ユウリョウ(有霊)物件、手に入れました! 2
一日飲まず食わずっていうのはなかなかつらいものです。
さて、最後にお知らせがあります。
翌日俺は何よりも真っ先に銀行に向かった。
「真っ先に」と言ったが実は途中に近所の公園で手洗い場の水を飲んだのは内緒だ。
トイレの水じゃないからな!?勘違いすんなよっ?
公園で喉は潤せたが体の節々は痛むし、腹も減りすぎて痛い。額は痛くない。
銀行で用件と名前を告げたらやはり区役所の時と同じ反応、同じ対応で即座に発行を
してくれるとの事だった。
「良かった…。発行に1週間とか1ヶ月かかるって言われたら完全に野盗になってた」
順番待ちの空間に置かれたソファーにもたれながら天井を見上げる事しばし。
「逢沢様、お待たせいたしました。その……どうぞこちらへ…」
と前髪を七三に分け、ピシッとスーツをきめた細身の男が移動を促してきた。
「あ、はいはーい」
これでやっとお金が引き出せる…と足取り軽く七三についていった。
連れていかれたのは応接室と書かれたプレートが掛けられた部屋だった。
「………ぇ?」
何でこんな豪華な部屋に?確認の為に尋ねようとしたが
「どうぞお掛け下さい」と七三に勧められて座ってしまう。
うわ、このソファーさっきのソファーと比べ物にならないくらいふかふかだ!
座った直後、女性行員がお茶をテーブルの上にそっと置いてくれた。
凄いレベル高い接客だなあ。こんなの初めてだよ。
「逢沢様」
「は、はい」
「申し遅れました。私、この和平銀行の支店長をさせて頂いております、志知と申します。」
そう言って恭しく名刺を両手で渡して来る。
「ど、どうも…」
つられて俺も両手で名刺を受け取る。
「逢沢様、今回の当行の不手際、誠に申し訳ありませんでした」
言って直角に体を折り曲げて謝罪する七三、いや志知さん。
「あ、いえ、大丈夫ですんで…」
「当行員のミスで逢沢様の個人情報と資産の紐づけが上手く出来ておりませんでした
現在二度と同じ事がないように原因を究明中です。誠に申し訳ありませんでした」
原因も何も、それはもう神の御業なので究明は出来ないと思います。はい。
「いえ、大丈夫なので…」
「カードと通帳の紛失と事でしたが、カードは後日の発送となりますが、通帳は今再発行中でございますので…」
「通帳があれば、現金を下ろせますよね?」
俺の質問に目を大きく見開き、硬直する志知さん。
「かっ……かかか可能ですが、ほ、本日おろ…下ろされますでしょうか…?」
ん?何か肩震えてない?いや声は確実に震えてるけど。
顔色も良く無いな。
「そうですね。下ろしたいなぁと思ってます。どうしても下ろしたいんで」
こっちは一円も持ってない訳だからな。この銀行が最後の砦だ。
いや、よく考えてみたらもしかしたら近くの他の銀行にも口座ってあるんじゃないか?
親父も分散して銀行に預けてたし。
と、空調が効いていて暑くはないのに志知さんがハンカチで額の汗をぬぐう。
細身だけど暑がりなんだろうか。
「そっ…その、何とか今一度お考え直し頂けませんでしょうか……?」
「何をですか?」
「ご預金の引き下ろし…を……です…」
何を言っているのかこの男は。
ただでさえ俺は昨日一円なしで半野宿を強いられたんだぞ?!
空腹のせいか、苛々してきた。
「いえ、お金は出しますよ!ここがダメだったら他の銀行にも行きますけどね!」
怒気混じりの俺の声に志知さんがビクっと跳ね上がり再びペコペコと頭を下げる。
「申し訳ありません!申し訳ありません!!厚かましい事を申しました!」
と。
コンコン…
「は、入って下さい……」
ドアのノック音に、志知さんがか細い声で入室を促す。
「失礼致します…」
先ほどお茶を持ってきてくれた女性がトレイに通帳を乗せて入ってきた。
その通帳を受け取った志知さんは名前を金額が間違っていないことを確認すると
「どうぞ。こちらが逢沢様の通帳となります……」
と両手で渡してきた。
「どうも」
ひったくりたい衝動を抑えて片手で受け取ると、何の気なしに通帳を開く。
そこには自分の名前と口座番号が書かれていた。そして―――――
「………は?」
間抜けな声が出た。
¥4,000,000,000
……ん?
志知さんの顔見る。
志知さんの笑顔が固まっている。
数字をもう一度見る。
¥4,000,000,000
いち、じゅう、ひゃく……よんじゅうおく。
四十億!!!!?
「あ、ああ…俺の…ですね?」
さきほどの志知さんと逆転し、俺の声が震える。
「は、はい…左様でございます…」
志知さんの声も震えている。
「そっ、そうですよね。うん、俺の金です……」
おいぃ前所有者…!!
あんた何やって稼いでたんだよ。
「今回当行の不手際で逢沢様には大変不愉快な思いをさせてしまった事、
大変申し訳なく思っております……。」
「ですが、即日全額を引き下ろすとなりますと…他支店や本店からも集金を
しないといけない為…何とぞ御容赦を……」
ええ?!全額!!?
俺40億も下ろさないよ?
あぁ、そうか……
今の話でやっと理解できた。
銀行の不手際で不信感を覚えた俺が預金を下ろしに来たと思ってたから
これだけ泣きそうな顔で謝罪してたのか……。
志知さんのストレスと心労は半端なかっただろう。
「あ、いえ、全額は下ろしません。元々そんなつもりではないので」
志知さんを安心させてあげよう…。
「ほ、本当ですか…?」
驚いた顔で志知さんがおそるおそる尋ねてくる。
「はい。今日は百万程、必要になったので下ろしにきただけで…。
それなのにカードも通帳もなくすというミスを…はは……」
「そう……でしたか……。それはそれは……」
志知さんの表情が安堵のせいで緩む。
さっきまで壊れかけのロボットと話をしているようだったのが嘘のようだ。
「というわけで、100万円準備してもらえますか?」
こうして俺はようやく現金を手にする事ができたのだった。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
見てくださっている方には感謝でいっぱいです。
さて、このラノベですがラノベっぽくないのかなぁ、と自分で思いまして。
簡潔に言うとくどすぎたかな?と思いました。
なので同作品ですが、もちっと皆様に入り込んでもらえるように
軽量化したいと思います。
そちらの方もご愛読いただければ幸いです。
それでは。