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才能は流星魔法  作者: 神無月 紅
異世界へ
122/178

0122話

 イオとレックスは、適当に周囲の状況を見て回ることにした。

 そんな中でまず向かったのは、ベヒモスの骨がある場所。

 ある意味でここに集まっている者たちの中心地とでも呼ぶべき場所。

 イオやレックスにしてみれば、ベヒモスの解体を行っている。

 そういう意味では、ここに来るのは初めてという訳でもない。

 しかし、ベヒモスを解体したときと今では周囲に多くの野営地が作られているという点で大きく違っていた。


「こうしてみると、やっぱり随分と違って見えるな」

「そうですね。僕たちがあれだけ頑張って解体をしたのが、嘘のような気がします」


 レックスの言葉で、イオはベヒモスの解体をしたときのことを思い出す。

 メテオによって下半身は素材として使い物にならなくなっていたとはいえ、ベヒモスの巨体を考えれば上半身だけでも十分に巨大だ。

 その上、ベヒモスもモンスター……生き物である以上、死体になったまま時間が経過すれば、素材の質が落ちる。

 強力な魔力を持っているモンスターである以上、そうすぐに腐るといったことはないのだが。

 それでも永遠に腐らない訳ではない。

 あるいはドラゴン……それもただのドラゴンではなく、エンシェントドラゴンと呼ばれる古竜の類であれば、それこそ数年単位で放っておいて腐らないだろうが。

 ベヒモスは強力なモンスターなのは間違いないものの、それでもそこまでの格を持つモンスターではない。

 その為に、イオたちは必死になってベヒモスを解体した。

 とはいえ、そのおかげでベヒモスの肉を好き放題に食べることが出来たのだが。

 強力なモンスターの肉というのは、かなりの高値で取引をされている。

 それがベヒモスほどのモンスターともなれば、それこそ黎明の覇者に所属する傭兵であってもそう簡単には食べられないだろう程に。

 そのような肉ではあるが、放っておけば当然だが悪くなる。

 腐るまでには時間があるが、当然味は落ちる。

 また、馬車に詰め込むにしても明らかにベヒモスの肉の量の方が多い。

 それだけ極上の肉である以上、それこそ動物やモンスターが肉を欲して襲ってくる可能性もあった。

 そのようなことをして肉が失われるのなら……と、盗賊の討伐に来た者たちは、それこそ腹一杯になるまで……いや、場合によっては腹が一杯になってもう食べられなくなってでも、無理に肉を押し込むといったように食べて、食べて、食べまくった。

 イオにとっては天国だったのか、小食の者たちにしてみればとてもではないが天国と呼べるような状況でなかったのも事実。

 ベヒモスの肉が美味いだけに、もっと食べたいと思っても腹が一杯で食べられないといった者もいれば、せっかくのベヒモスの肉なのだから、吐いてでも食べろと言われた者もいた。

 もちろん、ベヒモスの肉を吐き出すなどという真似が許されるはずがないのだが。

 そんなやり取りは、実際にベヒモスの肉を食べたイオにしてみれば何だかんだと非常に楽しいものだったのは間違いない。


「そう言えば……結局食べきれない肉ってどうしたんだ?」


 夕食、朝食……場合によっては夜食も含めてベヒモスの肉を食べたイオたちだったが、それでもまだ持ち帰ることが出来ないような肉は結構な量が残っていたはずだった。

 その肉はどうしたのかと、そう尋ねるイオにレックスは少し考えながら口を開く。


「僕が聞いた話だと、ある程度はこっちに寝返った勢力に渡すそうですよ」

「ああ、素材として肉を渡すのか。いやまぁ、それが一番いいのは分かるんだけどな」


 この場合の一番いいというのは、黎明の覇者にとっての話だ。

 肉が余っているのだから、その肉を渡すというのは決して間違ってはいない。

 渡された勢力……主に傭兵団の方がどう思うのかは、イオには分からなかったが。


(けど、傭兵団とかそういう勢力が欲しいのは、あくまでもベヒモスの素材とからしいけど。それこそ牙とか爪とか)


