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短編集  作者: アーエル
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最後の3分間~卒業~



「ねえ。今度の卒業旅行、楽しみだね」


「そうだねー。でも、そのあとは進学や就職でみんなバラバラなんだよね」


「大人になったら、もう会えなくなるのかな」


「そうだね・・・。地元就職組の私たち以外、みんな地元を離れちゃうんだよね」


「それでもさ。こんな風にまたみんなで集まって会おうよ」


「じゃあ『成人式』かなー」


「正月は?」


「んー。どうだろう。私の場合、『接客業』だから・・・」


「でも正月休みは取れるよね?」


「都会でカレシ作ったら、正月でも帰ってこないでしょ」


「ムリムリ。仕事を覚えるのに精一杯でカレシなんて作ってるヒマないって」


「じゃあ。今度からは毎年お正月に集まろっか」


「いいねー。それ」


「カレシや旦那や子供が出来ても、その時だけは置いてきてよー」


「自慢話もノロケ話もナシね」





今日は私たちの通ってた高校の卒業式だった。

送られたのは私たち。

卒業式に出ていた両親はすでに『卒業証書』と共に帰宅した。


この制服を着るのも、

この高校に近い駅で『お喋り』して何本も電車を乗り過ごすのも、


今日が最後。






「1番線、特急が通過します。白線の内側までお下がりください」



この特急を見送って、次が急行。

1時間に1回。

1番線と2番線、同時刻に急行がホームに入って来る。

そして線路に挟まれたホームに立つ私たちは、その急行に分かれて乗車し、同時刻にホームを離れて各々の家路へと向かう。


・・・それも今日が最後。





近付いてきた特急が、

甲高いブレーキ音を轟かせて、

ホームに『入って』きた・・・・・・





「速報です」



病院の待合室で、無機質に響く『事故』を伝えるアナウンサーの声。

時間が経つにつれて増えていく『情報』と『被害者数』。



駅の真横にある踏切で、無理な進入をしたために線路にはみ出していたトラックの荷台と特急が衝突した。

ホームや踏切の直前にあるカーブで、トラックの発見が遅れたのだろう。

線路からはじき飛ばされた特急は脱線。

横転して制御不能のままホーム端のスロープを上り、ホームに『直接』入っていった。

トラックの方も、特急と衝突した反動で弾き飛ばされ、渋滞中の車や周辺の商店街や買い物客を次々となぎ倒して被害を拡大させた。



「なお、事故当時はホームに女子高校生5人がおりましたが・・・」

「彼女たちは自身の通っていた高校の卒業式に出た帰りで・・・」





乗員乗客を含めてたくさんの死傷者を出した『あの事故』以降、ホームは踏切の反対側へ移動して『高架式』となった。

その後に駅の隣に出来た商業施設と一体化した。

事故を起こした踏切は封鎖されて、代わりにアンダーパスが出来た。




あれから10年。

今でもあの頃と変わらない、少女たちの楽しそうな笑い声がホームから聞こえる。



「ねえ。今度の卒業旅行、楽しみだね」


「そうだねー。でも、そのあとは進学や就職でみんなバラバラなんだよね」


「大人になったら、もう会えなくなるのかな」


「そうだね・・・。地元就職組の私たち以外、みんな地元を離れちゃうんだよね」


「それでもさ。こんな風にまたみんなで集まって会おうよ」


「じゃあ『成人式』かなー」


「正月は?」


「んー。どうだろう。私の場合、『接客業』だから・・・」


「でも正月休みは取れるよね?」


「都会でカレシ作ったら、正月でも帰ってこないでしょ」


「ムリムリ。仕事を覚えるのに精一杯でカレシなんて作ってるヒマないって」


「じゃあ。今度からは毎年お正月に集まろっか」


「いいねー。それ」


「カレシや旦那や子供が出来ても、その時だけは置いてきてよー」


「自慢話もノロケ話もナシね」




『彼女たち』は毎年、今は無きホームで『あの事故までの3分間』を繰り返す。

未来への期待や不安を胸にいだいていた『あの頃』を。






そして

今年も『その日』がやってきた。


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