心頭滅却せねば、鼻曲がる
前回のあらすじ
・ナイン用の装備、影装『黒衣』のおひろめ
・三人でフンコロガシを倒しにいこう
「それじゃ、行ってきますっス!」
そうと決まればと言わんばかりに準備を済ませた私達は、日が落ち始めた時間に、共有作業場を後にしようとしていた。
魚人戦のために準備していたポーション類が余っていることもあって、そこまで準備に時間もかからず、当日に行けそうだったのだ。
「ナイン」
しかし、いざ向かおう! と思っていた私達の後ろから、抑揚の薄い呼び声がかかる。
その声に立ち止まり、後ろへと振り替えると……予想通りの、カリンさんがそこにいた。
「なんっスか? 装備ならいい感じっスよ」
「ん、心配してない」
「そ、そっスか」
「……この、あいだ、意地悪して……ごめんなさい」
たどたどしくも紡がれた言葉と共に、カリンが頭を下げる。
その姿に、私とケートは顔を見合わせて苦笑し……ナインはよく分からないというような顔をしていた。
うん、だろうね。
「なんなんスか? よく分からないっスけど……意地悪された記憶がないっスよ! だから、気にしないでくださいっス!」
「……でも」
「むしろ、自分の方が頭下げる立場っスよ! ありがとうございますっス! 予想以上の装備で、お礼が足りてなくて申し訳ないっス!」
「にゃはは。ま、当事者のナイン君がそう言うなら、そうなのかもしれんけどにゃー。それでも一応、リンの謝罪を受け入れてあげて欲しいぜ。それだけで、相手からすると楽になるもんだからにゃ」
笑ってそう言うケートにナインは「そういうもんなんスか? なら、了解っス。謝罪してくれて、ありがとうございますっス」と、笑って見せる。
そんなナインに、カリンは小さく頷いて、「行ってらっしゃい」と手を振ってくれた。
「はい、行ってきますっス!」
「いくぞー、フンコロガシ退治だー」
「……全然気が乗らないんだけど」
「にひひ」
□
「そういえば、フンコロガシって太陽神の化身とかって話があるっスよね」
「そうなの?」
「だぜー。転がしてるフンを太陽に見立てて、太陽をせっせと運んでる姿からそう言われてるって話だにゃー」
「創造力豊かな人たちっス」
そういうことじゃないと思う。
でも、フンを太陽に見立てるって……フンはフンだと思う。
臭いし。
「しかし、改めて見ても……暗殺者だにゃー」
「そうね」
「これから夜になるけど、見失いそうだぜ」
「間違えて斬ったらごめんね」
「怖いっスよ!?」
そんな緊張感のないやり取りをしつつ、荒野を東へ進んでいけば……辺りはどんどん暗くなっていく。
街から離れているからか、辺りには全く明かりがなく、頭上に輝く星や月が、とても綺麗に見えた。
「そういえば、リンから教えてもらったけど、サボテン座とかあるらしいにゃー」
「サボテン座って……謎すぎるでしょ」
「星座って、この世界にもあるんスね」
「だにゃー。方位とかを調べるのに使えるかもしれんし、またしっかり調べとかないとにゃー」
北極星とか、そういったやつのことだろうけど……。
それ、必要になることってあるのかな?
「にしし、必要になるかどうかは分からなくとも、必要になることがあった時に使うためには、前もって知っておく必要があるんだぜ」
「……それはそうだけど」
「だから、無知よりは知っておく方が良い。でも、それに固執しすぎないようにするのも大事ってにゃー」
「似たような話を前もしたわね。考えないよりも考える、でも考えすぎるよりも考えないだっけ?」
「大正解にゃ」
にひひと笑うケートにため息吐きつつ、周囲へと意識を集中させる。
ちなみに、ナインは「勉強になるっス……!」と、感動していた。
……感動するよりも、周囲を探って欲しい。
「……しかし、変な臭いしないっスか?」
「時間的にはそろそろ出現してるはずだし、変な臭いもするかもしれないにゃー」
「ってことは、この臭いの先に、いるってことかー」
つ~んとした、なんとも言えないすえた臭いに、鼻の頭を指で押さえつつ周囲を探る。
すると、特に臭いのキツい方から、のしのしと音をさせて、大きな岩が近づいてきた。
……違う、これ岩じゃない。
「ふ、フンだにゃー!」
「こいつ、めちゃくちゃ臭いっスよぉ!?」
距離にして十数メートルは離れているはずなのに、あまりの臭さに顔をしかめてしまう。
うぇ……臭ぁ……。
「とりあえず、距離を保ちながら、臭いに慣れるまで観察で」
「これ、慣れれる臭いっスかぁ……?」
「鼻が曲がりそう。ケート、これはちょっと」
「ひひっ、鼻が曲がるのが先か、慣れるのが先か、だぜ」
いや、笑ってごまかそうとしてるけど、引きつってるし。
ゲームだから、吐いたりはしないけど……むしろ、吐いた方が楽になれそうな気もする。
でも……アレに近づかないといけないのかー。
「嫌だけど……やってみるしかないか」
「へふナはん、もうなれはんスあ?」
「……鼻つまみながら話されると、何言ってるのか分かんないんだけど」
「す、すみませんっス! ……うぇっ」
じろりとナインへ目を向けて言えば、ナインはすぐさま鼻から手を離す。
しかし、直後に顔をゆがめ、嗚咽を漏らした。
覚悟が足りんよ、覚悟が。
「心頭滅却すれば、火もまた涼しって言うでしょ? だから、精神を落ち着ければ、周囲のことには惑わされなくなるよ」
「いや、このメンバーでそれが出来るのは、セツナくらいだと思うにゃー」
「そう? でも、ケートももう大丈夫みたいだけど」
「ま、ケートちゃんは天才だからにゃー。……先んじて確認しに来た時に、ある程度慣らしただけだぜ」
少し遠くを見て話すケートに、私はなんとも言えず、そっと目をそらした。
そんなこんなで、ナインが大丈夫になるまで、私達はとにかく観察を続けたのだった。
……しかし、大きいなー。
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名前:セツナ
所持金:105,040リブラ
武器:居合刀『紫煙』
防具:戦装束『無鎧』
所持スキル:【見切りLv.4】【抜刀術Lv.15】【幻燈蝶Lv.5】【蹴撃Lv.8】【カウンターLv.10】【蝶舞一刀Lv.11】【秘刃Lv.2】【符術Lv.3】
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