動きが止まったのはウルフィだけではない。

 イオやウルフィの周囲で話を聞いていた他の者たちもまた同様に動きを止めていた。

 ランクA傭兵団、黎明の覇者。

 その名前は当然多くの傭兵団に知られており、多くの傭兵にとっては憧れの存在でもあった。

 いつか傭兵として名前を上げて黎明の覇者に入団したい。

 そのように思っている者も、決して少なくないだろう。

 だからこそ、まさかイオの……それこそろくに鍛えているようにも思えない男の口から黎明の覇者の名前が出たことに驚いたのだろう。


(あれ、もしかしてやらかしたか?)


 レックスとの一件で黎明の覇者のネームバリューがもの凄いことは知っている。

 だが、レックスの場合は最初から傭兵に憧れを持っており、だからこそ黎明の覇者に食いついた……と、そうイオは思っていた。

 だからこそここで黎明の覇者の名前を出した途端、驚かれるのはともかく、周囲が静まりかえるといったようなことになるはイオにとっても予想外だったのだ。


「一応言っておきますけど、別に俺が黎明の覇者に所属してる訳じゃないですよ? ちょっとした問題があって、そのときに黎明の覇者に助けて貰ったというだけで」


 嘘ではないが、本当でもない。

 そんな内容を、慌てて口にするのだった。

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