 肉も一応何かの素材としては使えるだろう。

 しかし、やはり一般的には食材としての一面の方が強い。

 もちろん伝手があれば、ベヒモスの肉なら相応に高く売れるのは間違いないだろう。

 純粋に美味い料理を食べたいと思う者や、他の貴族に対する見栄といったように。

 だが……それはあくまでも伝手があればの話だ。

 そのような伝手がない者の場合、自分で売る相手を見つける必要がある。

 一応ギルドでも買い取ってくれるが、その際の値段はそこまで期待出来ない。

 ギルドにとっても、扱うのが得意な商品と苦手な商品があるのだから。


「あ、ほら。イオさん。向こうを見て下さい。ベヒモスの骨の護衛をしてる人がいますよ」


 レックスの示す方向を見ると、そこには数人の傭兵と思しき者の姿。

 それを見たイオだったが、少し疑問を抱く。

 ベヒモスの護衛をしているのが、イオにとって見覚えのある相手ではなかったからだ。

 イオも黎明の覇者全員の顔を覚えてる訳ではないにしろ、盗賊の討伐として一緒に行動した者たちの顔くらいは覚えている。

 また、ベヒモスにメテオを使った一件でやって来たソフィアに引き連れられている者の顔も……全員ではないにしろ、それなりに覚えていた。

 しかし、ベヒモスの骨を護衛している者の顔は間違いなく初めて見る相手だ。


「なぁ、あれって……黎明の覇者の傭兵じゃないよな?」

「多分。僕も黎明の覇者の傭兵の顔を全員分覚えている訳じゃないですから」


 そんな風にイオとレックスが会話をしていると、やがてベヒモスの骨を護衛していた者たちもイオたちの存在に気が付いたのだろう。

 少し慌てた様子でやってくる。


「駄目だ、駄目だ。ベヒモスの骨には迂闊に近付かないでくれ!」


 そう言ってきたのは、熊の獣人の男。

 イオも平均的な身長ではあるのだが、そんなイオと比べても明らかに大きい。

 二メートルを少し越えたくらいの背の高さを持ち、熊の獣人と一目で分かるくらいの筋肉があった。


「えっと、僕たちは黎明の覇者の傭兵なんですけど。貴方は違いますよね?」


 レックスの言葉に、熊の獣人の表情が変わる。

 この場から追い払うべき相手という認識から、どういう用件でここに来たのかの話を聞くべき相手へと変わったのだ。

 あるいは内心では黎明の覇者の傭兵だと認識していない可能性もあったが……イオを見て表情を引き攣らせたのを見れば、恐らくイオが流星魔法を使うところを見たのだろう。

 具体的には、魔剣を研究している女に渡すためのミニメテオを使ったときか。


「あ、ああ。俺はその……あれだ。黎明の覇者に降伏した傭兵団に所属していた奴だよ。黎明の覇者に要請されて、ベヒモスの骨の警備をしてるんだ。新しくやって来た連中の中には、骨の一部でもどうにかして奪おうとする奴がいるし。俺たちの中にもそういうのがいるから、人のことは言えないが」


 そう言い、困ったように笑う熊の獣人。

 いや、本人は困ったように笑っているのだろうが、熊の獣人だけあって強面のためか、獰猛な笑みを浮かべているように思えてしまう。

 それでも言葉から自分たちに敵意はないのだろうことは理解出来たので、イオもレックスも特に怯えた様子はない。


「そうなんですか。お疲れさまです。……こっちに来たときの様子からすると、そういう人は結構多かったりするんですか?」

「そうなんだよ。しかもこのベヒモスの骨は落ちてるんだから、自分たちがそれを拾ってもいいだろうと、無茶なことを言ってくる奴もいる」

「うわぁ……」


 まさに、それはうわぁ……としか言いようがない。

 イオたちが倒したベヒモスの骨を、地面に落ちているからという無理矢理な理由で持っていこうとするのは、正直どうかと思う。

 一人そういうのを認めると、他の者もそれに続く。

 そして止めると、他の奴はよかったのに何故自分は駄目なのかと言う。

 だからこそ、そのような真似をするのは全員を防ぐ必要がある。


「大変ですね」


 レックスもまた、イオの言葉に同意するようにそう告げる。

 レックスにしても、熊の獣人のやっていることはかなり大変だというのは容易に想像出来たのだ。


「分かってくれるか。そんな訳で、黎明の覇者に所属するお前たちでも出来ればあまりベヒモスの骨に近付かないで欲しい。お前たちなら本来は構わないんだろうが、護衛をしている奴の中にはベヒモスの骨にちょっかいを出してくる奴に苛立ってる奴がいるからな」


 余計な面倒が起きないようにするためにも、出来ればあまり近付かないで欲しい。

 そう告げる熊の獣人に、イオとレックスは特に反論もなく同意する。


「分かりました。じゃあ、別の場所に行きますね」

「迷惑をかけて申し訳ありませんでした」


 特に何か理由があってベヒモスの骨を見に来た訳ではないので、素直に移動する。

 それを見て安堵する熊の獣人

 もし短気な者がイオに喧嘩を売った場合、最悪隕石を落とされる可能性があるかもしれないと、そのように思っていたのだろう。

 イオが使っているのかどうかはともかく、実際にメテオによって隕石が降るのは何度も見ている。

 それだけではなく、イオが実際にミニメテオを使うところも見ていたので、イオとの問題は出来れば起こして欲しくなかった。


「ふぅ……」


 イオとレックスが立ち去ったのを見て、熊の獣人は安堵の息を吐く。

 外見こそ強面だし、傭兵をやっているのを見れば分かる通り荒事にも慣れている。

 そんな熊の獣人だったが、今の自分の状況を思えばイオたちと揉めるというのは絶対に避けるべきことだった。


「お疲れさんだな」


 そう声をかけてきたのは、熊の獣人とは少し離れた場所でベヒモスの骨の見張りをしていたドワーフの傭兵。

 熊の獣人とは違う傭兵団に所属する身だが、黎明の覇者に降伏したという点では同じだ。

 また、戦場を共にしたということもあり……何より酒の趣味が合う相手なので、この二人は友好的だった。


「ああ。まさかイオがやって来るとは思わなかったよ。わざわざここを見に来たりといったような真似をしなくてもいいと思うんだが」

「まぁ、そこまで気にするな。特に問題も起こさないでくれたんだし。……ただ、そうだな。今日はちょっといい酒をご馳走してやろう」


 友人のそんな言葉に、熊の獣人は嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。

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