たどり着いた景色
前回のあらすじ
・魚人が変形した
・卑怯極まりない勝ち方
side.カリン
朝早くにミトからポーションを受け取りに寄ったケート達を見送り、私は机の上に並んだ『紫の染色液』にため息をついた。
正直、ここまで難航するとは思ってもいなかったのだ。
しかしその甲斐あって、『黒の染色液』に最も適した『紫の染色液』の配合を見つけることが出来ていた。
「ただ、それでも成功率は13%なんですけどね……」
「仕方ない」
「はい! 後は私の集中力次第ですし、お昼までには作り上げます!」
「ん」
ふんすっ! と気合いを入れるミトに頷いてから、私は自分の作業に手をつける。
外套は染色液が完成してからになるものの、それ以外の装備はすでに完成している。
が、シリーズ装備というのは、すべて揃った上で、さらに統一感というのが求められるもの。
なればこそ、それぞれが完成してからが本当の勝負なのだ。
「……ん」
ナインのスタイルを模して作ったトルソーに装備を纏わせ、私はじろじろと確認していく。
全体イメージだけでなく、上からや下からなどなど、可能な限りの位置から確認していく。
「ん、良し」
装備のコンセプトも明確に分かるし、それぞれの品質も、今できる最高のものになったと思う。
あと考えておかないといけないのは……名前くらいかな?
「ナイトメア。ナイトメア……」
ナイトメアの意味は悪夢。
しかし、ナインは悪夢というよりも……頭が痛い感じだ。
セツナが苦手なのはよく分かる。
「……あっ」
そんな風に脱線しつつ考えていれば、ミトの声がして、直後にパリンと軽い音が響く。
どうやらまだ成功はしないようだ。
「まだまだ。……っよし!」
しかしめげることなく、ミトはまた次の融合へと取りかかる。
……すごい人だと思う。
あの日、ミトが吐き出した言葉は、私にも共感できた叫びだった。
憧れに追いつきたくて頑張るけれど、一向に追いつけず、その距離ばかりが遠くなっていく……そんな感覚。
進んでいるはずなのに、まるで自分だけが置いて行かれているような気すらしてしまうのだ。
何かを作る。
その道は果てが無く、道があるのかさえおぼろげだ。
けれど、確実なことは……諦めず、作り続ける者だけが、先へと進むことができるということ。
だからこそ、ミトのように、苦しくても戦い続ける人が、一番向いている。
……カッコいいよ、ミト。
私も負けてられないって思うくらいに。
「ん」
とはいえ、ナインの装備に関して、今私に出来ることはない。
ならば、次の製作に取り掛かるとしよう。
□
呪符のホルダーとだけ言えば、そう難しくはないものの……あの装備にマッチさせようとすると、難しいものがある。
そもそも、セツナの装備である戦装束『無鎧』は、完全近接戦闘向けであり、余計なモノを排除した、分かりやすい装備になっていた。
それだけに、何かを付け足そうとすると、合わせるのが難しくなるのだ。
「……中?」
ならば服の内側か、と思いつつも、そうすると今度は取り出す手の問題が出てくる。
セツナのことだから、ケートの教えもあって、刀を片手に発動することもあるはず。
しかし、そうなってくると、両手共に取りやすい位置でなければならず……ぐぬぬ。
……いっそのこと、左右と後ろの腰周りに草摺でもつける方が楽かも知れない。
さすがに佩楯まではいらないにせよ、草摺兼任の呪符ホルダーなら、編み方次第でなんとかなるかも?
「……ん、それでいこう」
そうと決まれば、まずは型を作ろう。
と思い至った直後、「で、出来た!」という、ミトの声が耳に飛び込んできた。
「ミト?」
「か、カリンさん! 出来ました! これでどうですか!?」
私の声に振り返ったミトが、染色液の入った瓶を片手に、勢いよく近づいてくる。
その勢いに押されつつも、ミトの手にある染色液の品質を確認すれば……確かに消音効果付き『黒の染色液』と表示された。
「ん。問題ない」
「ほ、本当ですか!?」
「ん」
「良かった……。それじゃあ、カリンさん。お待たせしました」
言って両手で差し出された『黒の染色液』を受け取り、「任せて」と私は頷いてみせる。
そうして、ミトが見守る中、私は布を漆黒に染め上げ、型を抜き出し、縫い上げていく。
外套は、身を隠すことだけを考えたシンプルなローブだ。
だからこそ、難しくはない反面、抜き出しや縫い合わせには技術がいる。
適当にやってしまうと、生地の織り方向の違いから、違和感を感じやすくなるのだ。
「ん。完成」
「は、早すぎですよ……。でも、綺麗です!」
「ん」
他の装備を纏わせていたトルソーへ、最後の仕上げと言わんばかりに、私は漆黒の外套を纏わせる。
その完成度に、自分の腕が上がっていることを実感し……「ん」と、頷いた。
「影装『黒衣』」
「完成、です?」
「ん、完成」
ミトの問いに強く頷いた私に、ミトは「完成おめでとうございます!」と笑顔を見せてくれた。
そんなミトへ、私は手を差し出し……「ありがとう、ミト」と口にする。
ミトはそんな私の手を取って、「こちらこそ、ありがとうございました」と頭を下げた。
「ん」
「あはは……少し照れちゃいますね」
「……?」
「だって、カリンさん。すごく嬉しそうな顔してますから」
私、そんな顔をしてたのか。
……でも、今くらいはそんな顔をしてても許される。
だって、実際……嬉しいのだから。
「ミトのおかげ」
「え?」
「嬉しい、のは、ミトのおかげ。だから、ありがとう」
たったそれだけの言葉を伝えることも、私にとっては珍しいことで……でも、だからこそ、今伝えておきたかった。
言葉にしなくても伝わる気持ちはあるけれど、言葉にして伝えたい想いがあるから。
だから、ありがとう、ミト。
「はい。ありがとうございます、カリンさん」
そう言ったミトの声は、少しだけ震えていて。
私はそんなミトを、ギュッと抱きしめたのだった。
『イーリアス西エリアボスモンスター、サッハギーンが初討伐されました。討伐者はセツナさん、ケートさん。討伐者には、初討伐成功報酬と、討伐の証として、称号“イーリアス西エリアの覇者”をお送りいたします』
……。
むう。
□
第三章『“伝わるといいな”なんて思うだけじゃきっと、気持ちの欠片さえも、君には届かない』了
これにて、第三章『君には届かない』が終了になります!
いつも通りの幕間を挟み、第四章『ボタン』を開始しますー!
□
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