弦を弾いて煙に巻く
「その、すごいな。二人とも」
「ええ……ちょっとお姉さん驚いちゃった」
ざわざわし始めたなかで、グレン達が私とケートの方へとやって来て、歯切れ悪く言葉を紡ぐ。
なにがどうなってこの状況なのかわからず、ケートの顔を見れば……ケートは意地悪げに、にししと笑っていた。
うわぁ……。
「とりあえず、ケートちゃんなんだけど……あの威力はなに? 『スパイラルシュート』は【風魔法】のLv.5で覚えられる魔法なのは知ってるけど、あのフォージピルバを一撃は無理なはずでしょ?」
「にっひっひ、そこは秘密なのだー」
「まあ、そうよね。でも、一撃かぁ……ウォール系の練習しておかないと不味いかもね」
イチカが同じ魔法使いとして、ケートに質問してみても、当のケートはお口チャックで取り合わない。
まあ、楽しげに笑ってるから、お口は開いてるけど。
ちなみに、フォージピルバが巨大ダンゴムシの正式名称らしい。
なんだかカッコいい名前だなー、ダンゴムシなのに。
「セツナさんは、その……居合い、なのか? うちのメンバーにも刀を使うやつはいるが、居合いはスキルアシストされてないって聞いてたんだが」
「ええ、まあ。基本的には居合いですね」
「刀身がカッコいいから、見せられなくて勿体ないんだけどにゃー。まあ、一瞬閃くのも、それはそれでカッコいいんだけどもねー」
「その、良かったら刀身を見せてもらえないか? ああ、情報はロックで見えないようにしてくれていいから」
グレンの申し出に、私はケートにチラッと目配せをして……ケートの許可が出たのを確認してから、刀を抜く。
ちゃんと設定で情報を見えないようにしてから、紫煙をグレンへと手渡した。
もちろん、持ち逃げ不可にはしてるので、もんだいなしなし!
「無銘で、号は紫煙」
「これは……すごいな。見ただけで業物と分かる一品だ」
「紫煙っていうのは、刃の色と刃文の形からかしら。綺麗な薄紫をしてる」
「ああ、これはアイツが見たら涎を垂らして欲しがるだろうな。っと、ありがとう。良いものを見せてもらった」
満足したらしいグレンから紫煙を返してもらい、鞘へと納める。
私達とは別のトッププレイヤーから絶賛されてたって、あとでカリンに伝えておこーっと。
「さてさてー、セツナー。そろそろ行こっかー」
「ん? 行くって、どこに?」
「とりあえずは換金かにゃー。その後は、ちょっと茶でもしばこうぜい!」
「はいはい、行こっか。では、グレンさん達、またイベントで」
キリッとした顔でナンパみたいな言葉を吐くケートに苦笑しつつ、グレン達に軽く会釈する。
そして「お手を拝借、姫」と、ケートが差し出した手を取って、空いた手で頭に手刀を落とした。
人がいっぱいいるところで、変なこと言わないの!
□
「で、なんで急にお茶?」
イーリアスの街に帰ってきたところで、私は隣を歩くケートにそう訊いてみた。
あまりに急だったし、それにグレン達も呆気に取られてた感じだったし?
「んー? あのままあそこにいたら、もっとたくさん情報が漏れそうだったからにゃー。元々の目的は、セツナに私以外の魔法使いを見せることだったし、それは最初の時点で終わってたからにゃー」
「それもそっか」
「ま、イチカさんもトッププレイヤーだから、参考にするのはちょっと違うかもだけどねー。大多数の魔法使いは、もっと発動に時間かかるものだしにゃー」
……そうなの?
イチカさんの魔法発動は、たぶん起動から3秒足らずくらいだったはず。
まあ……3秒もあれば、全然近づけるんだけど。
「セツナに覚えておいてほしいのは、魔法のイメージ開始と同時に、魔法陣は展開開始されるってことだぜい。私の場合は、ほぼノータイムだから発動と同時に出てる感じだけど、普通は違うのにゃ」
「えっと……?」
「弓みたいなものと思うと良いかもね。ほら、弓って射つ前に、矢をつがえて弦を引くでしょ? 魔法の発動も同じで、まず起動そして、発動って感じなんだにゃー」
えーっと、つまり……弓の場合は、射る時は矢をつがえて弦を引くという、タイムラグが発生する。
それが魔法でも同じで、魔法を放とうと思うと、イメージ開始から、魔法陣完成までにタイムラグがあるってことかな?
「タイムラグがあればセツナは十分近づけるだろうし、近づけなくても、相手の集中を途切れさせれば発動は止められる。それくらいはセツナならできると思うしにゃー」
「んー……うん、方法は考えておくよ」
「うむうむー。戦術と戦略はどれだけ考えておいても問題ないよ。考えないよりも考える。そうしておけば、いざというときの助けになるし。……まあ、選択肢が増えるから、選択をミスらないようにはしないといけないけどねー」
考えないよりも考えた方がいいけれど、考えすぎて動けないなら、考えない方がいいっていう話?
むむむ……そういうの苦手なんだけどなぁ……。
「あはは。まあ、いろいろ言ってるけど、セツナはセツナらしくが一番だよ。そんなセツナだったから、私が一緒にいれるんだし」
「ほえ? どういうこと?」
「なんでもなーいよ。んー、アルテラのエルマンに行こっか。イーリアスはなんかガッツリ系が多いし」
そう言ってイーリアス中心広場のゲートに向かうケートの後を、私は追いかけたのだった。
なんだろ……圭、ちょっと変?
いや、いつもおかしいけど。
□□
side.カリン
「ん?」
「カリンさん? どうかしました?」
「ん、少し」
作業場で装備を作っていた私は、針を置いて、生産スキルに付随している設計ウィンドウを開く。
そして、思い付いたイメージを簡易的に書き出した。
「えっと、カリンさん。これって」
「可能?」
「……人のいないリアル深夜時間に確認するだけなら」
「ん。了解」
ミトの言葉に頷いて、私は回復ポーションを飲み干す。
苦い、すごく青臭くて苦い。
「べ、別に飲まなくても、中身だけ捨てればよかったのでは……?」
「ダメ。成果」
「えっと、私が作った物だから、捨てるのはダメってことですか?」
「ん」
人が作ったもの……例え中身が必要ないものだったとしても、捨てることはやってはいけない。
それは、なにかを作る立場として、絶対に犯してはいけない禁忌。
そのことを忘れた瞬間、私は作るということの本質を忘れてしまうから。
あ、飲まずに別の容器に移しておいてもよかったかも……ぐぅ。
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名前:セツナ
所持金:12,290リブラ(+5,010)
武器:居合刀『紫煙』
防具:戦装束『無鎧』
所持スキル:【見切りLv.1】【抜刀術Lv.14】【幻燈蝶Lv.3】【蹴撃Lv.6】【カウンターLv.8】【蝶舞一刀Lv.8】
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