庭付きユウリョウ物件、手に入れました。1
女神様とイチャラブ(妄想)パートも終わり
いよいよ新世界の扉を開いた(物理的に)訳ですが。
「ふごぉぉぉ……」
思わず変な感嘆の声が出てしまったが俺の目に映ったのが
とてつもなく広い庭園だったのだから仕方ないと思う。
天気は快晴。雲一つない青空に煌々と輝く太陽。
玄関から外門まで石畳が敷かれ、敷地を囲むように
背の高い鉄柵が伸びており、外からの来訪者を拒んでいる。
あ、今のは柵と檻をかけたんじゃないからな?
「これ、どんだけ面積あるんだよ……」
少し歩いてから振り返ると、俺が居た洋館もそこそこ大きかった。
後で館内も散策しよう。
時折吹く風が涼しくて心地よい。
外に出て分かったんだが、やっぱり洋館は埃っぽい空気だったんだな。
今吸っている空気が清々しく感じる。
「しっかし……ここもかぁ……」
長い年月放置されていたのは祖父の家と同じらしい。
腰くらいまで伸びた雑草が至る所に生い茂っていた。
しばらく庭を散策した結果分かった事だが
庭の広さは洋館5~6個分はあった。
洋館の裏手には山ほど高くはないが雑木林の丘に
なっていて、そこに柵はなかった。
って事はもしかして俺の私有地?他人の山?
うーん、分からん。
とりあえず敷地の散策に結構時間を費やしてしまったが
とりあえず館に戻るとしよう。
2019年 3月 26日 15時 30分
館に帰ってから俺は気づいてしまった。
庭の散策なんかしてる場合じゃねぇ!と。
「まずは落ち着いてこれからの事を考えよう」
もちろん誰に言った訳でもない。静寂に耐えかねて発した独り言だ。
まず、この家はだだっ広い庭も含めて俺の家だ。
所持品は電波が圏外のスマホとフローリングワイパー。
しかもワイパークロス(布)が無いから
ただのアルミの棒切れに成り下がっている。
こいつのせいで俺が並行世界に来てしまったんだ。
と、罪のないフローリングワイパーに罪をかぶせてみる。
―――…ら……い…―――
「ん?」
かすかに声が聞こえた気がした。
「(誰だ……?)」
ピタリと動きを止めて呼吸を静かに、聴覚に全神経を研ぎ澄ます。
……
静かに首を動かして目の動きだけで周囲をうかがう。
……
しばらくその状態で音の発生源を探ろうとしたが
結局どこから聞こえたのか分からない。
「め、女神様~……?」
俺の呼びかけは空しくホールに吸収されただけで
誰からも返事はない。
「……まさか……」
俺はフローリングワイパーに目を落とす。
「冤罪に怒りを覚えたフローリングワイパーが自我を……」
フローリングワイパーを凝視するが、リアクションを返してはくれなかった。
うーん。
「……これが「狭間を通った影響」なのかなぁ?」
女神様が言っていた。
世界の狭間を通った影響で身体に異変や特殊な感覚が
備わっているかも知れない、と。
「ピロン♪――感覚、「幻聴」を取得しました」
誰も教えてはくれないので、自分で無機質な声で言ってみた。
「……いや、もうこんな事してる場合じゃないってば」
幻聴が聞こえたせいで思案を放棄してしまっていたが、
今しなければいけない事は何なのかをしっかり考えるべきだ。
「えーと、まずは家はあるが、金がない。」
通貨の単位や紙幣・硬貨は前の世界と同じかも知れないし
変わっているかもしれない。
その点については現在無一文なので悩む必要はない。
悩みがあるとすれば貨幣を獲得する為に銀行もしくはそれに代わる
金融機関に行かなければならない事だ。
通帳の名義や金額等の文字や記号は変えられないと言っていたので
通帳やカードは再発行しないといけないだろう。
幸い俺という人間はこの世界に生きていると都内限定で認識はしてもらえそうなので、
それは銀行に行けば……。
うん?その時って身分証とか必要なんだろうか?
身分証となると…免許証とか保険証?
免許証は免許センターでもらえたけど…。
この時になって初めてそれらは全て両親にまかせっきりだった事に後悔した。
聞きたくてもその両親はこの世界にいない。
ネットで調べたくてもスマホは圏外。
「……役所…、市役所に行けば教えてくれるだろう……」
で、役所はどこにあるか、だ。
「…道行く人に聞くしかない……」
役所は夕方5時までのはず。
スマホの画面が示している時刻がこの世界でもその通りなら……。
「後一時間半しかねえ!!」
とりあえず今の目標は何らかの身分証明書の獲得。
その為には役所に行く。
それがないと金融機関でお金が下ろせない。
カチカチと頭の中でしなければならない事の道筋が組み立てられた。
現実世界でも並行世界でも、そして異世界でも。
生きるためにはお金が必要なのだ。
「とりあえず、急いで家から出て誰かに役所の場所を聞こう…!」
そして俺は全速力で洋館を飛び出した。
2019年 3月 26日 18時30分
俺は今、洋館に四つん這いになっている。
そう…まさにorzの状態だ。
まず、役所だが区役所が洋館から歩いて20分の所にあった。
有難う、名も知らぬお婆ちゃん。
次に役所の人に身分証みたいな書類の発行をお願いした所
最初は「何言ってるんだろうこの人…」みたいな顔で対応されたのだが
俺が「逢沢利剣」である事を伝えた途端、ほんの一瞬視点が定まらない瞳になった。
かと思うとすぐに元に戻り、慣れた手つきでパソコンで検索を始めた。
何度か検索をしていたが結局見つからなかったらしく、「少々お待ち下さい」
とだけ言い残し席を外して上司に報告していた。
しばらくすると上司と担当が戻ってきて
「申し訳ありません。役所の手違いでデータを削除してしまったみたいです。
すぐにデータの再入力を行いますので情報をお教え下さい。誠に申し訳ありません」
とぺこぺこと平謝りされた。
元よりデータなど存在していないので削除も何もないのだがそれを言っても
仕方ないので謝罪を受け入れて情報の入力をしてもらった。
こうして俺は役所で住民票なる書類をゲットしたのだ。
ちなみに免許証の再発行は運転免許センターか警察署で発行してもらえる事を教えてもらえた。
女神様に感謝しつつも記憶操作って凄いなぁ、と感心した俺。
軽い足取りでいよいよ通帳の再発行を、と銀行に向かったのだが…。
銀行の窓口は15時までだった。
こうして俺は住民票という食えない書類を片手にとぼとぼと洋館に戻って来て今に至る。
「夜露が凌げる家があるだけ…マシか…」
日も暮れ、館内は真っ暗。
「あぁ……銀行もだが、電気、ガス、水道も契約してねぇぇぇ……」
後で悔やむから「後悔」と書く。
空腹と喉の渇きと肌寒さに耐えながら、今晩はこのホールで一晩過ごす事になりそうだ。
お金がない、ってマジ辛い。
明日は銀行に行って、ライフライン各種を契約して……スマホを契約しよう。
後は館の掃除もしないといけない。
貯金がどれくらいあるのか分からないが、家具・家電も必要になるだろう。
免許証も発行せねばアルバイトも出来ない。
こうして俺は人生初の野宿を経験するのだった。
リアルに描写したらこうなった。
後悔はしまくっているがあえて言おう。
後悔はしていない。(キリッ)