失敗で埋めていく溝
前回のあらすじ
・消臭液の値段が決まった
・東のボスがふんころがし……
side.ミト
ケートに消臭剤を渡してから、ゲーム内で一日が経過し……カリンの作るナイン用装備の試作が終了した。
後は本素材で実際の装備を作り上げるだけ……。
しかし、それにはまだ材料が全て揃っていなかった。
「すみません、カリンさん。染色液の完成が遅れてて……」
「問題ない。あとは?」
「外套用の黒系染色液です。消音の効果が付けたいんですが」
「了解」
一言そう言って、カリンは背を向けて作業を始める。
取り出した型を見るに……外套以外から手をつけてくれるらしい。
つまり、他が完成するまでに頑張ってほしいってことみたいです。
「私もやらないと!」
パンッと両手で頬を叩き、素材を並べ、ひとつひとつ処理を行っていく。
忍者やカリンに教えてもらったところ、黒色の染料というのは、厳密に言えば存在しないものらしい。
それでも黒い布が存在するのは、紫なんかの色を濃くしていくことで作り出している……とか。
だからこそ、基本となる素材は紫の染色液と同じく、紫色をした植物の根っこ。
これを細かく切り、鍋の中でグツグツと煮詰めていく。
「煮詰めたあとの汁を器に移して、これと同じことを何度か繰り返す……」
切っては煮詰めて、汁を移す。
それを何度も繰り返し、全部で10個の『紫の染色液』が完成した。
「ここからは【錬金術】で、二つの染料を融合。色の数値を濃く出るように変更して、効果に消音を……あっ」
やっている最中に、またパキンッと音が響き、染色液が消失していく。
そう……ここが一番の難関。
数値を大きくいじればいじるほど、強い効果を加えれば加えるほど、成功率は低くなっていく。
だからこそ、生産プレイヤーの掲示板でも、『黒の染色液が一番難しく、作れるだけでもすごい』という話だった。
「でも、だからって……それで満足はしていられないんです」
チラッと背後を見れば、カリンが真剣な顔で装備を作り上げていく。
その顔がまさに魂を込めていると言わんばかりの熱を帯びていて、私はグッと気合いを入れ直した。
「まだまだ素材はあるのです!」
二つを並べてまた【錬金術】で重ね合わせる。
立ち上がったウィンドウを操作して、数値を合わせ、効果をいれていく。
今度こそ成功を……と思ったところで、またしてもパキンッと失敗時の音が響き、染色液が光となって消滅していった。
ぐぬぬ。
「先に黒色と消音効果のついた染料を別々で作ってしまって、そこからさらに融合させる……? でも、それだと効果がどの程度残るかわからないし、効果と数値を最大で残したままにするなら、結局難易度は変わらないから……」
結局のところ、紫の染料を2つ使って作る方が、コストとしてはかからない。
だからこうして作っているけれど……難しい。
「失敗ばっかりしてても【錬金術】のレベルが上がるのは、ちょっと憎らしいですね……」
何度も何度も紫の染色液を作っては消失させてを繰り返し、気づけばLv.5だった【調合】と【錬金術】のレベルが、両方ともLv.8に上がっていた。
確かに経験は積んでますけど。
「そう言えば以前、セツナさんが確か……」
『補助スキルだから技がないと思っていたスキルに、技が生まれてたんだよねー』
『【蹴撃】ってスキルなんだけど、効果は“蹴りの効果が上がる”って書いてあるだけ。ね、補助スキルって感じでしょ?』
『でも、ちゃんと調べたら、乱脚とか二連脚とかって技があったんだよねー。ビックリしちゃった』
「って、言ってたような……。もしかして」
考えるよりも見てみた方が早い。
そう思って、私はスキルウィンドウを開き、【調合】スキルと【錬金術】スキルの詳細を開いた。
「あっ! やっぱり!」
「……?」
「あ、いえ、あの……生産スキルにも、戦闘スキルの技みたいなものが追加されていたので」
「ん。……知らなかった?」
さも、“当然では?”という顔で首を傾げるカリンに、私は自分の顔が赤くなったのを感じた。
えええ……知ってたんですかー?
「【鍛冶Lv.8】、『鍛練眼』」
「えっと、詳細には……鉄を鍛える時に、叩くべきポイントが分かりやすくなる、ですか?」
「ん。でも使ってない」
「使ってないんですか!?」
驚く私に「ん」と、何事もないように頷くカリン。
ケート風に言うなら……これだからリアルチートは……というやつなのでしょうか?
「あくまで補助。でも使っていい」
「えっと、あくまでも補助だから、使わなくても良いけれど、私みたいに、このゲームで初めて生産に携わるなら、使ってみた方が良い。ってことですか?」
「ん。大正解」
「なるほど。スキル技の補助を使って、少しずつ覚えていくのが良いかもしれませんね。ありがとうございます、試してみます!」
「ん」
私の答えにカリンはしっかりと頷いて、ポンポンと頭を撫でて背を向ける。
え、え?
えっと……カリンに撫でられました?
それに、今ちょっとだけ、笑って?
「あ、えっと、がんばらないと……」
気合いを入れたものの、頭の上に乗せられた手の感触と、一瞬だけ見えた表情が、なかなか脳裏から消えず。
……気づけば私は、そこから十数回ほど失敗を繰り返したのでした。
ど、どうしよう。
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